日清食品の創業者・安藤百福 10月から百福の妻をヒロインに朝ドラ開始

よく知られているように、インスタントラーメンの生みの親は台湾出身の安藤百福(あんどう・ももふく)。この10月、NHKの連続テレビ小説『まんぷく』が始まり、百福の妻・仁子(まさこ)をモデルにしたヒロイン番組だという。

 本誌でも黄文雄氏による安藤百福伝をお伝えしたことがあるが、「文春オンライン」がライターの近藤正高(こんどう・まさたか)氏による「インスタントラーメン60歳! “生みの親”安藤百福、無職からの大発明」を掲載しているので下記に紹介したい。

 近藤氏があげている参考文献には、「カップヌードルの謎を追って」と題して安藤百福を取り上げた野嶋剛氏の最新著『タイワニーズ』が入っていない。野嶋氏は台湾まで出かけ、麺がほぼ乾燥状態になる油で揚げる「瞬間油熱乾燥法」の由来を探っている労作だ。併せて読まれたい。

————————————————————————————-インスタントラーメン60歳! “生みの親”安藤百福、無職からの大発明朝ドラ『まんぷく』10月スタート近藤 正高(ライター)【文春オンライン:2018年8月25日】http://bunshun.jp/articles/-/8741

 きょう8月25日は、「即席ラーメン記念日」である。これは、いまから60年前の1958(昭和33)年のこの日、日清食品(当時の社名はサンシー殖産)が即席麺「チキンラーメン」を発売したことに由来する。

◆“百福の妻”がヒロインの朝ドラ『まんぷく』

 お湯を注げば3分でできるチキンラーメンを発明したのは、日清食品の創業者・安藤百福(ももふく)だ。この10月よりスタートするNHKの連続テレビ小説『まんぷく』では、百福の妻・仁子(まさこ)をモデルにしたヒロイン(演じるのは安藤サクラ)が、夫(同、長谷川博己)と失敗を繰り返しながらインスタントラーメンを生み出すまでを描くという。

 事実、安藤百福の人生も成功と失敗の繰り返しであった。1910(明治43)年、当時日本の統治下にあった台湾に生まれた百福は、幼くして両親を亡くし、呉服屋を営む祖父母に育てられた。祖父を手伝いながら商売を学んだ彼は、22歳で独立、メリヤス販売で成功を収める。やがて大阪で繊維の問屋業務を始め、事業を拡大していく。戦時中の物資統制下では繊維の仕事はやりにくくなったが、バラック住宅の製造や軍需工場の経営など、新たな事業に取り組んだ。しかし、軍需工場で資材を横流ししているとの罪を着せられ、憲兵から拷問を受けたこともある。

◆逮捕、無一文から即席麺を開発

 終戦後もさまざまな事業を興したが、脱税容疑による逮捕(すぐに釈放)、さらに理事長を務めていた信用組合が破綻し、それまで築いた財産を失う。大阪府池田市の自宅にこもった百福が、再起を期して着手したのが即席麺の開発だった。戦後の食糧難のなか、食の大切さに気づいた彼は、かねてより食に関する仕事への転身を考えていたという。麺づくりを選んだのは、闇市に出かけた折、飢えた人々が屋台のラーメン屋に並ぶ光景が強く記憶に残ったからだ。

 自宅の庭に建てた10平方メートルほどの小屋を研究所にして、丸1年、休みなしで開発に没頭する。開発にあたり課題となったのは保存性と簡便性の両立。これを実現するのに、ヒントとなったのが、台所で妻のつくる天ぷらだった。

 天ぷらのように高温の油で揚げた麺は、水分が抜けて無数の穴が開く。熱湯を注ぐと、その穴からお湯が吸収されて、麺がすぐに柔らかさを取り戻し、手軽に食べられるというわけだ。

 油で揚げることによって、麺はほぼ乾燥状態になり、長期保存も可能となる。「瞬間油熱乾燥法」と名づけられたこのつくり方は、即席麺の基本的な製法特許となった。

◆国内販売よりもアメリカからの注文が早かった

 即席麺は1958年の春ごろにはほぼ完成する。試作品は、家族総出で梱包し、あちこちの知人に配ると好評を得た。貿易会社の知人に頼んでサンプルをアメリカに送ると、さっそく注文があった。チキンラーメンはじつは国内販売のめどが立つ前に、輸出されていたのである。

 この年8月25日に発売するにあたっては、大阪市内の古い倉庫を工場に改装し、量産された商品が売れるかどうかを実験するテストプラントとした。ある日、工場を手伝っていた妻の仁子が家に帰る途中、会った友人から「いまご主人は何をされてますか」と訊かれたので、「ラーメン屋さんです」と答えた。これに相手が驚いた様子を見せたので、仁子は少しムッとしながら「主人は将来必ずビール会社のように大きくなると言っています」と説明したが、結局、理解してもらえなかったという。

 百福が問屋に持ち込んだときも、「いままでの乾麺とどう違うのか」と反応は芳しくなかった。だが、いざ店頭に並ぶと、消費者からの評判は上々で、たちまち問屋から注文が殺到する。やがて総合商社も販売に名乗りを上げた。

◆「ダイエー」とCMで全国に広まっていく

 こうなると小さな工場では需要に応じきれない。百福はすでに本格工場のための敷地を大阪府高槻市に入手し、建設に着手していた。翌59年に完成した工場には連日、商品を待つ問屋のトラックの列が取り巻くようになる。問屋には発売当初より現金決済を徹底したため、工場用地の購入代金は、わずか1ヵ月の売り上げでまかなえたとか。

 折しも高度成長期に入ろうとしていた時期だ。ちょうどチキンラーメン発売と同じ1958年には、スーパーマーケット「主婦の店ダイエー」のチェーン1号店が神戸に開店し、大量販売のルートが開かれた。また、開局まもない民放テレビでCMを盛んに流し、チキンラーメンの名は全国に広まっていく。これらを追い風に、チキンラーメンは大ヒット商品となったのである。

◆長寿の秘訣は週2回のゴルフ&1日1度のインスタントラーメン

 安藤百福はその後、1971年に発売したカップヌードルにより、さらなる市場を開拓する。「創業者に定年はない」がモットーだった百福は、95歳で取締役を退任し「創業者会長」という名誉職となってからも毎朝会社に出勤した。長寿の秘訣として彼があげたのは、週2回のゴルフと1日1度のインスタントラーメンの食事。毎日昼食時にはチキンラーメンを吸い物代わりにしたり、中にご飯を混ぜ「チキンリゾット」と称して食べた。また、いったんゴルフの約束をしたら、たとえ土砂降りの大雨でも必ずゴルフ場に足を運んだという。2007(平成19)年正月にも会社のゴルフ大会で元気な姿を見せたが、数日後に急逝。96歳の大往生だった。

◆安藤サクラは92歳まで生きた仁子をいかに演じるか

 百福の妻・仁子も2010年、92歳で亡くなっている。仁子はもっぱら家庭にあって夫を支える立場にあり、百福に関する本のなかでも触れられることは少なかった。それが前出のドラマ『まんぷく』では主人公・今井福子のモデルに選ばれたわけだが、NHKのサイトによれば「初めは耐えるだけの福子だったが、やがて夫を支え、背中を押し、引っ張っていく強い女に成長していく」というふうに描かれるらしい。

 思えば、演じる安藤サクラは、ドラマ『ゆとりですがなにか』で演じた、結婚後も夫の実家の造り酒屋を切り盛りする元キャリアウーマンなど、バイタリティあふれる女性がハマり役だ。今回の朝ドラも、出産して仕事はもうほとんどしないつもりでいたところへ依頼があり、悩んだ末に、覚悟を決めて出演に承諾したという(『日刊スポーツ』2018年1月31日)。そんな安藤だからこそ、実話とはまた違った女性の生き方を見せてくれるに違いない。いまから放送が楽しみだ。

参考文献:安藤百福『魔法のラーメン発明物語 私の履歴書』(日経ビジネス人文庫)奥村彪生『麺の歴史 ラーメンはどこから来たか』(安藤百福監修、角川ソフィア文庫)青山誠『安藤百福とその妻仁子 インスタントラーメンを生んだ夫妻の物語』(中経の文庫)

(近藤 正高)


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