【産経記事】ベトナム外交を手本に

【産経記事】ベトナム外交を手本に

2012.6.21産経新聞

                産経中国総局長・山本勲

 尖閣諸島をめぐる日中の攻防が再激化してきた。中国は東京都による同島購入計画を進める石原慎太郎知事を集中攻撃しているが、いずれ矛先を日本政府へ向けてくるのは必至だ。自国の領土・領海を断固守るのは当然だが、民主党政権が中国漁船体当たり事件時のような醜態を演じないか気がかりだ。野田政権は南シナ海の領有権をめぐり、硬軟両様の多角外交で中国と互角に渡り合うベトナムの知恵に学んではいかがか。

 「彼(石原知事)は核武装を求める狂った実力主義の鼓吹者で、現代の神風特攻隊員だ。こんな政治家の道を進めば、最後は戦争になるだろう」。中国共産党の機関紙、人民日報傘下の国際情報紙「環球時報」は14日の評論員コラムで石原知事をこう激しく非難した。

 中国共産党政権は闘いのプロだ。ペンによる闘いや政治・経済戦から武力戦争まで、さまざまな戦略、戦術を蓄えている。今回はそのほんの“半歩”といったところか。

 東京都による尖閣諸島購入が本決まりになったり、あるいは本来あるべき「政府による国有化」が実現する際には、中国側の闘い、報復が急拡大するのは必至だ。

 だからといって「中国を刺激しない」外交を続けるだけで、日本の領土・領海を守れるはずもない。

 中国の対外戦略は極めて長期的だ。1978年4月、尖閣諸島周辺の日本領海に突然、100隻以上の中国漁船が集結、「中国の領海だ」との示威行動を行った。日本政府の度肝を抜く行動の半年後。訪日したトウ小平は同島領有権問題の「棚上げ」案を唐突に持ち出し、日本側もこれに異を唱えなかった。

 だがトウの近代化政策が軌道に乗り始めた92年2月、中国は尖閣諸島や南シナ海の島嶼(とうしょ)を「自国領」と明記した領海法を制定した。弱いうちは低姿勢で外資や技術導入に専念、強くなるとわが物顔で日本の領海を侵犯し始めた。予定の行動だろう。

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 中国からすれば「トウ小平はなにも永遠に棚上げするとは言っていない」ということか。周囲を海で囲まれた日本は日米安保体制にも守られ、完全に“平和ぼけ”していた。

 日本と好対照なのがベトナムだ。歴代王朝の侵略に苦しめられてきただけに、そのしたたかさと外交の知恵は中国に勝るとも劣らない。

 南シナ海をめぐる中国との係争では多角外交を展開して一歩も引かない。この数年、ロシアの先進兵器を多数導入する一方、ベトナム沖の南シナ海でロシアやインドと天然ガスや油田の共同開発で合意した。

 さらにはかつての仇敵(きゅうてき)、米国との外交・軍事協力を加速している。今月初旬のパネッタ米国防長官訪越では、米国のベトナム防衛力強化支援や米軍艦の軍港(カムラン湾)使用で合意したとされる。

 ベトナムは中国に容易に武力行使させない態勢を築く一方、中国との首脳往来を絶やさないという“二枚腰”の戦略で国益を守っている。

 日本も日米同盟を土台に東南アジア諸国連合、インドなどと連携を強めているのは結構だ。さらに中国を背後から牽制(けんせい)するため、ロシアとどのような分野で関係を深化させうるのかも一考する余地はあろう。

 中国の海洋進出は「北の脅威」ロシアとの関係改善なしには成立しない。だが中露関係は一枚岩にはほど遠い。北方四島返還の基本路線は堅持する一方、最難題の対中抑止のためには、より柔軟で長期の戦略が必要ではないか。


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