【読者の声】福島原発20キロ圏内はいま  高橋 玉次(いわき市)

東日本大震災で事故を起こした福島第一原発から50キロ地点の福島県いわき市にお住ま
いの高橋玉次氏は日本李登輝学校台湾研修団の卒業生です。

 9月4日、原発事故現場から13.2km地点まで出向いたときの様子を送っていただきまし
た。改めて胸が痛みます。


 9月11日、大震災から1年半の記念報道が散見しました。全般として復興は”遅々として
進まず”の様子から、原発事故付近の実態を現地レポートします。

 わたしは、9月4日に“現場を観る”ために、原発事故現場から13.2km地点の楢葉(な
らは)・富岡(とみおか)境界地点まで出向いた。自宅から車で1時間ちょうどの場所。国
道6号線は、この地点で立入り禁止・通行止め。大阪府警のお巡りさんが警戒中。

 ここ楢葉町は8月10日からの警戒区域解除で、人影は、まったく見られない。通行止めの
交差点から500mくらいのお寺の門前で持参した昼食をとった。

 寺の庭も墓地も、門前に拡がる田んぼも、夏草が生い茂り、まさに、「数珠を繰るよう
な蝉の声がここを領している。そのほかには何一つ音とてなく、寂寞(じゃくまく)を極
めている。この庭には何もない。(中略)庭は夏の日ざかりの日を浴びてしんとしてい
る。……』の三島由紀夫『豊饒の海』ラストシーンを思い出させる“何もない”世界だっ
た。

 なんとも言えない真夏の日ざかりの静けさだった。そんな中、約1時間のあいだに工事車
輌1台が砂埃を上げて通過、ほかに人っ子一人出会わない。

 そのはずだ、警戒区域解除とは「解除したから帰っていいよ」というお上の通達だけ
で、除染もこれから、JRはもちろん不通、さらに夜間宿泊は禁止。つまり、明るいうち
に「ひまな年寄り年配者は墓参りや掃除草取りに帰れ」が実態。

≪夜間の町内は無人状態。すでに多くの盗難が発生しているが、さらに盗難が増加し町内
の治安は悪化する可能性がある。反対の声も多い中、町からの説明が不十分ぁ・・まま解
除が決定された。上下水道、電気などのライフラインがまだ復旧しておらず、病院もスー
パーも再開していない。≫

とのネット情報は、テレビ新聞に見当たらない。

 生い茂る夏草に荒れ果てた楢葉北小学校やJR竜田駅、雑草繁茂,不通の鉄路、破壊、
盗難の自販機やATM、まったく無人の駅前商店街、町外れの老人施設や原発資金で整備
された海浜スポーツ公園・天神岬が無惨な姿をさらす。

 震災前年の12月に参加した“ならはロードレース”10km折返し地点だった公園の高台
に佇んでいると、隣町の広野(ひろの)の古老と出会う。「いわきから自宅の手入れに1日
おきに通っている。若い人は帰らない、帰れない……」と語る。眼下には、津波にさらわ
れ破壊された防潮堤と更地となった荒野原が夏草の茂るままに拡がっている。

 当時を知る古老は「あそこにもこちらにも道路が人家が大きな造り酒屋があった。太い
道路や立派な防波堤があった」とも語る。いまの眼下にはそれらの跡形もない。

 楢葉町全体は伸び放題の夏草のなかに、何もない「豊饒の海」の世界。震災復興など欠
片もない、無惨な光景だった。

 ここまで書いてきて、原発事故対応,復興も、領土問題外交にも無為無策の「近いうち
解散」ウソつきの野豚ノダ政権に、こらえようのない怒りが込み上げています。


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