【夕刊フジ(ZakZak):2016年11月10日】
敗戦によって、台湾から日本本土へ引き上げた日本人は軍人・軍属を含め50万人に近かったとい
う。そのうち台湾で生まれ育った20万人を「湾生」と呼ぶが、12日公開のドキュメンタリー映画
「湾生回家」は、そんな「湾生」の目を通して、新たな日台関係を問いかけてくる。台湾では異例
のロングランヒットとなった。
「湾生」にとって日本への強制送還は故郷から無理やり引き離された痛恨の出来事だった。戦
後、彼らは幼少期の記憶を胸に刻み生きてきたので、年齢を重ねていくうちに、ますます思い出の
地に身も心も引き寄せられていく。そんな湾生の望郷の念を、台湾の人々との再会・交流を通して
描いている。
映画は、40人近い取材対象者の中から選ばれた6人の「湾生」の物語を中心に展開していくが、
どのシーンも古き良き台湾とそこに生きた日本人の姿を映し出す。
それらはまだ人情味あふれていた頃の日本を思い出させる。が、昔はよかったというような懐古
的な作品ではない。植民地時代にあった差別や不平等のことを、きちんと描いていることに注目す
べきだ。もちろん、昨今の近隣諸国との亀裂をあおるようなドキュメンタリーとは明確に一線を画
している。
最大のテーマは日本と台湾の絆。2005年、李登輝・元国民党総裁の訪日(*編集部註)から、中
国と距離をおく蔡英文政権の誕生に至るまでの経過をたどると、現在の日台関係は新たなる時代を
迎えているといえよう。
それは、中国が覇権主義を強め、尖閣諸島近辺での領海侵入、南シナ海で他国の領海・領土を実
力で奪う行動、チベット族やウイグル族への民族浄化政策、香港の民主化への妨害などで、国際的
批判を浴び続けている現状とちょうど好対照をなしている。
戦後70年、日台関係の原点を振り返る本作は、日本の置かれた現状を突きつけてくるようだ。
(瀬戸川宗太)
*編集部註:李登輝元総統は元国民党主席。総統退任後の初来日は2001年4月。以降、2004年12
月、2007年5月、2008年9月、2009年9月、2014年9月、2015年7月、2016年7月の8度。