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後日、南部宮司はそのときの思いを「歓談の中で李登輝先生の靖國に対する想いというものを改めて感じた」とつづり、「お帰りの際には、神社から差し上げた岩里武則命(台湾名・李登欽)の『祭神之記』をしっかりと胸に抱いて行かれたのが印象的でした」(『李登輝訪日・日本国へのメッセージ』)と述べている。
実は、この李氏の参拝には伏線があった。前年二月、南部宮司は日本李登輝友の会主催の天灯ツアーに参加して台湾を訪問している。靖國神社の宮司として初の台湾訪問だった。
このとき、台湾李登輝之友会が催した春節(旧正月)祝賀宴に参加し、「老台北」で知られる蔡焜燦氏の導きにより、祝宴前にホテル内の別室で李氏ご夫妻とお会いしていた。会見の内容は詳らかではないが、_國神社宮司との会見が参拝を促したことは想像に難くない。
李氏の靖國参拝は台湾でも新聞やテレビで大きく報道され、これ以降、靖國を参拝する台湾の人々がかなり増えたようだ。
例えば、昨年八月、NHK「JAPANデビュー」問題で来日した台湾の原住民、パイワン族出身の医師、李文来氏や、十月に来日してNHKを提訴した同じパイワン族出身の華阿財・元牡丹郷郷長(村長に相当)、包聖嬌・華阿財夫人、李新輝・元春日郷郷長、洪金蓮・李新輝夫人の四人も、来日直後に参拝している。いずれも初めての参拝だった。
李登輝元総統を尊敬しているという李文来氏は八月十二日、パイワン族の衣装を身にまとい、念願だった昇殿参拝に臨んだ。参拝後、「僕たちは高金素梅と違って、私たちの祖先が祀られている靖國神社にちゃんと参拝したいと思っています」と言った氏の晴れやかな笑顔は印象的だった。
華阿財氏たち四人の参拝は十月六日だった。華氏と李氏の叔父が高砂義勇隊として出征し、共に戦歿していたことから、ぜひ参拝したいという意向だった。やはりパイワン族の衣装を身にまとって昇殿参拝したのだが、夫人たちの目は境内に入ったときから潤みはじめていた。
参拝後、控室に戻って涙をぬぐいつつ「私たちは高金素梅とは違う。台湾の原住民はあのような騒動を好まない」「_國で私たちの先祖にお会いした。大切にお祀りされていることを知り感激した。これで安心して故郷に帰れる」などと話すのを聞き、台湾でもお祭りを大事にす守るパイワン族の人々は今でも魂の存在を感じることができるのではないかと、心を打たれた。_國神社を去るとき、夫人たちが正殿に向かって深々と頭を垂れ、大きく手を振って別れを告げる姿は、まるでそこに彼らの祖先が佇んでいるような仕草だった。
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