今回の講師である許世楷氏は、国家形成がなされている台湾の実質的な大使である。大使という
立場は公人そのものであることから、発言は、多角的に見た上で中間的なところを落とし所とする無
難な発言になる傾向がある。ではこの度は、どうだったのだろうか?講演を拝聴し、その柔和な口調
も手伝って無難な話をされている印象を受けないでもないが、この会場に集う私達は、この会の趣旨
からも、その一見、無難と思えるような内容から、研鑽してその言葉の意趣を汲み取る努力は必要で
あると思われる。
この度の講演では数字としてのデータを用いて日台交流が盛んであることを立証されているが、日
本からのビザなし渡航を例にあげても、どこか日本側が、台湾の対応に遅れをとっている印象を受け
ないでもない。
「2プラス2」でも台湾海峡の安定に向け日米が共同歩調をとってはいるものの、日本がどこまで軍事的緊張に対応するのか分からない部分も多い。たとえ政府レベルでそれなりに策があったとしても今日の日本人が、軍事的緊張に正面から向き合えるか個人的には疑問が生じるところだ。
許大使は、おそらく日本のそのような状況は理解しておられるからこそ、日本の国益を基準に置いた日台間のあり方で話をされていたと思われる。
自国の損得勘定を引き合いに出さなければ動こうとしないのは、どこか悲しい気もするが、義を重んずるに至らない日本の姿勢が問われている現れとも受け止められないこともない。
「何故、日本は親しき隣人である台湾の存在に気付かないのか?」というメッセージが今回の講演に込められていたように思われる。
また、日本人の持つ現実と違う認識を是正する具体的な材料を提供された。多くの日本人は中国と台湾、どちらも「中国」と見る向きがある。しかし、日中国交正常化において日本は台湾が中国の領土であることに承認していないことが例題を出されて説明された。また、中国の「固有の領土」という概念も万里の長城が国境線であったことを考えれば、その覇権性が理解される。
中国がエネルギーを確保するのに鎬を削っている今日、独立している台湾の存在が如何に日本の安定に寄与しているか、そしてその台湾が、いかに日本に親しみを持っているか・・・等、許大使は、李登輝前総統の対日意識を「概念的理解」現代の若者を「体験的理解」という今までにない分析をもって、その現状を紹介され、今後を提言されたのである。
また、保守陣営にとって幾分か落胆気味の「福田政権」についても、「一国の長になる人物は、国益を考えている。悲観的なことばかりではない」というものの見方。「国会の乱闘は民主主義の証」等、その大使の経験は「どの時代であっても如何に良い方向性を見出すか」というポジティブな発想が礎になっていたことが伺える。
許大使から提供された材料、及びポジティブな思考をこれから如何に反映させるか・・・が、講演を聴いた私達の使命ということになるのだろう。
記 渡辺裕一
この度の秋季講演会では、幹事の皆様のご協力により大成功のうちに終了することができました。心より感謝申し上げます。
心配された動員も、予想をはるかに上回る来場者があり補助椅子を出しても足らないほどでした。
許 世楷代表の講演は、日台関係の現状と展望と台湾の国連加盟申請などについて懇切丁寧にお話しされ、その後参加者からの質問にも真摯にお答えいただき一同感銘を深くした次第です。
その後の懇親会も和やかに進み、台湾留学生10名もゲスト参加。席上花を添えていただきました。会場内のあちこちでは、留学生と日本の青年の交流があり嬉しい限りでした。皆様のご協力に重ねて感謝申し上げます。
平成19年11月14日 李登輝友の会愛知県支部事務局
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