文字化けのため、再配信【中国事情】「李嘉誠を逃がすな」

文字化けのため、再配信【中国事情】「李嘉誠を逃がすな」

          鈴木 上方人 (すずき かみほうじん) 中国問題研究家

9月中旬、新華社傘下のメディアである「瞭望智庫」に「李嘉誠を逃がすな」というタイトルの論説が掲載された。この論説は瞬く間に転載され、世界中で議論を巻き起こした。論説は全文を通し、李嘉誠を「過橋抽板」(恩知らず)だとして批判している。中国の官営メディアでこのような煽情的な論説を掲載すると言う事は、まず当局からの警告とみて良いだろう。

●李嘉誠とは何者か

日本ではさほど有名ではない李嘉誠だが、華人圏で彼を知らない者はいないほどの大富豪である。現在、李嘉誠は1928年生まれの87歳だ。日中戦争時に戦乱を逃れるため、家族とともに中国広東省の潮州から香港に逃げ、満足な教育も受けずに造花作りで極貧状態の一家を支えた。その彼はやがて不動産業に進出し、成功を収めてアジア屈指の大富豪に上り詰める。李嘉誠は香港財界において、その精力的な行動力と勘の良さで知られ、李超人(スーパーマン)と呼ばれていた。

香港で名を挙げた李嘉誠は、70年代から中国にも進出し始めた。中国の改革開放路線にうまく乗った彼は、中国進出の成功例と言えるだろう。しかし1989年、中国で天安門事件が起きる。事件を一方的暴力で鎮圧した中国に対して西側から制裁をかけられたため、中国は外部からの資本や技術の流入が完全に停止してしまった。そんな中、李嘉誠は中国への投資を拡大した。その影響もあり、台湾企業や日本企業が李嘉誠に追随し、大挙して中国に投資した。中国制裁の抜け穴を作った李嘉誠は、中国の大恩人と言っても過言ではない。後に李嘉誠は「愛国商人」という称号を与えられ、時の権力者であるトウ小平に丁重に扱われ、天安門事件で失脚した趙紫陽の後に国家主席になった江沢民とも親密な関係を築いた。

当然のことだが、李嘉誠は「愛国心」だけで中国に進出したわけではないはずだ。天安門事件で制裁をかけられた中国を商売の嗅覚が人一倍鋭い李嘉誠は好機と捉えて、投資しただけなのだ。実際に李嘉誠は中国進出によって莫大な利益を得た。中国にとっても李嘉誠の投資は台湾資本と日本資本の呼び水となって、海外技術の流入のきっかけとなったのである。言い換えれば、李嘉誠による投資がなければ、制裁下の中国経済の発展はかなり遅れたと言える。その後、骨抜きにされた制裁は徐々に解除され、欧米国家も大挙して中国へ進出したのは知っての通りだ。

中国政府はあらゆる優遇措置を李嘉誠に与えて、彼の不動産や港湾事業のためのインフラ整備も整えさせた。こうした李嘉誠の中国事業の成功には、共産党政権の権力の庇護があったと言う訳だ。当時の李嘉誠は、江沢民とは相思相愛の関係である。江沢民が香港に訪問する際には必ず李嘉誠が所有するホテルに泊まり、二人だけで会談していた。その後の胡錦濤も同様に李嘉誠と親密な関係を維持していたが、習近平政権になると状況が一転した。

●中国からも香港からも撤退する李嘉誠

習近平にとって政敵である江沢民との親密な関係を持つ李嘉誠とは煙たい存在である。その上、反腐敗の錦の旗を掲げている習近平には、「紅二代」と言われる「太子党」以外の政商は許しがたい存在なのだ。政商の権化であり、機を見るに敏である李嘉誠が、この空気の変化を感じないはずもなかった。習近し平が中国共産党総書記に就任した2012年と言えば、中国経済の綻びが相次いで浮上し、世界中の中国ウォッチャーが手のひらを返すように中国賛美から中国批判に転じた年である。それは李嘉誠にとって、政治においても経済においても中国でのゴールデン・タイムが過去のものとなった瞬間だった。彼は習近平が次期の総書記に決まったその時点から、中国からの撤退を密かに準備していた。習近平が総書記に就任した2012年、李嘉誠は中国での資産を処分し始めた。2013年になって広州や上海の大型物件を売却したことで注目された彼は「中国の不動産価額は急騰し過ぎだ。みなさんも気を付けた方がいい」と中国の不動産バブル崩壊を暗に仄めかしている。

 2014年に入ると李嘉誠は中国撤退のスピードを加速させた。彼は北京、南京、上海、重慶にある大型の商業ビルやオフィスビルを相次いで売却して中国当局の神経を逆撫でただけに止まらず、2015年7月には上海の複合施設を200億人民元で売却した。更には中国で上場した企業の持ち株を35.8%から5.76%までに減らし、上海市場の株急落に追い打ちをかけたのである。しまいに李嘉誠は自身の会社である「長江実業」と「和信黄埔」を香港からケイマン諸島に移転させ、香港からも撤退したのである。このあからさまな李嘉誠の動きには中国当局の堪忍袋の緒が切れてしまった。

●権力と癒着しなければ成功しない構造

 中国の官営メディアに掲載された「李嘉誠を逃がすな」という論説は、ヤクザまがいの口調で書かれ、まさに恫喝そのものであった。文中では李嘉誠のことを「一介の小商人」と蔑み、当局の土地の徴用、税制、インフラ整備などの恩賜がなければ中国での事業の成功は不可能だと書き立てている。しかし、図らずもこの論説は中国でのビジネスの実態を白日に晒したと言えただろう。そもそも中国での事業は必ず権力との癒着がなければ成功しないものである。これは何も大企業に限ったことではなく、すべてのビジネスに通用する不変の原則だ。大企業は中央の権力者と癒着し、中小企業は地方の権力者と癒着するだけの違いしかない。この論説で書かれている権力と金銭との癒着は特別に目新しいものではないが、李嘉誠を恩知らずであると罵りながら「食い逃げさせるな」と恫喝し、儲けた利益は中国で貧困救済などの慈善事業をやれと強請るのである。これは中国共産党政権の本性の現れと言っていいだろう。

決してこの露骨な恫喝を受けた李嘉誠を例外とみてはいけない。中国から撤退しようとする企業は皆等しく同じ目に遭うことであろう。確かにこの論説は李嘉誠を名指しで批判をしてはいるのだが、これは日本企業も含めた中国に投資しているすべての外国企業への警告でもあるのだ。中国での成功とは企業努力などではなく、すべては中国当局の恩賜なのであり、それを忘れてはいけないとこの論説は言っているのだ。

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