【産経正論】米国との戦争に勝てない中国

【産経正論】米国との戦争に勝てない中国 
2019.6.3産経新聞

        東京国際大学教授・村井友秀

 信頼関係のない国家間の外交交渉と戦争の結果は比例している。戦争に勝つ国が外交交渉でも勝つ。米軍は世界一強い軍隊であり、米軍と同じルールで戦えばどの国も米軍に勝てない。米軍に勝つためには、「ナイフでスープを飲ませる」ように米軍に不利なルールで非対称な戦争を戦わなければならない。

 ≪国民の戦意を挫く戦略≫

 米国に勝った北ベトナムの指導者は次のように述べた。「米国が我々(われわれ)の兵士を10人殺すのに対して、我々が殺せるのは1人かもしれない。しかし、最終的に戦いに疲れるのは我々ではなく米国である」(ホーチミン主席)。ジョンソン米大統領も次のように述べている。「国内に分裂と悲観論が広がり、米国民の戦意が崩壊することが北ベトナムの頼みの綱であった」。中国は北ベトナムよりもはるかに強大な国だが、米国より弱い国であることに違いはない。

 戦争は軍隊の戦闘能力と国民の戦う意志によって支えられている。国民の戦う意志が崩壊すれば戦争に負ける。米国より戦闘能力が劣る北ベトナムの戦略は、米国民の戦う意志を挫(くじ)くことであった。ただし、米軍と戦えば大損害を被ることは避けられず、長期戦を戦うためには米軍よりもはるかに大きな損害に耐えられる体制であることが大前提になる。ベトナム戦争に負けた米軍の死者は5万8千人、勝ったベトナムの死者は300万人を超えた。

 毛沢東は、強敵に対する戦略として多くの国民を動員し長期の遊撃戦を戦う人民戦争を構想した。当時の中国は、戦争になっても自給自足が可能な農村人口が国民の8割以上あり、経済は対外貿易に依存せず、また農村には過剰労働力が溢(あふ)れていた。米国に匹敵する広大な国土と5億人を超える人口が数百万人の損害を吸収して戦争を続け、米国が戦争に疲れるのを待つ戦略であった。因(ちな)みに中国では戦争以外の暴力による死者が多く、文化大革命の死者は一千万人といわれ、他方、朝鮮戦争の死者は50万人といわれている。中国では死のイメージは戦争よりも政治闘争や自然災害である。

 ≪人民戦争ができない中国≫

 現在の中国は改革開放政策によって都市化と少子化が進み、経済は対外貿易に依存し、経済発展が共産党支配を支える体質になった。農村人口は4割に減少した。現在の中国で、経済発展を支える都市が破壊され、一人っ子である多数の若者の命を大量消費する人民戦争を実行すれば、経済は崩壊し国民の不満が爆発して共産党政権は倒れるだろう。現在の中国は長期にわたる人民戦争を戦うことができず、短期間の局地戦争しか戦えない体質になっている。

 他方、経済発展を進めるために対外貿易に依存する中国共産党政権は、外国に対する影響力を強化する必要があり、中国軍も国内治安維持軍から外国に介入できる軍隊に変質する必要がある。ゆえに中国軍は陸軍を縮小し海空軍を増強して外征軍である米軍型に変わろうとしている。中国軍が「一帯一路」周辺諸国への影響力を強化しようとして、海軍力を強化し近代化を進めれば進めるほど中国軍は米軍化し、米軍にとって同じルールで戦える敵になる。

 中国軍の空母は空母を攻撃する能力がないアジアの弱小国には大きな脅威になるが、米軍にとっては格好の攻撃目標になるだけだ。空母と最新鋭ステルス機で戦う戦争ならば中国軍に勝ち目はない。

 ≪国益と国民の損害許容限度≫

 戦争に勝つとは、損害が国民の許容限度を超える前に戦争目的を達成することであり、戦争に負けるとは、戦争目的を達成する前に損害が国民の許容限度を超えることである。損害の許容限度には戦争目的に関わる国益が大きな影響を与える。第二次世界大戦において米国は30万人以上の戦死者を出しながら戦争をやめずに戦い勝利した。他方、ベトナム戦争で米国は5万人の戦死者が出ると戦争をやめて撤退し、戦争目的の達成を放棄して戦争に負けた。

 この2つの戦争で損害の許容限度が大きく異なるのは、関わる米国の国益が違うからである。第二次大戦は米国が信じる価値観と本土の安全という死活的に重要な国益が関わる戦争であった。米国民は死活的に重要な国益を守るためには大きな損害に耐える。他方、ベトナム戦争は米国本土の安全が脅かされる心配のない戦争であり、損害の許容限度は低かった。

 北ベトナムは、アジアの小国で戦う戦争が米国本土の安全とは無関係であると宣伝して米国民が耐えられる損害の許容限度を下げ、米軍が不得手とするゲリラ戦を駆使して米軍の損害が許容限度を超えるように戦った。

 中国が米国に勝つためには、米国民の損害の許容限度を下げなければならない。しかし、米中戦争が、米国民にとって「偉大な米国」を邪悪な敵から守る正義の戦いならば、米国民の損害の許容限度は高い。他方、拝金主義の国民が耐えられる損害の許容限度は低く、中国の方が先に損害の許容限度を超えるだろう。(むらい ともひで)


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