【櫻井よし子】政治家はレッテル貼りや机上の空論をやめ、自衛隊の不条理な現状を直視せよ

【櫻井よし子】政治家はレッテル貼りや机上の空論をやめ、自衛隊の不条理な現状を直視せよ
【櫻井よし子】政治家はレッテル貼りや机上の空論をやめ、自衛隊の不条理な現状を直視せよ

2015.9.7 産経新聞

             櫻井よし子

「抗日戦争と世界反ファシズム戦争勝利70周年」の軍事パレードで、北京の天安門前を通過する、トレーラーに積まれた弾道ミサイル=3日、北京(共同)
 責任ある政治家は安全保障法制に関する机上の空論をやめて、日本を取り巻く情勢の厳しさに目を開くべきだ。

 9月3日、戦勝70周年記念の軍事パレードで中国が誇った数々の攻撃用弾道核ミサイルを見たか。人民服に身を包んだ習近平国家主席の演説も式典も「日本軍国主義」打倒の抗日要素で色濃く染まり反日戦略の継続を予想させた。

 アジア諸国は軍事力拡大路線の中国を恐れる一方、平和安全法制成立を目指す日本に70〜80%台の支持を寄せている。だが、わが国の国会議論にそうしたアジアの声はほとんど反映されていない。

 それどころか、「戦争法案」(社民党、福島瑞穂氏)、「法案を通すために中国脅威論をあおっている」(共産党、井上哲士氏)などと根拠のないレッテル貼りが目につく。国民の理解が進んでいないと論難するが、的外れな彼らの主張が国民の理解を妨げる大きな要因ではないのか。

 現在の法制度がどれほど異常で、通常の国ではあり得ない不条理な負担を自衛隊員に強いているかを私たちは知っておくべきだ。その異常を普通の民主主義の国のルールに近づけるのが、今回の平和安全法制である。

 南スーダンに派遣されている350人の自衛隊員は宿営地に隣接する国連事務所との緊密な関係の中でPKO(国連平和維持活動)に励んでいる。攻撃されても彼らは自らを防護できる。しかし、隣接する国連事務所が襲撃された場合、国連から正式に救援要請があっても国連職員やNGO(非政府組織)職員を守ることはできない。その中に日本国民がいても救えない。

 難民救援は国際社会の重大な責務だが、自衛隊はそれもできない。難民だけでなく、日本の大使館員や邦人が襲われても助けられない。

 私たちは自衛隊が難民を見殺しにし、危機にある同胞に背を向けることなど是としない。しかし、現行法では自衛隊は助けたいと思っても、そうすることを許されない。そのジレンマに自衛隊はどう対処しているのか。

 元防衛相の小野寺五典氏が平成14年の事案を語った。東ティモールで、現地の邦人から救援要請があったとき、自衛隊員は自己責任と視察名目で現地に赴いた。武装集団の攻撃という最悪の場合、自分たちが攻撃されること、反撃はその後でしかできないことを覚悟して救出に向かった。

 このように現行法は自らの犠牲を前提にした行動に、自衛隊員を押しやる可能性がある。平和安全法制で自衛隊員のリスクが高まるとの批判があるが、それは真逆なのである。難民、邦人の救助にしても、まず自衛隊員の身を危険にさらすことを前提にするような現行法制はあってはならず、一日も早く安保法制を整えて、駆け付け警護を可能にしなければならない。

 集団的自衛権の限定的行使は徴兵制につながる、あるいは憲法違反だと非難する政治家は、往々にして憲法学者や元最高裁長官らも違憲だと言っていると主張する。彼らは慶応義塾大学名誉教授、小林節氏の6月22日、衆院特別委員会における陳述を聴いただろうか。氏はこう語った。

 「われわれは大学で伸び伸びと育ててもらっている人間で利害は知らない。条文の客観的意味について神学論争を言い伝える立場にいる。字面に拘泥するのがわれわれの仕事で、それが現実の政治家の必要とぶつかったら、そちらが調整してほしい。われわれに決定権があるとはさらさら思わない」

 学者とは別に、政治は国際社会の現実に基づいて国益を考えよというわけだ。この点で氏の主張は正しい。

 安保法制反対の野党政治家は学者の違憲論から離れて、現行法制で本当に日本国民と日本国を守り通せるかを論ずべきであろう。集団的自衛権の行使なしには日米同盟が機能停止する危険性もある。事は深刻だ。安保法制には後方支援をより機能的にする改正が盛りこまれているが、後方支援ができなかった21年前、米国が日本に激しく詰めよった。元統合幕僚会議議長の西元徹也氏の述懐だ。

 1994年3月、防衛庁で朝鮮半島有事に関する日米政軍セミナーが開かれた。金正日の挑発的な姿勢とIAEA(国際原子力機関)からの脱退などで緊迫する朝鮮半島情勢への対処が主題だった。

 米軍が自衛隊に後方支援を要請し、詳細な時系列展開計画を提出した。だが日本には後方支援を想定した法律もなく断らざるを得なかった。氏は「これは日本の防衛そのものだ。なぜできないのか」という米側の激しい怒りと、何もできない日本側の口惜しさを鮮明に覚えている。

 この苦い経験は99年の「周辺事態安全確保法」につながった。しかし、同法は「武力行使との一体化」という日本独特の憲法解釈を適用され、非戦闘地域の「後方地域支援」「後方地域捜索救助活動」に分けられ、厳しい制限を課されたまま今日に至る。

 現在、米軍への物品、役務の提供は日本領域のみで許されており、その都度、日本領域に引き返さなければならない。それをその場で可能にするのが、今回の法制である。

 米軍への効率的な補給とスムーズな日米連携は有事発生を予防し、有事の早期収拾にもつながる。まさに戦争をおこすのではなく、抑止し、おさめるための改正である。

 国際社会の全ての国が行使する集団的自衛権を全く認めない場合、日本は個別的自衛権で、つまり単独で全ての防衛を担えるのか。安保法制に反対する人々は、この問いに答えられるだろうか。

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