【李登輝秘録】虚々実々の両岸関係(1) 中国共産党から極秘電話

【李登輝秘録】虚々実々の両岸関係(1) 中国共産党から極秘電話
【産経新聞:2019年4月3日】より

◆「ミサイル発射、慌てるな」

「2、3週間後、弾道ミサイルを台湾に向け発射するが、慌てなくていい」

 台湾はすでに真夏を迎えていた。1995年7月初めのこと。台北市内の曽永賢(そう・えいけん)
(1924年生まれ)の自宅に1本の電話がかかってきた。曽は、このとき現職総統だった李登輝
(1923年生まれ)を総統府で補佐する「国策顧問」だった。

 通話はすぐ切れた。発信地は不明。だが曽は、中国共産党トップ層からの「極秘伝言」だと理解
した。

 曽は90年代初めから李の指示で、敵対する共産党のトップや幹部と、2000年まで極秘裏に接触を
続けた台湾側“密使”の一人だったと証言している。電話はその接触相手だった。

 電話の前月、6月7~12日に李が、農業経済学で1968年に博士号を得た米ニューヨーク州のコーネ
ル大学から招かれ、「台湾の民主化経験」について講演したことに中国は強く反発した。武力行使
も辞さない姿勢で、台湾海峡は緊張感に包まれていた。79年1月に米国は中国と国交を結んで、台
湾と断交していた。

 電話を切った曽は急いで総統府に向かった。戦前の日本統治時代、ちょうど100年前の19年3月に
落成し、現在も使われる重厚な建築物だ。噴き出す汗をぬぐいながら3階の李の執務室に駆け込んだ。

 李と曽は、この電話の意味を「ミサイルを発射はするが、台湾の本土には撃ち込まないから、慌
てて軍事報復などするな」との“事前通告”だと理解した。

 振り上げた拳で台湾を威嚇はしても、軍事衝突はギリギリで避けたいとのメッセージだったのだ
ろう。

 極秘裏に報告を聞いた李はホッとした表情を浮かべたと曽は記憶している。

 中国はその後、7月18日に国営新華社通信を通じて台湾攻撃を想定した「弾道ミサイル演習」を
行うと公表した。実際に7月21日未明、内陸にある江西省の基地から弾道ミサイル「東風15」を発
射した。台湾の北方およそ130キロの東シナ海に撃ち込んだ。尖閣諸島(沖縄県石垣市)にもほど
近い海域だった。

 このときの「台湾海峡危機」は結局、「演習」を繰り返しながら翌年3月の台湾総統選まで続
く。米クリントン政権が空母2隻を派遣するなど緊張が高まる事態だった。ただ台湾は、最後まで
冷静に対応した。

 曽は、「(極秘裏の)情報ルートが最悪の軍事衝突を避ける役割」を果たしたことにいまも満足
げだ。

◆台湾密使の前に国家主席が現れた

 李の命令で動いた曽による中国側との極秘接触が最初に急展開したのは、92年暮れのことだった。

 香港のホテルの一室。共産党幹部と中台両岸関係の行方について話していたとき、相手側から急
に北京行きを打診されたという。

 曽は、「話の弾みだったが、行った方がいいな」と考え、すぐ台北の総統府に電話をかけた。李
は「構わない」と許可を与えた。

 李と同じく戦前の日本教育を受け、戦後は台湾の防諜機関、調査局で中国共産党研究の第一人者
となった曽は台湾の政治大学で教鞭(きょうべん)もとっていた。李が台湾大学教授だった60年代
から、2人は学者同士、ひざ詰めで中台関係などを話し合ったという。2人の会話はほとんど日本語
だった。

 他方、李と曽の関係を調べ尽くしていた中国は、曽への“サプライズ”を用意していた。曽が北
京に到着して数日後、このとき国家主席だった楊尚昆(よう・しょうこん)(1907~1998年)が会
談相手として、曽の前に現れたのである。

 92年暮れの曽と楊による極秘会談が3年後、ミサイル発射の事前通告に結びつくパイプを作っ
た。密使としての曽の活動はほとんど知られていない。

 李は「密使なんていなかったんだ」と言葉を濁らせる。その背景を曽は「あっちにもこっちにも
(中国にも台湾にも)関係者がまだ多く生きているでしょ」と説明した。中台関係は政治のみなら
ず、人のつながりも複雑で曖昧だ。

 今年1月2日、習近平(しゅう・きんぺい)国家主席(1953年生まれ)は演説で、一つの国家に異
なる制度の存在を認める「一国二制度」による台湾統一を改めて訴え、受け入れられない場合は武
力行使も辞さない姿勢を強調した。台湾は4年に1度の総統選を来年1月に控える。

 3月31日には中国の戦闘機2機が台湾海峡の中間線を越えて台湾本島側の空域に侵入するという異
例の事態が起きた。

 中国機は台湾側の警告を受けて引き返したが、中台トップ級の極秘情報ルートが現在も機能して
いるか疑わしい状況下で、軍事緊張は再び高まっている。しかも中国の軍事力は、24年間で様変わ
りしている。


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