【寄稿】台湾へのおためごかしに使われる蒋介石への恩義論

【寄稿】台湾へのおためごかしに使われる蒋介石への恩義論
【寄稿】台湾へのおためごかしに使われる蒋介石への恩義論

           青山 登 

 林建良(りんけんりょう)さんがいまだに、「日本が分割されなかったのは蒋
介石の「以徳報怨」のお陰だ」「だから日本は台湾に感謝すべきだ」という発言
をする自民党の重鎮がいることを嘆いておられた。(平成21年12月23日の「日台共
栄の夕べ」でのできごと)

 聞くところによればやはり某首相経験者の御仁の発言であった。
李登輝氏が平成6年に「台湾人の悲哀」を司馬遼太郎氏に語ってから15年の歳
月が過ぎているにもかかわらず、その知識が一切浸透していないとは「サメの脳
みそ」とあだ名されるこの御仁の面目躍如たるものがあり、これも自民党の凋落
を加速させた要因の一つであろう。

 平成13年に江(沢民)の傭兵(=当時外務大臣/河野洋平)が李登輝氏へのビザ
の発行に抵抗した時、当時の首相であったこの自民党の重鎮は江の傭兵を更迭し
なかった。日本が法治国家であり民主主義国家であるという矜持があれば、テロ
リストでも犯罪人でもない一人の紳士にビザの発行を拒否するなど許されるべき
ではなく、スターリンを髣髴させる外務大臣など即座に更迭するのが当然であっ
た。結果として李登輝氏にビザは発給されたが、この事件において自民党の重鎮
氏には法治国家の首相としての矜持は感じられなかった。

 蒋介石への恩義論が台湾へのおためごかしに使われているということはこうい
ったエピソードからも何となく感じていただけると思う。この自民党の重鎮氏を
はじめ一昔前の多くの「保守」政治家が昔から蒋介石への恩義をいい続けてきた
。しかしながら、その割には台湾関係法の制定さえもいっこうにすすんでいない
のが現状である。

*おためごかし – 【御為倒し】 表面はいかにも相手のためであるかのように偽っ
て、実際は自分の利益をはかること。

 李登輝氏が平成8年に初の民選総統選挙で当選されたとき、私は港区の台北経
済文化代表処に署名をしにいったことがある。そのとき記帳用紙に「小沢辰男」
と署名してあったのがとても印象に残った。小沢辰男氏は当時やはり自民党の重
鎮であった政治家である。台湾を見捨てて中国になびく人が多いなかでこのよう
な立派な人が政治家の中にまだいたのだなと思ったものであるが、そういった考
えがきわめて甘かったことにすぐに気づいた。

 当時日華議員連盟には300人のメンバーがいると聞いていた。親台湾派がそれだ
け健在であれば心強い、やがて日本にも台湾関係法が制定されるだろうと思って
いた。ところがいっこうに台湾関係法は制定されず今日に至っている。いったい300
人の日華議員懇談会とは何なんだろうと思ったとき象徴的に思い出されたのがこ
の小沢辰男氏の記帳であった。そのとき私には「そうなんだ、彼らは何もしない
のだ。」ということがやっとわかった。

 同時に蒋介石の恩義をいいたてることは、時に台湾の住民のために何も行動し
ないことへの免罪符になっているということも私にはやっとわかったのだった。

 蒋介石への恩義論はかつては親台湾派の典型的な主張だあったと理解されてい
るが、本当にそうかは割り引く必要がある。昭和30、40年代の日本政府は中華民
国亡命政権と国交を結んでいたが、一方巷間の雰囲気は中国と貿易をしたいとい
う気持ちや三国志や唐詩の世界にあこがれ「狭い日本にゃ住み飽きた。支那にゃ
5億の民がいる。」とばかりに中国で雄飛したいという気風にあふれていた。

 そういったなかで、蒋介石の恩義とはどう位置づけられていたかであるが、当
時次のような発言も聞いた。

「蒋介石には恩義があるが、蒋介石一代限りの話である。蒋経国には何の恩義も
ない。(⇒蒋介石がいなくなれば遠慮なく中国に進出する。)」、「それにしては
蒋介石は長生きしすぎで困る。」

 皆がそう考えていたと貶めてはいけないが、私も吉川英治の三国志にかぶれ中
国にロマンを感じていた人間の一人なのでこのような考え方をしていた日本人が
多かったことは想像がつく。

 また、蒋介石の恩義論には当時左翼からは次のような反論があった。

「「以徳報怨」と仮に蒋介石がいったとして、それを受入れたのは圧倒的な多数
を占める中国人民である。蒋介石の恩をいうならむしろ中国人民の恩というべき
である。」・・・これはずいぶんと説得力のある論法である。実は当時の自称親
台湾派もこの論法を内心では利用し、競って中国になびき台湾を見捨てたのでは
なかったか。「以徳報怨」に感謝する程度では当時6億から7億といわれた中国
の人民を無視し続けるわけにはいかないのであり、台湾を見捨ててもやむをえな
いといういいわけが成立する。

 「私は台湾が好きだけど時流には勝てないんだ。」というように台湾のために
はなにもしない隠れ蓑として、蒋介石への恩義がうまくつかわれてきた面がある
のではないか。

 「台湾のことは台湾の住民が決める」という住民自決の立場に立てば台湾の人
口や国土の広さがいかに中国に比べて少なかろうと台湾を見捨てることは許され
ない。持続的な支援こそがその証である。しかし、蒋介石への恩義をいうだけな
らリップサービスが必要なときだけ思い出したようにいっていればよい。蒋介石
への恩義論はなにもしない自称親台湾派による台湾の人たちへのおためごかしと
しての効果を果たし続けてきたともいえる。

 李登輝さんの「台湾人に生まれた悲哀」ということばや「台湾正名運動」はこ
れ以上のおためごかしは許さないという日本人に突きつけられた踏み絵である。
これらのことが知られるにつれて蒋介石への恩義論は台湾支援の本流たる理論で
はなくなっている。それに気付こうとしないで自民党の重鎮氏はまだおためごか
しをいいつづけている。この心性が同じ日本人として悲しく、このような御仁を
かって日本国の首相にまでさせてしまったことに大きな無力感を感じるが今はそ
うもいってはいられない。

 真の親台湾派の政治家を支援し、今年こそは保守再生元年にしたいと思う。

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