【台湾統一地方選挙】政治を変えようとする若者たち

【台湾統一地方選挙】政治を変えようとする若者たち
【台湾統一地方選挙】政治を変えようとする若者たち

「ヴェクトル21」10月号より連載

      鈴木上方人(すずき かみほうじん) 中国問題研究家

 今年11月29日に行われる台湾の統一地方選挙は、二年後の総統選挙と国会議員選挙の前哨戦になる。台北、新北、台中、台南、高雄、桃園の六つの直轄市市長選挙をはじめとし、市会議員選挙、県知事、県会議員、市町村首長、市民代表、里長(町内会会長)までをも選出する統一地方選挙は、今までにない大型選挙である。国民党や民進党はこの地方選の勝利で国政選挙に勢いをつけたいところだが、両党の勝敗以上に台湾の将来にとって重要なのは、若者たちがこの選挙を通じて政治を変えられるかどうかだ。

●ヒマワリ運動の影響

 三月に世界を震撼させたヒマワリ運動はその後、高雄のガス爆発や廃油事件など一連の社会事件によってすっかりマスコミに取り上げられなくなった。しかし、ヒマワリ運動の台湾社会に対する影響力が消えたというわけではない。実際に台湾の若者たちは政治に対する関心は嘗てない程高まっている。若者たちのこうした変化がどれほどの力となって現れるのかは、今回の地方選挙はまさにそれを検証する重要な指標となるだろう。

今までの台湾の若者は日本の若者と同様に政治には極めて無関心だった。ところが彼らは国の不条理と戦うヒマワリ運動で連帯意識が芽生え、自分たちの持つ力も実感できるようになった。その実感はやがて自信となり、政治を変えようとする原動力になっている。

●40%の票はどこへ

 ヒマワリ運動の主力となっている台湾の20才から39才までの若者の数は717万で、それは全有権者数1800万の40%に当たる。この年齢層は今まで政治に対する関心が薄く、投票率も一番低い。投票率の低かったこの年齢層の投票率が上がれば、その分選挙への影響は絶大であろう。

ヒマワリ運動の参加者と支援者は決して民進党の支持者ではないが、国民党政権の中国一辺倒政策に対する不満で立ち上がった彼らは反国民党であることは明らかだ。その彼らは当然国民党候補の対戦相手に票を入れ国民党に一撃を与えようとする。だからこの年齢層の投票率が上がれば上がるほど、国民党に不利になる。もちろんこの年齢層全員がヒマワリ運動の支持者ではないが、この運動が7割の台湾人に支持されている事実から推論すれば、少なくともこの年齢層の7割の若者がその支持層と考えてよいだろう。それでも全体からすれば多数とは言えないが、政治は単純な多数決ではなく、意志を持つ集団が政治を主導していくことが政治の現実であることは忘れてはいけない。

●ネット戦で参戦する若者

 普段何もしない若者でも行動し出すと止まらないものだ。この年齢層特有の行動力にはとてつもない力が秘められている。馬英九政権はテロリストとでも対峙したかのような物々しい機動隊を出動させてヒマワリ運動参加者を鎮圧しようとしたが、こうした圧力こそが彼らの闘志を燃え上がらせ、一時的な抗議活動で終わらずに政治そのものを変えようとするエネルギーとなった。その彼らがこの選挙運動にあらゆるルートで参戦している。

台北市の市長選を例にすると、台北市の市長選は実質的に国民党候補の連勝文と無党派の柯文哲の一騎打ちとなっている。権勢を一身に集めた連戦の長男である連勝文は中国とのつながりが深く、そのコネで莫大な利益を得ている。連勝文のような金権政治の権化は若者たちの打倒すべき対象となり、選挙本部のホームページは連日のように攻撃され、内容も書き換えられた。連陣営はこのハッカー行為は柯文哲陣営の仕業だと強く非難しているが、柯陣営にはそれほどの人材も資金も何もない。「神猪」(能無し超肥満ブタ)こと連勝文は若者の恰好の攻撃対象になっているだけのことだった。

●自ら製作した動画に攻撃される連勝文

 連陣営が出した宣伝動画も早くからネットに親しむ若者を相手に完膚なきまで叩かれ、嘲笑の的になっている。宣伝するはずの動画が若者たちによって再編集されるか、もしくはたった一言のコメントをつけるだけで連陣営への攻撃材料と変身する。

驚嘆すべきことは、こうした若者たちによって手を加えた動画は元の動画よりもセンスがよく、人の目を引く素晴らしい作品になっていることだ。結果として連勝文が大金をかけて製作した動画を出せば出すほど、これらの改編動画も更に注目を浴び、自分を貶めるような笑えない状態に陥る。

果たしてこうした若者たちの力が国民党勢力の圧倒的に強い台北市長選で連勝文を負かせることができるかどうかはわからないが、一つの新しい時代の幕開けになることは間違いないだろう。

●里長選挙に立候補する若者

 ネット戦以外では、ヒマワリ運動の参加者の一部が立候補をしていた。注目すべきことは彼らが里長選挙に立候補しているということだ。里長とは町内会の会長のことで、一番底辺の行政ポストである。里長と言えば、台湾人なら誰もが「世話好きのお爺ちゃん」というイメージが思い浮かび、巷では里長のことを「里長伯」(里長のお爺ちゃん)と呼んでいる。日本でなら町内会会長兼民生委員のような存在である里長は、決して格好の良い仕事ではないが、底辺の行政職であるだけに各家庭の事情も把握でき、確実な民意を掴むことが出来る。

このような底辺のポストは本来非常に重要な存在であるが、地味でダサいというイメージがあるため、若者たちに敬遠されていた。そのような理由から今までに若者が国会議員や地方議員になった例があっても里長になった例はまずなかった。ところがヒマワリ運動の洗礼を受けた若者たちが里長に立候補しようとしている。この挙動だけでも彼らの思慮の深さを反映しているのだろう。

里長のポストは台湾全土で7851あるが、ヒマワリ運動参加者の二百名弱が立候補している。立候補数が14194に上った里長選挙は決して樂な戦いではなく、例え彼らが全員当選したとしてもせいぜい2%程度の割合でしかない。しかし彼らの中から一人でも当選できれば、現存政治への風穴となるだろう。こうした地に足が着いた政治参加こそが根本に現存している台湾政治の弊害を打破する第一歩になるだろう。

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