_塚本三郎元民社党委員長小論集_ _当会支部最高顧問、塚本先生世評_

通貨戦争の年        平成二十四年一月下旬   塚本三郎

戦争に敗れることが、如何に苛酷であるかは、敗戦の汚名を経て、既に半世紀以上、尚その恥は消えない――その上、今回は経済の戦い、即ち「通貨戦争」として米国のドル、中国の元、欧州のユーロの三方の挑戦を受けつつある、日本円との戦争の年である。

近代社会では、物々交換に代って、交換の価値をまず、通貨で決め、その代償を「金」と決めたことは、人間として最大の進歩であり発明である。

金は地上に在って、生まれながらにして、通貨としての宿命を背負って生まれた。まず、その物に価値が在る。即ち美しい。腐敗しない。少量で貴重である。そして地球上のどこにも存在する。この様な条件が揃っていた。ただ、土の中の含有量の多寡は別だが。

◎ 各国が期せずして、「金」を通貨として流通して来たのは、人間共通の知恵だと思う。だから、人間が歴史を創り出した当初から、各国が連絡なくして、広く流通し合い、各国が交易を始めた当初から、期せずして「金」が、オカネとして、代金の主となった。

一九四七年、アメリカの通貨ドルが、国際通貨として世界から承認された。理由は第二次世界大戦の大消耗戦で、各国が戦禍で焦土とされたが、アメリカ本土は無傷で残り、戦後復興の為、アメリカに食糧、衣料、機械等を求める為に「金」を持参した。その結果アメリカへ、当時約三百億ドルの金、(全世界保有の八〇%)が集まった。

よって、アメリカは世界の銀行として、自国のドル紙幣は金そのものである。ドルはそのまま金と交換する。その換算は、金の一番安い時の率(昭和十一年)、即ち金一オンス三十五ドル、日本円にして(一g 四〇五円)と約束し、(IMF)世界各国が承認した。

◎ アメリカのドルが国際通貨と承認されたことは、国際貿易にとって、各国は極めて便利な時代を迎えた。ドル紙幣が金貨と同じ価値であるから。しかし、一番便利となったのは、アメリカ自身である。しかし問題は、金の保有量三百億ドルを限度として、他国の流通を規制しておれば問題はなかった。

だが自由貿易の拡大は、予想を遥かに超えて、年々拡大され、ドルの需要は拡大した。

◎ 一九四七年当時の三百億ドルの金の量は減っていないが、それと対比して、発行するアメリカのドルは限度を超えて、一九七〇年には、全世界の流通は一千億ドルを超えた。
 当時、日本が七十五億ドル、フランスが七十億ドルとなり、両国だけでもアメリカの金保有の半分を占めるに至っている。

◎ アメリカは、自国のドルが国際通貨であるからと、無制限に増発して、全世界から物資を買いあさった。それによって世界各国も、アメリカを最大のお得意として、防衛力のみではなく、経済発展の守護神としての地位を築いた。

◎ アメリカが各国に対して貿易の相手国として、全世界から物資その他を購入している間は、「共存共栄」で過ごし得た。しかし、ドルが即、金と信じられ流通されているから、各国の株式会社の「株式を購入」をし始めた。即ち会社の乗っ取りとも見られる。

◎ 世界各国は、防衛力と、経済の威力を信じているアメリカが、過分なドル紙幣を世界中に利用していることを、薄々承知していても黙認していた。
 しかし、フランスの大統領ドゴールが、米大統領ニクソンに対して、「俺の国の大切な会社『ルノー』を、ニセ札で乗っ取ることは許せない」と対立した。米大統領は、売り言葉に買い言葉で開き直り次の如く云う。

「ニセ札とは失礼ではないか。必要ならば、何時でも、ドルは金と交換します」と。

◎ フランス大統領ドゴールは、全国に在る米ドル、約七十億ドルを軍艦に積んで、アメリカのニューヨークで、約束通り金と交換させて、マルセーユに戻ったと伝えられた。
 全世界各国は自国保有のドルが、金の在庫の底を危ぶんで一挙に金を求めて、アメリカに押し寄せれば、アメリカの金保有は直ちに底をつく。

 各国が、急いで金との交換を求めて、三百億ドルが忽ち三分の一の百億ドルに減少した。

 日本は最大のドル保有国(七十五億ドル)として、この騒動の最中、直ちに金との交換を行なうべきだ、と国会で主張したのは我々民社党であった。当時、佐藤内閣の水田大蔵大臣は、私共の主張を拒否した。――「日本は、ドルを保有することが国際信用の根本であり、かつドルには利息が付きますが、金には利息が付かない」と。

 本心では、アメリカへの気兼ねであったと思われる。その後も繰り返して、国益を守れと主張したが、受け容れられず、結果として日本は次の如く莫大な損失を被った。

◎ アメリカ大統領ニクソンは、一九七一年八月、遂に「ドルと金との交換を廃棄」すると宣言した。これを「ニクソン・ショック」、或いは「ドルショック」と呼ぶ。

 日本の金の価格にして、一g 四〇五円の交換の約束が、国際市場では一挙に四〇〇〇円に高騰した。

 それでも 、ドルに代る通貨の代替は、無いから致し方なく、固定相場制から、ドル中心の変動制、スミソニアン協定に基づいて、ドルの実質的価値に基づき、自由に、そして信用力に従って、連日、多少の上下を記録している。(三六〇円~二七七円)程度となった。

◎ 日本の円は、ドルに対して「三〇〇円前後」で変動性から順次、高騰してプラザ合意では二五〇円台となり、更に年々上昇し、一二〇円台にまで上昇して、暫く安定していた。

日本の通貨は、貿易相手のアメリカ、及び中国が最大の相手国であるから、資産の裏付けなき両国の通貨の増発によって、価値がそのまま影響を受けて「円高」となっている。

◎ 通貨は富が生まれてこそ価値が創造される。

 人々が欲する物を創り出し、それがヒットすれば、社会に富をもたらす。

 スティーブ・ジョブズ氏は、一般人の使いやすいパソコンから始めて、立て続けにヒット商品を世に送り出し、倒産寸前と見られていたアップル社は成長し、エクソンを抜いて時価総額世界一に成長した。(藤田正美)

◎ 投資銀行リーマン・ブラザーズは、不良債権になりそうな債権を含んだ「金融商品」を開発し、この商品を世界の金融機関や、年金基金に売り付け、莫大な利益を得た。

 カネ余りの世界は、巨大な金融商品取引市場を生み出した。しかし、市場は、自らの重みを支えることが出来ず、リーマン・ショックをもたらした。(二〇〇八年 倒産ショック)

 世界は「百年に一度の金融ツナミ」に襲われたと評されている。これはサギ商法である。◎ カネがカネを生み、価値の源泉など気にしない手法は、やがて、しっぺ返しを食うのは当たり前である。世界は、今までとは全く状況の違う経済現象となりつつある。

 これからの世界は基軸通貨になる通貨は無いと思う。世界経済は混沌として、まさに、グローバル・ジャングルになりつつある。世界の為替市場で一日に売買される通貨は、今や四兆ドル(約三百兆円)を超え、人類の一日で稼ぐ(国内総生産)の二十倍近くである。

円高に対処し、今こそ「政府紙幣」を

円高とは、日本の通貨が信用されていることで、三年前には一ドル一二〇円のものが、今日では七〇円台に高騰した。その金額で世界の物資を買うことが出来ることでもある。

それならば、ドルの通用する世界に向かって、円の価値の高い間に、必要な物資や、資源を買い入れておくべきではないか。また、日本企業にとって有効、有望な、世界中の会社の株式を、許されるならば、友好裏に取得することも、円高活用の有利な方策である。

◎ 日本経済は、戦後一貫して貿易立国として繁栄して来た。従って円高に依る貿易の停滞は、逆に損失を大きくしている。否、損失よりも「企業の存続」さえも不可能となり、破産、倒産の不況は拡大の一途である。「円高の利より、損は数倍」となっている。

その上、東日本大震災の震災復興が、政府の財政圧迫の最大要因と迫っている。

◎ 景気回復の最大の手段、そして円高克服は、既に識者の間で論じられている「政府紙幣」の発行である。勿論、これは、非常手段である。今日の日本は、非常手段を必要とする危機に直面している。日本を襲った円高の主因が、アメリカと中国の通貨増発であり、欧州の経済危機である。加えて百年に一度の東北の大災害の復興が迫られている。

まして、近々約二十年間の与野党政権が重ねた赤字国債は、日本GDP「約五百兆円」に対して総計では二年分の「約一千兆円」に迫っている。

◎ これ等の要因を克服することは、勿論、自らを戒めて「行政改革の断行」を前提とする。この際は、増税と呼ぶ手段は、逆にマイナスを招く怖れが大きいから避けるべきだ。

識者(丹羽春喜教授)指摘の如く、打ち出の小槌として「政府紙幣」を発行し活用して、震災復興を中心に、公共事業実施の為の財源として、先ず大胆に約百兆円を増発することを提言する。そのことは経済回復のみならず、円は百円程度の円安に戻すことが出来る。

◎ 百兆円とは巨大な資金である。併し円高の主な原因は、日本円に対比して、アメリカの約二百五十兆円のドル増発であり、中国の約二百兆円の元の増発でこれと対比してみる。

更に欧州の通貨危機に対する、ユーロの行動等を比較してみるとき、前述の如く、日本もこの際、百年に一度の大胆な施策を、政権の命運を懸けて行なってみるべきだ。

今年は、米国のドル・中国の元・欧州のユーロ対日本円の通貨戦争である。
   日本には既に明治維新に際して、新政府は、「太政官札」と名付けた「政府紙幣」を発行して、維新の大業を推進せしめた。大久保利通、木戸孝允、由利公正等の前例が在る。

昭和六年には高橋是清、当事の大蔵大臣が、この手法で世界的大恐慌をいち早く復興せしめた前例も在る。満州事変の軍備を支えたのも、高橋蔵相の知恵とこの手段であった。

 日本が現在、百年に一度の大災害を受け、また歴史始まって以来のデフレで、失業者の増大と、中小企業の破産倒産は日を追って広がりつつある

◎ 約百兆円の資金を公共事業に活用出来れば、不景気は大幅に回復することが出来る。

円高を利用して、政府が増発した赤字国債も日銀が引き受ければ良い。

その資金で次の如き事業を堂々と発注する。日本国家の国力増進と税の増収となる。

今迄削除し続けて、進歩を遅らせてきた、公共事業の柱である防災計画、日本海側の新幹線、道路、共同溝、小中学校建築の見直し等、急がねばならぬ事業は沢山在る。

◎ また、赤字国債の償還は毎年三十~四十兆円追いかけて来る、それらを加えて約百兆円は、国民に買い替えで発売するのでははなく、更に政府紙幣で賄い、赤字国債を減らす。

勿論、憲法改正に伴う防衛力の整備を重ねれば、更に相当の資金を要する。円がドルに対して、一二〇円まで戻れば、インフレの危険とみた時点で、止めれば良い。

問題は、政治権力者である「与野党国会議員」に、その見識と決断力の有無である。


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