海洋基本計画・なぜ「中国の脅威」を論じないのか?[日本政策研究センター]

海洋基本計画・なぜ「中国の脅威」を論じないのか?[日本政策研究センター]
■日本政策研究センター
 http://www.seisaku-center.net/modules/wordpress/index.php?p=497

 昨年4月、「海洋基本法」「海洋構築物等安全水域法」が制定され、7月には「総合
海洋政策本部」が発足したが、それに続いて現在、「海洋基本計画」の策定が進められ
ている。海洋基本計画は政府が向こう5年間海洋政策を進める上での指針となるもので、
海洋基本法に規定された「海洋の開発利用と海洋環境の保全との調和」「海洋の安全確
保」「海洋産業の健全な発展」などの「6つの基本理念」を具体化するものだという。
同政策本部の事務局が素案を作成し、現在、有識者からなる参与会議で意見聴取が行わ
れているが、このほどその素案が一般にも公開された。

 海洋基本法とか海洋基本計画といっても、マスコミがほとんど取り上げないくらいだ
から、一般に関心のある人は少ないだろう。だが、これは日本の国益を守っていく上で
一番厄介な「中国問題」と密接に関わる問題であり、ぜひ関心を持つべき問題である。

 そもそも海洋基本法や安全水域法が立法化へ向けて動き出したのは、2004年5月、東
シナ海・日中中間線ぎりぎりの海域で、中国側が石油ガス田(春暁石油ガス田群)の開
発に着手したことがきっかけだった。むろん、それ以前20年以上にわたって中国は東シ
ナ海に進出し、日中中間線の日本側海域で試掘するなど日本の主権・海洋権益を侵害し
続けてきたが、日本側が何ら有効な措置をとらないことから、中国の海洋調査船や海軍
艦艇がわが物顔で徘徊するようになっていた。しかし、春暁石油ガス田群の開発が明る
みに出たことで、政府や国会議員も「放置すれば日本の資源がとられてしまう」と危機
感を持ち、昨年になってようやく海洋基本法と安全水域法が作られたわけである。

 ところが、海洋基本計画の素案を読んでみたところ、そうした事実認識がまったくう
かがえないばかりか、「中国」という二文字さえ一度も出てこない。目を疑って再度精
読してみたが、水産問題に関連して「日中韓」というのは出てくるが、中国の海洋進出
も、中国によって日本の海洋権益が侵害された事実も、さらにそれに対してどう対処す
るのか、ということについても何も書かれていないのだ。先に述べたとおり、海洋政策
の「6つの基本理念」の中には、「海洋の安全確保」という柱が一応据えられてはいる。
しかし、素案が想定する「海洋の安全確保」とは実際には次のようなものなのだ。

 「周辺海域における治安維持については、密輸・密入国、工作船等犯罪に関わりうる
船舶の侵入事案の発生が、より効果的に監視し、取り締まるための制度上の整備を図っ
ていくことが必要である」

 「エネルギー資源等の多くを海上輸送によって輸入している我が国にとって、マラッ
カ・シンガポール海峡を始めとする海域における海上交通の安全確保や放射性物質輸送
の安全確保は、我が国の経済安全保障を確保するためにも極めて重要である。……海賊
行為の抑止という国際社会の要請に応えるとの観点から、公海上で我が国自ら海賊行為
を抑止し取り締まるための体制の整備を検討していく必要がある」

 いずれも日本が取り組むべき当然の問題ではあるが、「海洋の安全確保」と謳いなが
ら、どうして安全確保の大前提であるはずの「中国の海洋進出の脅威」については一言
も触れられていないのか? 不可解に思いながらさらに読み進めて行ったところ、6つ
の基本理念の最後の「海洋に関する国際的協調」という項目に、次の一文が出てくる。

 「東シナ海等においては排他的経済水域等について我が国と相対国との主張が重複す
る海域があり、資源開発等について問題が生じてきている。このような事態への対応や
問題の根本的解決に向けて、一貫して国際法に則した平和的な解決を追求してゆく必要
がある」(下線は記者)

 素案の中でただひとつ、「中国の海洋進出」に対応すると思しきものはこの一文だけ
であるが、ご覧の通り、東シナ海の問題は「相対国」とぼかした言葉で出てくるだけで、
中国とは一言も書かれていない。いったい、「中国の脅威」はどこへ行ったのか、と思
わざるを得ない。

 念のために言っておけば、素案第2部の「海洋に関する施策に関し、政府が総合的か
つ計画的に講ずべき施策(骨子)」という中には、「国連海洋法条約に基づく大陸棚の
外縁設定に向けた取組の推進」「排他的経済水域等における外国船による科学調査及び
資源探査への適切な措置」「領海等の安全確保に必要な制度の早期整備」など、中国に
よる権益侵害に対処するためにも必要な措置が列記されている。しかし、これらは総合
海洋政策本部が真っ先に取り組むべき問題であって、このような付録のような扱いであ
っていいはずがない。

 少なくとも、この素案に対する参与のコメント(概要、発言者名は不明)を見る限
り、「中国の海洋進出」やそれを前提とした「海洋の安全確保」について問題意識を持
って発言しているのはただ一人の参与だけで、なかには「国際的協調については、現在、
韓国との共同開発が進んでおり、次善の策かもしれないが、東シナ海における中国との
共同開発について計画案に盛り込むことが適切かどうかを検討してはどうか」とか「国
連海洋法条約で認められている権限を全て行使しなければならないわけではない。周辺
国に拘りすぎるのではなく、全体としての海洋立国を考えるべきである」などと、「国
際的協調」に重きをおき、「中国の脅威」をウヤムヤにしてしまような発言も見て取れ
る。これでは何のための総合海洋政策本部か、ということにもなりかねない。

 一方、日中間では東シナ海ガス田をめぐって協議が続けられているが、その間にも、
ガス田では炎が上がったり、パイプラインが敷設されるなど、中国側は着々と既成事実
化を進めている。「中国の海洋進出」「中国の脅威」という前提なしに、ただ日本が
「国際的協調」に重きをおいたり、あるいは海洋国家として発展することに目を向けて
いるだけでは、日本の海洋権益は中国に完全に蝕まれてしまうだろう。海洋基本法には
「安全の確保のための取組が積極的に推進されなければならない」(第3条)と規定さ
れている。海洋基本計画の策定にあたっては、まず中国によって日本の海洋権益が侵害
されてきたという事実を認識し、この規定を具体化することが求められるのではないか
(基本計画は3月頃閣議決定の予定という。行方を注視したい)。

※中国の海洋進出に関心のある方は、『明日への選択』1月号の特別対談「これでは
 ダメだ! 日本の海洋戦略」を是非お読み下さい。

(追記2月4日)

 本日、総合海洋政策本部が海洋基本計画の「原案」を公表し、「パブリックコメント」
といって国民の意見募集を始めた。この原案は、先に取り上げた「素案」をさらに練り
直したものだが、細部においては、中国の海洋進出やそれへの対応を示唆する文言が全
くないわけではないが、基本構造は変わっていないと思われる(もちろん「中国」の二
文字はない)。関心のある人は、この「原案」を実際に読んで意見を送ってください。

詳細は
→ http://202.232.58.50/jp/singi/kaiyou/public/index.html


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