日本と台湾の絆─日本統治時代から現代まで (1)   李登輝元総統

日本と台湾の絆─日本統治時代から現代まで (1)   李登輝元総統
時局心話會代表の山本善心氏が國會新聞社編集次長の宇田川敬介氏とともに去る3月15
日、台湾で李登輝元総統にインタビューした。李元総統は今回の総統選を総括しながら、
中国依存の台湾の現状や馬英九政権の未来について、また日本に対しては東日本大震災へ
のエールを送りつつリーダー論などを展開されたという。

 山本善心氏が毎週木曜日に発表している「山本善心の週刊木曜コラム」で、そのインタ
ビューを掲載している。第1回が4月12日、次回は4月19日掲載の予定だという。ここにその
第1回を転載してご紹介したい。

 なお、「週刊木曜コラム」には総タイトルとして「李登輝台湾元総統の単独インタビュ
ー」とあり、小見出しも付されていないため、本誌ではインタビューのタイトルを「日本
と台湾の絆─日本統治時代から現代まで」とし、また、読みやすさを考慮し、小見出しを
付し、一部の漢字を平仮名に開いたり適宜改行したことをお断りする。


李登輝台湾元総統の単独インタビュー(1)

                           時局心話會 代表 山本 善心

【山本善心の週刊木曜コラム:2012年4月12日 第373号】

 3月15日、淡水にある台湾綜合研究院に李登輝台湾元総統をお訪ねして、日台を取り巻
く、現今の政治、経済、歴史に関するご意見を伺った。本文の一部は以下のとおりであ
る。この模様は4月11日、午後9時からBS11で放映された。なお、筆者と、ジャーナリス
トの宇田川敬介氏がインタビューを担当した。

◆日本の統治下で近代化された台湾

 山本善心:今日は、まず歴史の問題、現在の政治状況、経済問題、それから今後の日本
に対するご意見などご質問させて戴きたいと思います。

 まず、1895年から1945年の間、台湾は日本の植民地下にありました。我が国の台湾統治
は、台湾にどのような影響を与えたのか。そして「日韓併合による朝鮮統治は日本側が一
方的に悪いことをした」と政治問題化しています。しかも、韓国側の歴史観に日本政府や
反日議員が同調しているのは残念なことです。その当時の歴史に詳しい李先生のご意見を
伺いたいと思います。

李登輝:このことに関しては一言で結論が言えます。台湾は50年間の日本の統治下で近代
化されました。その間、台湾に大きな変化をもたらしたのは、何と言っても伝統的な農業
社会から近代社会に変貌を遂げたことです。

 また、日本は台湾に近代工業資本主義の組織経営観念を導入しました。台湾製糖株式会
社の設立は、台湾の資本的工業化の発展となり、台湾銀行の設立により近代金融経済を取
り入れたのです。さらに度量衡と貨幣を統一して、台湾各地の流通を早めています。

 1908年の縦貫鉄道の開通により、南北の距離は著しく短縮され、灌漑水道と日月潭水力
発電所の完成は農業生産力を高め、工業化に大きく一歩を踏み出すことができたのです。

 日本はまた、台湾に新しい教育を導入しました。伝統的な私塾は次々と没落し、台湾人
は公学校を通して、新しい知識である博物、数学、地理、社会、物理、化学、体育、音楽
等を吸収し、徐々に伝統的な儒学や科挙の束縛から抜け出すことができました。そして世
界の新知識や事象を理解するようになり、近代的な国民組織や国民的意識が培われたので
す。

 1925年には、台北高等学校に文科・理科からなる高等科が設けられました。台北帝国大
学は1928年に創立され、台湾人は大学へ入る機会が得られました。直接内地の大学に進学
する者も出てきました。これによって、台湾のエリートはますます増え台湾社会の変化も
日を追って速くなったのです。

 こうして、近代観念が台湾に導入された結果、時間を守る、法を守る、さらに金融、貨
幣、衛生、そして新型の経営管理を会得した「新台湾人」を作り上げることができました。

 これが50年間、日本植民地時代に台湾を近代化させた大きな功績です。韓国側の問題は
後ほど話します。

◆独裁体制から民主化と台湾本土化を定着させた静かな「無血革命」

山本善心:日本の統治後1945年から1990年まで、中国国民党が武力で台湾統治することに
なります。1947年2月28日に行われた2.28事件というものがありましたね。国民党の政権
が台湾住民に与えた苦痛は地獄の世界であったとも聞いておりますが、そうした過程を経
て李先生は台湾人として初めて台湾総統に就任され、しかも22年前に台湾の民主化を実現
された訳でございます。

 台湾の民主化がその後どうなったのか、これは世界から喝采を浴びた台湾革命ですが、
決して生易しいものではなかったと思います。この民主化について、いま李登輝先生はど
のようにお考えでしょうか。

李登輝:1945年10月、国民党政府が台湾を接収した後、特権が横行したため、政治は腐敗
して社会秩序の混乱を招き、1年半を経ずして1947年2月に2.28事件が起こり、火種は台湾
全島に広がりました。

 国民党は中国大陸から兵を送り込んで鎮圧に当たり、台湾のエリート、民衆を数万人惨
殺し、台湾人を恐怖の底に落とし入れ、台湾人の正義に関わる勇気を喪失させました。

 1949年5月、国民党政府は台湾に戒厳令を敷き、しばらくして国民党政府そのものが中国
大陸の内戦に破れて台湾に退いてきました。そして自らの政権を堅固なものにするため、
多数の反対分子を逮捕しました。これが所謂、1950年代の白色テロと呼ばれるものです。

 国民党はさらに大陸反攻を国策とし独裁体制を作り上げたのです。そして戒厳令は38年
間も続き、1987年になりやっと解除されました。これは前代未聞のことであり、台湾人が
いかに言論の自由や思想や結社の自由が剥奪されていたか、当時の不安と恐怖の中での生
活や恐ろしさを皆さんは想像できるでしょうか。

 戒厳体制を打ち破るため台湾エリート達は長い時間をかけ、多数の犠牲者を出し、倒れ
ては起ち上がり、民主化運動は止まらず、やがて国民党が譲歩せざるを得なくなりまし
た。

 私、李登輝が台湾人として初めての総統に就任してからの12年間は、何とかして台湾人
の期待に沿うことができるよう民主化と台湾本土化を定着させるという争いの連続でし
た。

 まずは、「万年国会」を解散、終結し、また中華民国憲法の改正に踏み切りました。さ
らに1996年には歴史上初めて、人民による総統直接選挙を実行しました。その結果「主
権、民にあり」の観念が徐々に定着し、自由民主の社会が打ち立てられ台湾人は国民党の
統制から離れて、台湾主体の人民が生まれるようになったのです。

 これが私の強調する、静かな「無血革命」で、台湾を独裁体制から自由と民主主義とい
う民主化に打ち替えることができたのです。

◆民主化を停滞させた陳水扁と馬英九

山本善心:ハンチントン教授は民主化が定着する難しさを発表していますが、これを定着
させるにはいくつかの難問・抵抗が22年間あったと思われます。その後の陳政権あるいは
馬政権ではこの民主化は順調に守られ育成されてきたでしょうか。それとも、いろいろな
問題で間違った方向に進んでいることがあったりしたのでしょうか。

李登輝:私の使命のひとつであった台湾民主化は、一応軌道に乗りました。しかし、民主
主義というのは文化であり生活様式でもある。それが定着するまでは完成したとは言えな
い。民主化の完成の道はなかなか長いものだと私は思っておりました。

 陳水扁総統は、期待されたほどの使命感は持ち合わせていなかった。台湾の民主政治を
曲げてしまった。また馬英九政権になって何も起こらず、ただ昔の政治体制を踏襲してい
るだけです。むしろ、ほとんどの台湾の主体性を喪失して、中国に全てを託するような政
策を取っています。台湾の民主化、自由化というものは徐々に変な形で中国に近寄って行
くように見えてなりません。

◆政策転換が求められている台湾と中国の経済

山本善心:今回の台湾総統選で蔡英文さんが負けたことについて伺います。この最大の原
因は、台湾の経済界が馬さんを後押ししたことと聞いております。

 また米国も馬総統にもう1期4年間やらせてはどうかと蔡さんに対して冷たかった。今後
の4年間は、馬総統の体制で台湾と中国の経済関係がどのようになっていくのか、そうい
うことによってずいぶん今後の中台関係は変わっていくだろうと思われますが、いかがで
しょうか。

李登輝:馬英九総統は台湾の経済主体性というものを、ほとんど放棄した形で中国との関
係を結んできました。台湾経済が主体性として何をやるべきかということがはっきりして
いません。

 現在、中国大陸においてはかなりの台湾企業及びビジネスマンが活躍しています。そし
てそこで工場を建設したりしていますが、中国大陸自体が大きな問題にぶつかっていま
す。

 まず世界における需要の減少から、中国大陸がかつて「世界の工場」として発展してき
ましたが、前途に暗雲が立ち込め始めたということがあげられます。中国の温家宝首相が
今年から中国経済は8%という経済成長率を維持できず、次第に下降して行かざるを得ない
とハッキリいっています。中国経済は製造業の発展と輸出によって国の富を増やそうとす
る考え方が継続できなくなりました。中国経済は何とかして内需を拡大して、国民全体が
裕福な生活ができるように政策転換しなければなりません。

 そのために恐らく、今まで軍事費に使っていた予算をオーバーするぐらいのお金が必要
になるでしょう。それでうまく行くかどうかという保証はありません。このことは、現在
の台湾問題でもあるのです。大陸で活躍するビジネスマンにとっても同じ問題が突き付け
られています。

◆総統選で蔡英文候補が敗れた理由

 ただ、今回の総選挙で、この困難で最も重大な問題は十分に討議されていないのは残念
です。蔡英文は、民進党の候補者として出ましたが、今のビジネスマンから見た場合、彼
らに対応する政策というものがほとんど発表されていません。

 それに今後の馬英九総統は、台湾がこれから中国の新しい変化にどう対応していくのか
という政策も取られておりません。

 ただ中国大陸内部としては、台湾のビジネスマンに対して、蔡英文に投票しないようい
ろんな形で影響力を行使しました。だいたい、中国で活躍する台湾のビジネスマンの得票
数は40万票以上あります。台湾国内のビジネスマンも、中国大陸の経済問題を重視しない
民進党には投票しないということになり、蔡英文は負けたのです。                                             (つづく)

                              【次回は4月19日(木)】

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