台湾総統選と中国人  隅 俊之(毎日新聞上海支局長)

台湾総統選と中国人  隅 俊之(毎日新聞上海支局長)
馬英九総統が再選された台湾の総統選挙を中国人はどう見ていたのかという視点は、選
挙中からも出ていた。中国版ツイッター「微博」の書き込みが紹介されることが多く、一
党独裁国家も「蟻の一穴」から崩れて行く予感を持たせるものが多かった。

 毎日新聞の名物コラム「記者の目」がこのテーマを取り上げ、中国人の興味深い発言を
紹介している。一方、「思想統制する国を好きにはなれない」などという台湾人の中国観
も紹介していて、こちらも興味深い。

 中国が台湾人にとって決して友好的な国と思われていないことは世論調査にも如実に現
れているが、中国はビジネスの相手国ではあっても、とても「統一」を望めるような国家
でないことも台湾の人々はよく分かっていた。馬英九再選の要因の一つは、その中国観に
あったと見て間違いないだろう。


台湾総統選と中国人  隅 俊之(上海支局)
【毎日新聞:2012年2月14日「記者の目」】

 5回目の直接選挙となった台湾総統選は国民党の馬英九総統(61)が再選を果たした。対
中融和路線をとる馬総統の再選に、中台統一を望む中国政府は、胸をなでおろしただろう。
だが、共産党の一党独裁下で生きる中国人にとって、選挙で指導者を選び、民主主義を体
現していく台湾の姿は、むしろ両岸の決定的な違いを再認識させるものだったと思う。

◇弾圧と政府不信 選挙制度に憧れ

 選挙戦の終盤、台北市内の蒋介石を記念する中正紀念堂で、中国人観光客に「台湾の選
挙をどう思うか」と尋ねて回った。今回は1期目の馬政権が中国人の観光渡航を解禁してか
ら初の総統選で、多くの中国人が生で選挙を目撃する機会だった。「(選挙は)大陸には
必要ない」「社会発展に伴って導入すればいい」。答えはバラバラだったが、共通項があ
った。裕福で自信に満ちた彼らだったが、民主主義を語る時、劣等感にも似た寂しさがに
じみ出ていたように思う。

 中国でも日本などの選挙が報道されるが、台湾は同じ言葉を話す同胞だけに注目度は別
格だ。インターネットの大手サイトは総統選の開票状況を速報した。人々はパソコンにか
じりつき、中国版ツイッター「微博」には書き込みが相次いだ。「1票が台湾の運命を決め
るんだな」「選挙なんて西側の制度だと思っていた。中国はまだ子供だ」。民主活動家が
次々と拘束され、厳しい言論統制が続く中で、人々は選挙制度への並々ならぬ憧れを吐露
した。

 社会矛盾が噴出する中国では、民主化を求める動きが強まっている。広東省の陸豊市烏
坎(うかん)村では昨年、村民が村幹部の汚職を訴えて自治組織を結成し、3カ月の抗議行
動の末に更迭に追い込んだ。一方で共産党政権への批判の取り締まりは厳しさを増してい
る。ノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏はいまも獄中にあり、最近も反体制作家の余傑氏
が、激しい言論弾圧に耐えかね、米国に亡命を申請した。

 こうした一党独裁は中国社会を危機に追い込んでいる。昨年10月、広東省仏山市で2歳の
女児が車にひき逃げされたのに18人が知らぬ顔をして素通りし、女児が死亡した事件があ
った。人々の道徳心が失われたとして論議を呼んだが、広東省の経済学者は「助けてトラ
ブルに巻き込まれても何の補償もない。政府は国民に信じる心を持てと言うが、誰も政府
を信じていないのにどうして信じられるのか」と指摘した。

 選挙で選んだ政府なら責任も負える。だが選んでもいない政府に管理され、矛盾が噴出
する社会に生きる人々が政府を信じることなどできない。「悪ければ次の総統選で変えれ
ばいい」という台湾の有権者との違いがここにある。

◇統一への温度差 「独裁」嫌悪が壁

 馬総統の再選で、中国では「中台統一の動きが加速する」と歓迎する声も多かった。だ
が台湾では現状維持派が約8割を占める。中国人が台湾の選挙に共感しても、馬総統の再選
は人々が中台統一を望んでいることを意味しない。

 馬総統が勝利宣言をした夜、国民党本部の前で支持者に話を聞いた。王奕涵さん(23)
は親が中国でビジネスをしており、中台関係の安定を求めて馬氏に投票した。中国を「若
い世代は優秀で努力している」と評価しつつ、「思想統制する国を好きにはなれない」と
一蹴した。中央研究院社会学研究所の蕭新煌所長は「私たちが北京の独裁政権を支持する
ことはありえない」と指摘する。「台湾を小さなジャガイモだと言うなら私はこう言う。
『確かに。だが、とても熱くて触れないジャガイモだ』と」とも述べた。

 今年は当時の最高実力者だった故・トウ小平氏が改革開放の推進を指示した南巡講話か
ら20年になる。この間、中国は経済発展を遂げ、国内総生産(GDP)で世界2位に躍り出
た。軍事力を拡大させ、米国に並ぶ大国としての地位を築きつつある。これが両岸関係に
与える影響は大きい。だが、総統選で有権者の声を聞く時、民主主義の欠如という決定的
な違いが両岸の大きな壁だと思い知らされる。

 微博に総統選についての印象深い書き込みがあった。「台湾の同胞は統一を渇望してい
ると信じていた。だが分かった。誰もが統一を願ってはいないと。(民主主義を掲げる)
米国の帝国主義は全世界の人々の敵だと信じていた。だが分かった。米国の方が我々より
友人が多いのだと。中国は全世界の抑圧された民族の友人だと思っていた。だが分かっ
た。中国は大金で買ったアフリカの友人なのだと」。台湾総統選を通じて中国人が感じた
こと。それは「一等国」になりたくても、民主主義を獲得しない限りはなれない、という
一抹の寂しさだったと思う。

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