台湾人スパイの懺悔をでっち上げる滑稽な中国の焦り  黄 文雄(文明史家)

台湾人スパイの懺悔をでっち上げる滑稽な中国の焦り   黄 文雄(文明史家)

【黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」:2020年10月14日号】*小見出しは本誌編集部で付したことをお断りします。

◆エスカレートする中国から台湾への嫌がらせ

 中国が、あの手この手で台湾を揺さぶっています。コロナ後、世界で存在感を示し始めた台湾に対して、評判を落とすばかりの中国。その対比に焦りを感じたのか、中国から台湾への嫌がらせがどんどんエスカレートしています。

 軍事的な威嚇はいつもの手でした。空と海で、お約束通りの嫌がらせです。空では防空識別圏への侵入。海では、中国の軍艦が台湾の接続水域を航行しました。

 特に空での接近は頻繁で、2020年10月10日のニュースでは、9月16日から10月9日の間に、中国軍機が15回も台湾南西の防空識別圏に侵入。報道によれば、実弾射撃を伴わない軍事演習を実施していたとのことです。

 そして迎えた2020年の10月10日の国慶節の式典で、蔡英文総統が行ったスピーチに対して、どうやら中国はさらにお怒りのようです。スピーチの内容は、以下、報道を引用します。

<台北市の総統府前広場で10日、中華民国の建国記念日に当たる「双十国慶節」の祝賀大会が開かれ、式典に出席した蔡英文総統は演説を行った。対中関係について「両岸(台湾と中国)関係の安定を維持する決意がある」と強調しつつも、「これは、台湾だけが背負うことができるものではなく双方の共同責任だ」として中国に対し、台湾の主張を正視し和解や平和的な対話を共同で実現させるよう呼び掛けた。

 台湾を巡っては、米国から8月にアザー厚生長官が、9月中旬にはクラック国務次官が相次いで訪問し、関係の緊密化を印象付けた。これに反発した中国はクラック氏が訪台前日の同16日以降台湾周辺の空域で軍用機の活動を活発化させ、台湾は警戒を強めている。

 蔡氏は、演説の中で国防政策や経済戦略などにも言及し、非対称戦への対応力の向上や周辺国との安全保障面でのパートナーシップの強化、サプライチェーンの再構築への全面関与などに意欲を示した。

 一方、世界から評価されている台湾の新型コロナウイルス対策をアピールし、医療従事者の尽力や国民の協力に感謝の言葉を述べた。>

 この「双方共同の責任だ」という部分が気に入らなかったようです。これは、関係改善に向け「対等な立場での対話を望む」姿勢を示したものであり、台湾と中国が「対等」だなどと図々しいにもほどがある、ということでしょう。

◆中国が3日連続で国営中央テレビで放送した「台湾のスパイ」

 もちろん、これに対して中国側は強烈な不満を表明しています。同時に、このスピーチの後、中国は国営中央テレビで連日「台湾のスパイ」についての番組を放送して、蔡政権をけん制しました。

 番組は10月11日から連続3日間放送されました。番組で登場した台湾人の李孟居氏は、中国当局に拘束されただけでなく、テレビカメラの前で「過去に悪事を多く働いた。祖国や国家を傷つけることもあったかもしれない」と、謝罪までさせられています。

 李氏は、2019年8月に単身で香港に渡った後に消息不明になっていた人物だったそうです。番組の中では、李氏は国家安全維持法の導入で混乱している香港情勢を利用し、香港独立を図った罪で拘束されたと説明され、拘束時、彼が持っていたビラやポスターなども番組で放送されました。

 このことは台湾のマスメディアでも大きく取り上げられ、蘇貞昌行政院長(首相)は、以下のようなコメントを出しています。報道を一部引用します。

<中国は決まって無実の人に存在しない罪をかぶせて侮辱し、恐怖をあおると不快感を示した。

 対中政策を担当する大陸委員会は12日、中国に対し、強い抗議を改めて表明するとし、罪をでっち上げて台湾人を理由もなく陥れるのはやめるべきだと訴えた。>

 また、頼清徳副総統は次のようなコメントを出しています。報道を一部引用します。

<頼清徳副総統は12日、イベント出席後に取材に応じ、両岸の意見の不一致を解決するため、中国は対話に応じるべきだと呼び掛けた。また、李さんや李さんの家族に対し必要な支援を政府として行っていくとの姿勢も示した。>

 その問題の番組は、CCTV(中国国家中央テレビ)の『焦点訪談』という番組です。

◆なぜ情報合戦に長けている中国がわざとらしい番組を放送したのか

 この番組を見た私の感想としては、登場する警察官やイメージ映像などがとても芝居がかっているなという感想です。李氏がアメリカでも台湾独立活動を水面下で行っていたといった、壮大なノンフィクションになっています。李氏にはビジネスマンという顔のほかに、台湾独立分子の台湾スパイの顔もあった、という内容です。

 まあ、国家間の駆け引きにおいて、スパイという存在は必要悪です。それにしても、情報合戦に長けている中国が、こんなわざとらしい番組をでっちあげて台湾を攻撃するとは、よほど焦って作ったとしか思えません。それほど中国は追い込まれているのではないでしょうか。

 台米の距離が縮み、世界では台湾を支持する国家が増える一方で、中国の一体一路政策に不満を抱く国家が増えている現状、中国のメンツは丸つぶれです。

 国内にも変化がみられます。今や中国の若者は、以前ほど愛国精神といった愚民教育にそまっていません。拝金主義の中国社会で、どれだけ自分が生き抜けるかに必死です。これについては2018年にNHKが「三和人材市場」という番組を放送しました。

 国内政策も対外政策も思い通りに進まない中国共産党こそが、袋小路にはまってしまったのではないでしょうか。

 習近平が、いくら国内でAIやデジタルによる人民監視を徹底させても、自己を神格化するような時代錯誤ぶりです。中国は確かに14億の人口を抱えています。しかも、総人口は時代とともに昂進し続けています。一方で国際競争力は、2025年には中国のGDPはインドに追い越されるとも予測されています。

 ことに●小平の改革開放路線以来、中国は世界最大の通商国家となりました。一部の食料はインドやタイなどからの輸入に頼り、イデオロギー資源も輸入に頼っています。すでに毛沢東時代の農牧時代とは違い、安定のみが課題の貿易(通商)国家に変わりました。そのため、どの国に対してもケンカ腰ではやっていけない国となっているのが現状です。(●=都の者が登)

 今は、AI、サイバー、宇宙、電磁波などが国力の勝負を決める時代であり、ミニ国家や都市国家のような小国がモノを言う時代です。いまだに中国が強大で、いつでも国家総動員ができると勘違いしている国家指導者たちは、明らかに時代錯誤であり、そんな国家指導体制下にある国民も時代錯誤なのです。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。

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