台湾を論じない知的怠惰 【岡崎久彦】

台湾を論じない知的怠惰 【岡崎久彦】
世界の運命を決する問題は台湾問題しかない

 岡崎副会長は、今年は3回も訪台してシンポジウムなどに出席される活躍で、日本もさ
ることながら台湾でも李登輝前総統はじめ政府関係から厚い信頼を受けていますが、ご案
内のように、12月23日の「日台共栄の夕べ」において講演していただきます。
 昨年12月に出した機関誌『日台共栄』第4号の巻頭エッセイ「台湾と私」で「台湾を論
じない知的怠惰」と題して執筆いただいています。たいへん示唆に富むエッセイで、政府
の会議や国際会議などで独立の見通しを含めた台湾問題について議論できないのは知的怠
惰だと剔抉、警鐘を鳴らしています。                 (編集部) 


 私は一九九二年(平成四年)、駐タイ大使を最後に外務省を退官しているが、日華断交
の七二年(昭和四十七年)から退官するまで一度も台湾に行くことができなかった。
 なぜなら、今では外務省内規が改正され、課長クラスまで行けるようになったが、あの
頃、課長以上は行ってはいけなかったからである。
 退官後の人生は国際情勢をやろうと定めていた。しかし、台湾に行った経験が一度もな
いのだから、台湾についてほとんど何も知らないことに気がついた。
 実は、アジアの将来で、否、世界の将来において大事なことといえば台湾だけなのであ
る。国際政治のバランス・オブ・パワーに影響を及ぼすのは、台湾しかない。
 例えば、今後、朝鮮半島ではもしかしたら百万人くらい死ぬ事態が起こるかもしれない
。中東問題やテロ問題も確かに大問題ではある。しかし、世界政治のバランス・オブ・パ
ワーに影響を及ぼすほどではない。
 ただし、もしアメリカがベトナム戦争のように、イラクで負けて引っ込んでしまう事態
が起これば、若干バランス・オブ・パワーに影響するかもしれない。しかしそれも、アメ
リカの潜在的な力とはほとんど関係ない。一九七五年にベトナムで撤退したアメリカだっ
たが、七九年のアフガン戦争で完全に復帰したことをみても、それは分かる。
 しかし、台湾だけはそういかない。中国と台湾が統一したら、世界のバランス・オブ・
パワーは完全に変わる。もし米中が衝突して、中国が負けてもバランス・オブ・パワーは
崩れる。
 それだけ大きな台湾問題なのである。故にこの問題を考えることなく、アジアの問題、
ひいては国際情勢は考えられない。それを放っておくというのはまさに知的怠惰でしかな
い。それで、台湾問題を勉強しようと思って、退官後すぐ台湾に行ったのだった。
 そのころのことである。私は出席した国際会議の席上、将来、台湾が独立するかどうか
について話したことがある。
 そうしたところ、中国代表が「台湾問題はわれわれが決めることなので、発言しないで
欲しい」という。だから私は中国代表に、次のように説明した。
 これは、是非善悪の問題ではない。国際情勢がどうなるかの見通しについての議論なの
だ。十年経って、台湾が事実上独立していたら私の判断が正しかったということであり、
統一が実現していれば私の判断が間違っていたということに過ぎない。
 そうしたところ、二、三週間ほど経ち、香港の新聞が、岡崎は「情勢判断という口実で
台湾独立を論じた」と批判した。その頃、国際会議で台湾問題を論じた人はいなかったよ
うだ。もしいたとすれば、中国系の新聞が名指しで批判するはずだが、寡聞にして私は知
らない。
 そのことを思い返すと、今は隔世の感があるがある。
 しかし、実は今でも台湾問題はなかなかまともに議論できないのである。言い出せば、
必ず中国が怒り出す。特に外務省や防衛庁などの政府関係の研究所や財閥系の総研では、
独立の見通しを含めた台湾問題について議論できる状況にない。まだまだ自由ではない。
 これはやはり知的怠惰というしかない。大したことのない問題ならよいが、世界の運命
を決する問題は台湾問題しかないのであるから、台湾問題を議論しないで国際情勢を議論
するというのは、国際情勢の先行については議論しない、あるいは世界の将来について目
をつぶるのと同じなのである。

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