台湾へのF16売却は、米国「蔡英文再選支持」のサイン  野嶋 剛(ジャーナリスト)

【WEDGE infinity「野嶋剛が読み解くアジア最新事情」:2019年8月21日】

 台湾にとって長年の悲願であった米国のF16売却が、どうやら実現しそうである。米トランプ政権は、米議会に対して、F16の売却を認めるとの方針を通知したと米主要メディアが伝えた。この通知は非公式の段階であるが、すでに各方面で広く報じられており、議会にも反対の声はないとみられ、66機計80億ドルという近年にない台湾への巨額武器売却が、この台湾総選挙まで残り5カ月を切った敏感な時期で実現に向かうことの意味は大きい。

 この売却を報じた米メディアは、加熱する米中貿易戦争と緊迫する香港情勢において、中国の牽制を目的としたものだという見方を伝えている。それは必ずしも間違いではないかもしれないが、筆者として強調したいのは、米トランプ政権が来たる台湾総統選において、現職の民進党・蔡英文総統を支持するというサインをこのF16売却承認を通して明確に伝えた、という点である。

 F16の売却については、台湾の蔡英文政権はトランプ政権にかねてから打診をしており、前向きな感触を得ていた。蔡英文総統は、この7月に外遊するなかでニューヨークでのトランジット滞在を米側に認められるなど「破格の好待遇を米国から受けた」だと評価された。売却のニュースが流れる前に、蔡英文政権の高官は訪米の結果から「F16は大丈夫だ」と筆者に語っていた。これが実現すれば、7月に同様に米議会に通知された米戦車の売却以上の「快挙」となる。一方、中国外務省の耿爽副報道局長は19日の記者会見で、早速、売却取り消しを米国求める考えを明らかにした。

 台湾の戦闘機は、米国のブッシュ(父)政権時代に承認され、1990年代に売却されたF16の初期型A/Bの144機のほか、フランスから購入したミラージュ、自主開発した経国号(IDF)が配備されているが、いずれも老朽化しており、あと10年以内に大型改修をしなければ退役という年代物ばかりである。

 いずれ遠くない時期には、世代交代を急スピードで進めている中国の戦闘機に追い抜かれ、台湾海峡軍事バランスの最後の砦である制空権でも完全に太刀打ちできない状況に追い込まれることが目に見えていた。

◆門前払いだった陳水扁時代

 台湾も決して手をこまねいていたわけではなく、前々政権の陳水扁時代の2006-2007年にかけて、当時の新鋭型であるF16 C/D型を新たに購入したいという要望を米国に提案しようとしていたが、門前払いを食っていた。当時は米中関係も安定しており、中国との対立を煽るような独立色の強い発言を繰り返していた陳水扁総統に米国が不信感を抱いていたことが響いていた。

 その後、国民党の馬英九政権になると、中台関係も安定していたため、台湾は再び、F16の売却実現を期待したが、米国は中国への配慮から、A/Bのアップグレードに応じるという中途半端な決定を下した。それでも総額58・5億ドルという巨額なものとなったが、当時の米オバマ政権がやはり中国を過度に刺激しないことを優先させた決定だと見られていた。

 今回売却されるのはF16 Vと呼ばれるF16シリーズのなかでも第四世代の最も先進的な機種で、航続距離や耐久性、レーダーなどに優れており、米軍とのデータリンクもより柔軟に対応できる。現在保有するF16A/BもV型に改修中で、この売却により、台湾の航空戦力の対中均衡は当分、維持され得ると見られる。

 肝心のトランプ大統領が台湾問題をどう見ているのかについては相変わらず決め手となるような情報はないが、今回のF16売却決定には、ボルトン大統領補佐官や、シュライバー米国防次官補など、政権内の対中強硬派であり、親台派でもあるグループが大きな役割を演じたと言われている。彼らは基本的に対中接近を掲げる国民党に対して近年、厳しい見方をしており、国民党の総統選候補に決まった高雄市長の韓国瑜氏とも距離を置いているようだ。

 現在、蔡英文総統は、昨年までの支持率低迷から回復を続けており、これまで先行していた国民党の韓国瑜氏と接戦、あるいは追い抜くところまで持ち直している。最新の世論調査では、蔡英文氏と韓国瑜氏の一対一の対決となった場合、台湾のテレビ局TVBSの調査では、蔡英文氏が5ポイントリードし、美麗島電子報の調査では、蔡英文氏が14ポイントという大きなリードを見せている。

◆香港問題に続いて有力な「武器」を手にした蔡英文

 中国という大きな脅威を抱える台湾の社会は、防衛上の後ろ盾である米国の姿勢に敏感で、民進党・国民党支持者を問わず、米国のお墨付きを得ているかどうかを気にする。もし、この売却が実際に実現すれば、民進党は台湾の世論に対して、「米国支持」を強く印象付ける宣伝戦を展開することができ、蔡英文総統は、香港問題に続いて有力な「武器」を手にすることになる。

 総統選まで半年を控えたこのタイミングで武器売却を決めれば、台湾への武器売却に神経質になっている中国の反発が必至であることは誰でも想像がつく。今後、米中の軍事交流などが中断するなどの影響は避けられないだろう。もちろん米国も中国の反発は織り込み済みで今回の行動に出ている。

 もちろん米国はこうした事情をすべて織り込んでF16を売却するべきだと判断しており、中国が当選を望んでいない蔡英文総統の再選を、米国は支持するという強いサインと見るべきである。

 緊迫する香港情勢において中国は、米国がデモ隊を背後で操っていると疑っており、米中対立の煽りもうけて、香港問題が米中関係の焦点になりつつある。台湾への武器売却が実現すれば、米中関係のさらに新しい火種となることは間違いない。そのうえ解放軍や武装警察による香港への介入をにおわせる中国を牽制する効果もあり、このF16の売却決定が、今後の香港、台湾などを含んだ東アジア情勢に与えるインパクトを小さく見積もるべきではないだろう。

            ◇     ◇     ◇

野嶋 剛(のじま・つよし) ジャーナリスト、大東文化大学特任教授

1968年、福岡市生まれ。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学・台湾師範大学に留学。1992年に朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学の後、2001年からシンガポール支局長。その間、アフガン・イラク戦争の従軍取材を経験する。政治部、台北支局長、国際編集部次長、AERA編集部などを経て、2016年4月からフリーに。中国、台湾、香港、東南アジアの問題を中心に活発な執筆活動を行っており、著書の多くが中国、台湾で翻訳出版されている。2019年4月より大東文化大学社会学部特任教授(メディア及びジャーナリズム論)。

著書に『イラク戦争従記』(朝日新聞社、2003年)『ふたつの故宮博物院』(新潮選書、2011年)=中国で訳書が2014年度編集人年間最優秀図書(社会科学部門)に選出、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版、2012年)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社、2012年)、『チャイニーズ・ライフ』(訳書・上下巻、明石書店、2013年)=第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社、2014年)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店、2015年)、『故宮物語』(勉誠出版、2016年5月)、『台湾とは何か』(ちくま新書、2016年5月)=第11回樫山純三賞(一般書部門)受賞。最新刊に『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館、2018年6月)

公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

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