台湾は中国との関係を断ち切れば自由な経済体として飛躍する  黄 天麟(台日文化経済協会会長)

蔡英文政権になってようやく台湾経済が持ち直してきている。昨年の経済成長率は2.6%、輸出受注は過去最高の4828億米ドル、輸出額も過去7年で最大の伸び率の3174億米ドルと改善してきた。昨年12月の失業率は3.76%で、これは2001年1月の3.35%以来のほぼ17年ぶりの低さだった。

 台湾経済界の重鎮で、現在、蔡英文政権で国策顧問をつとめる元第一銀行頭取の黄天麟(こう・てんりん)氏は、台湾経済の30年を振り返り「両岸交流30年を祝賀すべきなのだろうか?」と疑問を投げかけ、この30年の台湾と中国の経済関係をたどりつつ「中国との関係を断ち切りさえすれば、台湾は自由な経済体として飛躍することができる」と指摘している。

 下記に、会長をつとめる台日文化経済協会の会報「台日文化経済協会通訊」(2017年12月)に掲載されたその論考をご紹介したい。

 本会は、蔡焜燦(さい・こんさん)氏が理事長だった2010年3月に「李登輝民主協会」と姉妹団体を結び、2015年12月には黄天麟氏が会長をつとめる台日文化経済協会と姉妹団体を結んでいる。そして、両団体に桜の寄贈を続けてきている。

 蔡焜燦氏と黄天麟氏は、本会が2004年10月から始めた李登輝学校研修団の常連講師陣で、毎回、その説得力に富む講義に感銘を深くしてきた。

 残念ながら蔡焜燦氏は昨年7月に亡くなられたが、蔡氏より2つ年下の黄天麟氏は癌を克服され、まだまだお元気だ。その説くところの要諦は、小さい経済圏はやがて隣接する大きな経済圏に必ず飲み込まれるという経済の周辺化現象論だ。下記の論考は、その理論を証明している。

             ◇     ◇     ◇

黄天麟(こう・てんりん)1929年(昭和4年)、台湾・澎湖県生まれ。国立台湾大学法学院経済学系卒後、米国コロンビア大学ビジネススクール研究。高等考試財政金融人員合格。1944年、第一銀行に入行。ロンドン支店長や国際部長、副頭取を経て頭取、会長を歴任。その後、陳水扁政権で国家安全会議諮問委員や総統府国策顧問をつとめる。蔡英文政権でも総統府国策顧問となり、現在、台日文化経済協会会長。2017年4月、日本政府から旭日中綬章を受章。

—————————————————————————————–両岸交流30年の第二の視点:失落した台湾経済黄天麟【台日文化経済協会通訊:2017年12月(第39号・冬期号)

 30年前の1987年11月2日、蒋経国は台湾人の中国親族訪問を開放した。国民党は「両岸交流30年」と銘打って祝賀イベントを開催し、大陸委員会もまたこれに合わせて「両岸交流三十年の回顧・ビジョンシンポジウム」を開催したが、問題は果たしてこの日が台湾にとって、祝賀記念に値する日だったのか、或いは「光復節」と同じように悲劇の始まりだったのかという点である。

 親族訪問は、「人道的」な見地からすれば価値あるものだが、台湾は特殊な環境にあって、中国は常に台湾を飲み込もうとする敵対国家であり、中国との30年来の交流は、「あの日」から台湾の衰退が始まったことを証明している。

 1980年代の台湾は全盛時代で、平均経済成長率は8.48%、1987年には経済成長率12.7%で、この良すぎる経済が「老兵の親族訪問」政策の実現を促したという社会的背景がある。当時、台湾のGDPは中国全体のGDPにも匹敵する規模であったことから、老兵の帰郷は福の神を迎えるような大歓迎を受けたが、これによって台湾経済の奇跡を持続させる基盤であった「三つのノー政策」は崩壊した。

 台湾は地理的に巨大な中国大陸の縁に位置し、先天的に中国と一体化していたなら、その辺境であったはずである。中国の貧富に関わらず、台湾は常に吸収され、貧しい時には台湾の財や投資が、富める時には台湾の人や資金が吸収されており、中国との関係を断ち切りさえずれば、台湾は自由な経済体として飛躍することができる。「三つのノー政策」はこの経済原理の信憑性を証明している。

 「親族訪問」によって、両岸交流のゲートが開かれた。一旦、ゲートが開かれると、親族訪問から観光へ、観光から投資へと進み、1989年の天安門事件で中国が世界から経済制裁を受け息の根も絶え絶えになると、台湾からの親族訪問は財を、観光は工場と労働者を持ちこんだ。

 中国で工場を設けた「台商」はコストや利率が良く、逆に台湾に残ったメーカーはその打撃を受けたため、その後、台湾メーカーは挙って中国へ移った。台湾の成長エネルギーは激減し、経済成長は1987年の12.7%から1993年には6.8%へと下がり、二桁成長は歴史上のものとなった。

 1990年代の台湾経済成長率は依然として6.6%と中〜高程度の成長率を保っていたが、これは李登輝総統の「急がず辛抱強く」(編集部註:戒急用忍)の政策によるものである。「急がず辛抱強く」は簡単に言うと、「政治力」を通じ、台湾が耐えうる程度の経済政策によって中国に吸い取られるのを防ぐことで、企業の中国投資に上限を設ける等し、ある業種(例えばウエムーや金融)については中国進出を認めなかった。1999年までは、台湾の海外生産比重は19.28%、中国への輸出依存も23.8%の低水準に抑えられており、これによって台湾の半導体は今日でも世界を牛耳る地位を築く基礎を作った。

 陳水扁政権は、2001年に「急がず辛抱強く」の政策をやめ、積極的な開放政策を採った。台湾のIT産業(携帯やパソコン)は4年の間に台湾からなくなったが、中国では同時期に大きく台頭し、2006年のGDP成長は12.68%で、IT産業の世界王国にのし上がった。2007年における台湾の対中国輸出依存度は40.7%、海外生産比重は46.13%に達し、平均経済成長率は4.86%に低下した。馬英九が開放した全面的な三通とECFA政策によって、台湾の対中国依存は日に日に高まり、台湾経済は瞬く間に失墜し2015年の経済成長率は0.65%まで落ち込んだ。

 これらはいずれも中国に対して開放した結果であるが、それでも「両岸交流30年」を祝賀すべきなのだろうか?

(作者は本会会長、国策顧問、第一銀行総経理・董事長。本文は2017年11月1日に「自由時報」に掲載されたもの)

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