台湾の恩人〜安倍元首相を永遠に偲ぶ  陳 銘俊(台北駐福岡経済文化弁事処処長)

台湾の恩人〜安倍元首相を永遠に偲ぶ  陳 銘俊(台北駐福岡経済文化弁事処処長)

【産経新聞:2022年7月16日】https://news.yahoo.co.jp/articles/a2584435eee7d7f43beb5e1944f1b51942e5bd3b

 今月8日、安倍晋三元首相が凶弾に倒れたという突然のニュースにわが耳を疑い、驚き、憤り、何とか難関を乗り越えてほしいと切に神に祈り続けましたが、同日夕、亡くなられたことを知り、大変遺憾そして心痛の極みでございます。

 安倍元首相とのお付き合いの過去を振り返ってみると、彼ほど台湾を知り、台湾を愛し、台湾を保護し、台湾のことを大切にしてくださった政治家は他にありません。安倍元首相はいつまでも台湾人の心の中に生き続ける台湾の盟友であります。

 安倍元首相とのご縁は、私が2004(平成16)年から務めた許世楷・台北駐日経済文化代表処代表(駐日大使に相当)=当時=の秘書官時代に遡(さかのぼ)ります。公邸での晩餐(ばんさん)会で初めてお目にかかったときから、ご夫妻の優しさ、そして飾らないお姿に敬服し、その後も何度か親しい国会議員と安倍元首相の誕生日会を開催させていただく中で、謙虚で温厚、優雅で洗練され、そしてウイットに富んだ思いやりのあるお人柄を知りました。元首相が病気で首相をおやめになったときには、一日も早く回復しますようにという台湾人の思いを携えて、代表と一緒にご自宅にお見舞いにうかがったことを思い出します。

 安倍元首相は、本当に日台関係に心血を注いでくれた政治家です。現役で要職に就いておられた際も、他国の顔色を窺うことなく、台湾政府の要人たちとの面会や電話を通じて交流しておられました。また日本の国益に応じて、前例を打破されチャイナスクールでない優秀な方を中国課長に任命したことからも、先見の明とガッツがある政治家であると垣間見ることができる。

 台湾と日本とはこれまで地震や水害などの大きな自然災害、そして新型コロナウイルス感染対策など、お互いにとっての難局を助け合い乗り越えてきましたが、これには安倍元首相の影響が大きく関係していると思います。台湾産パイナップルを中国が禁輸したときには、安倍元首相自らが台湾パイナップルを手に取り支援してくれましたし、コロナ禍での台湾へのワクチン提供にも、元首相は奔走してくれました。私の故郷・花蓮が大地震に見舞われたときにも、「台湾加油!(台湾頑張れ!)」という言葉を自ら色紙に毛筆で書いて台湾を励ましてくれました。日台運転免許相互承認も首相在任中のご尽力のたまものです。元首相の一挙手一投足、すべてのことが台湾人を激励し感動を与えてくれました。日台関係は李登輝元総統を失い、今度は安倍元首相をも失ってしまいました。最も頼もしい頼りを失ってしまいました。非常に残念でたまりません。

 昨今の世界情勢を見れば、多くの政治家や企業が独裁国家の巨大マーケットに目がくらんでいます。安倍元首相は決して惑わされず心動かされることなく地球儀を俯瞰(ふかん)する外交を展開し、全世界の自由民主を愛する国々に対し独裁国家に注意の目を向けるよう呼びかけました。これによって民主国家は独裁国家の野心に目が覚めたといえます。台湾有事は日本有事、そして日米同盟有事でもあると日本や内外に繰り返し何度も呼びかけ続けた安倍元首相は台湾の恩人といえます。また、アメリカの「ロサンゼルス・タイムズ」に寄稿し、アメリカは台湾への「あいまい戦略」を見直し、明確にするよう呼びかけられました。バイデン米大統領と岸田文雄首相との日米共同会見で、台湾有事が起きた場合に台湾に出兵して台湾を守るかとの質問に、バイデン大統領は躊躇(ちゅうちょ)することなく「イエス」と答えたこと、これは非常に大きな割合で安倍元首相の影響を受けているのです。

 安倍元首相は「自由で開かれたインド太平洋」の実現に向けて一生懸命に取り組まれ、インド太平洋地域の平和と安定にとって、非常に大きく偉大な功績を残されました。日本の周りを見回したとき、反日、あるいは友好的でない国が多くあるといえますが、台湾だけは親日であり、日本語習得者や勉強者が多く、毎年、人口の約4分の1が日本を訪れています。安倍元首相は非常に愛国心の強い政治家でありましたので、このような台湾の価値を知り、台湾の大切さを理解してくださいました。日本の周りでは台湾だけが最も信頼できる真の友人と考えておられたのです。

 安倍元首相がこの世を去られた際、台湾の蔡英文総統はその死を悼み、政府機関や学校で半旗を掲げるよう決め、日本の大使館にあたる日本台湾交流協会にも弔問に訪れました。

 また、台北市の超高層ビル「台北101」では元首相への追悼と感謝の気持ちを込め、「台湾の永遠の友人」「感謝」などの追悼メッセージを表示し、台湾南部の河川「愛河」をはじめ、国内のあちこちで追悼活動が行われ、大きな悲しみに包まれています。この度、台湾からチャーター便を利用して山口を訪問し、安倍元首相の追悼をしたいとの連絡が入りました。私にとってもそうですが、まるで自分の家族を失ったかのごとく台湾人は悲しみ、その悲しみは日本人以上かもしれません。

 「哲人は遠ざかったが、その模範はいつまでもわれわれの心に生き続ける」という詩の通り、日台友好のために粉骨砕身してくださった偉大なる政治家、安倍元首相に深甚なる哀悼の意を表します。

 「一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。しかし、もし死んだなら、豊かに実を結ぶようになる」(聖書ヨハネの福音書第12章24節)

 安倍元首相の一粒の麦、信念が、千の風になってより多くの日本の政治家に届き、識見を持ち自分の国を守り、同時に日本と台湾との兄弟の情を大切にして下さる政治家が増えていくことを心から願います。

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陳銘俊(ちん・めいしゅん)1964年3月、台湾東部、花蓮県生まれ。台北市の中国文化大韓国語学科を卒業後、台湾外交部入り。大阪外国語大(現大阪大)や慶応大への留学経験がある。カリフォルニア大学バークレー校、ハーバード大学客員研究員。許世楷・台湾駐日代表(当時)の補佐官や台北駐ボストン経済文化弁事処の副処長などを歴任し、2018年7月から日本の内閣官房にあたる台湾総統府で機要室長を務めた。2021年10月1日、台湾の総領事館に相当する台北駐福岡経済文化弁事処処長(総領事)として着任。趣味は語学研究。

※この記事はメルマガ「日台共栄」のバックナンバーです。

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