台湾と日米同盟  浅野 和生(平成国際大学教授)

台湾と日米同盟  浅野 和生(平成国際大学教授)

【週刊「世界と日本」第2217号:2022年3月14日】https://www.naigainews.jp/%E5%88%8A%E8%A1%8C%E7%89%A9/

 2019年10月、台湾の蔡英文総統は、「中国は権威主義体制で民族主義と経済力を結びつけ、自由民主の価値と世界秩序に挑戦している。だからこそ、インド太平洋戦略の一角に位置する台湾は民主の価値を守る最初の防衛ラインとなる」と宣言した。蔡総統の現状認識は明快であり、ここから台湾と日米同盟の役割がくっきりと浮かび上がる。

 中華人民共和国は、憲法前文においてマルクス・レーニン主義と毛沢東思想、?小平理論に加えて、習近平の中国の特色をもった社会主義を正統思想として掲げている。さらに第一条では、中国は人民民主専制の社会主義国家であり、中国共産党による指導が中国の特色ある社会主義の本質であると宣言し、いかなる組織も個人もこの社会主義制度を破壊することは許されない、と明言している。つまり中国は、中華思想と皇帝専制の歴史を引き継いでいるだけはなく、中国共産党独裁を国是とし、上記思想のみを許容するイデオロギー国家である。中国については、この事実を軽視すると判断を誤ることになる。中国は、自由、民主と法の支配を尊重する日本やアメリカ、台湾とは価値観において根本的に異なっている。だからこそ習近平政権の現状変更の試みに対抗して、価値観を共有する日米台は手を携えて「自由で開かれたインド太平洋」の維持に努めなければならないのである。

 また、習近平主席は、昨年7月1日の中国共産党創設100年記念式典、10月9日の辛亥革命110周年式典などの重要演説において、台湾併合による「祖国完全統一」を繰り返し明言している。しかし中国のゴールは、さらに進んで21世紀半ばまでに軍事強国となり、世界覇権国になることである。その手始めとして、日本列島から南西諸島、台湾を経てフィリピンに至るいわゆる第一列島線までを中国の海にしようとしているのである。

 こうして中国が東シナ海と南シナ海を中国の海にしようとするとき、その結節点に位置するのが台湾でありその北東に隣接するのが尖閣諸島である。だからこそ、2020年の秋頃から中国軍の戦闘機、爆撃機などが台湾の防空識別圏を頻繁に侵すようになったのであり、その数は昨年10月の最初の5日間には150機に達した。一方、尖閣諸島海域では、中国公船が我が物顔に航行している。今年に入ってからは、今日まで中国公船が接続水域に入らなかった日は一日もない。中国は従来から、台湾、尖閣諸島の領有権を主張してきたが、今や実力行使に出ているのである。

 また、筆者は去る2月14日に日本最西端の与那国島を訪ね、糸数健一町長から話を聞く機会を得たが、人口1650人余りの与那国島における島民の生活の安定と、将来にわたる人口の維持は、離島振興問題ではない。日本の国土の維持、安全保障問題そのものである。

 実は、与那国島を通る東経123度線が日台の防空識別圏の境界線とされている。このため、島の東側3分の1は日本の、西側3分の2は台湾の防空識別圏に含まれる。したがって、万一台湾が中国の支配下に入れば、与那国島は111キロの至近距離で中国と対峙するばかりでなく、島の3分の2が中国の防空識別圏に入ることになる。

 さて、現在、与那国島には150人余りの自衛隊が配備されているが、これは沿岸監視隊であって対敵攻撃力はない。石垣島にはミサイル部隊が配備されるが、今日まだ基地は建設中である。そして、与那国島から沖縄本島まではるか520キロの距離がある一方、台湾までは111キロであり、石垣島と沖縄本島まで410キロあるが、台湾とは270キロである。その台湾を中国が占拠すれば、中国軍がそこまでやってくる。

 あるいは尖閣諸島を中国が奪取して恒久施設を建設すれば、南西諸島と台湾の間に中国がくさびを打ち込むことになる。

 これに対して、トランプ政権以後のアメリカは、「自由で開かれたインド太平洋戦略」を国防・安全保障の基本としている。昨年1月5日、政権交代を目前に控えたトランプ政権のオブライエン国務長官は、「インド太平洋戦略枠組み(U.S. Strategic Framework for the Indo-Pacific)」の機密指定を解除した。それによると、日本は「インド太平洋安全保障体制の柱(pillar of the Indo-Pacific security architecture.)」として最重要の同盟国に位置付けられ、台湾はパートナーとして重視されている。それから間もない1月20日、共和党から民主党へと政権が交代すると、バイデン政権はこの戦略を継承した。こうして、昨年4月の日米首脳会談でも、6月のG7サミットでも、「自由で開かれたインド太平洋」の維持が謳われ、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調し、両岸問題の平和的解決を促す」ことが首脳宣言に書き込まれた。

 また4月の日米首脳会談で日本は、防衛力強化の決意を示したが、これについて岸信夫防衛大臣は宇宙やサイバーなど、すべての領域で防衛力を強化し、日米同盟における日本の役割を拡大していく考えを示した。他方、アメリカは蔡英文政権の台湾に、改良型のF16その他兵器の売却を進め、台湾軍の訓練支援のために米国軍人を派遣している。

 台湾支援の根拠として、米国には、台湾関係法その他、米台関係強化の根拠となる法が整備されている。しかし残念ながら、日台間に公式の安全保障協力関係は存在しない。

 幸い、昨年8月28日に、自民党政調会の佐藤正久外交部会長と、大塚拓国防部会長が、台湾・蔡英文政権与党の民進党の外交、防衛担当議員との間で与党間2プラス2対話を実現させた。これ以後、与党間対話が継続的に実施されている。これを活用して、今年中に改定が予定されている国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛計画の戦略3文書の見直しに際して、日台与党間の意思疎通や合意事項を反映させることが望まれる。

 しかし、中国の軍事行動による台湾有事、尖閣奪取に備えるためには、与党間対話を日台政府間の安全保障協力へと格上げしなければならない。これによって、米台関係の強化と合わせて、日米台の安全保障協体制の構築へと歩を進めるべきである。(2月20日記)

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