台湾「有事」をめぐる5つの論点  江崎 道朗(評論家)

台湾「有事」をめぐる5つの論点  江崎 道朗(評論家)

【産経新聞「正論」:2021年5月18日】

 4月16日に公表された日米首脳共同声明は画期的であった。アメリカと日本とが自由主義陣営のリーダーとして中国に対峙(たいじ)する構図を明確に打ち出したからだ。

 特に日本では、佐藤栄作・ニクソン共同声明以来、実に52年ぶりに台湾に言及したことが注目された。中国政府からの圧力に屈することなく、《日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す》と、台湾に言及した菅義偉政権の英断に心から敬意を表したい。

 この直後の4月22日、一般社団法人日本戦略研究フォーラム主催で「日本が直面する中国リスクの現状と打開策」と題するシンポジウムが開催された。私もパネリストの一人として話をさせてもらったが、話題の中心はこの共同声明と台湾情勢であった。台湾有事は人ごとではないからだ。

 他のパネリストとも話をしたが、今回の共同声明を受けて、少なくとも以下の5つの論点について官邸の国家安全保障会議において議論を開始すべきだろう。

◆日本の「有事」と認識を

 第1に、台湾と先島諸島(与那国、石垣、宮古など)はすぐ近くであり、台湾有事となれば、戦闘に巻き込まれる可能性が高い。よって先島諸島の島民避難が必要だ。周辺海域で操業する漁民や船舶の安全も脅かされることになる。在日米軍の関与を牽制(けんせい)するため、中国側が沖縄・先島諸島に対してサイバー・電磁波攻撃、通信など重要施設への破壊工作などを仕掛けてくることも予想される。尖閣諸島への海上民兵襲撃といった陽動作戦も想定される。

 実は去る3月16日の日米2プラス2において「台湾有事に際しては緊密に連携する方針」を確認している。実際に連携できるようになるためには、日米共同計画の立案と訓練の実施が必要だ。よって、まずはできるだけ早く日米共同で計画を立案するよう動くべきだ。そして日本は台湾有事に際して何ができ、何が必要で、何ができないのか、現行の法体系と装備を把握し、国民に説明してもらいたい。

 もちろん台湾有事に日本を関与させまいと、中国はさまざまな嫌がらせを仕掛けてこよう。特に中国大陸にいる日本企業とその関係者に対する恫喝(どうかつ)や日本本土に対するサイバー攻撃、そして「台湾有事に関係すると戦争に巻き込まれる」みたいな宣伝工作も想定される。これらの恫喝・対日工作にいかに対応するのかも多角的な検討が必要だ。

 第2に、台湾有事となれば中国側はサイバー攻撃と重要施設に対する破壊工作などによって台湾に騒擾(そうじょう)状態を作り出し、政府転覆を図ってこよう。

 そうなった場合、台湾の在留邦人の安全をいかに確保し、避難させるのかが問われることになる。関連して台湾在留の米国をはじめとする友好国の人々の一時避難の受け入れ、負傷者の手当てなどの措置も必要だ。これは日米豪印(クアッド)戦略対話やG7(先進7カ国)会合などでも協議すべきだろう。

 第3に、在留邦人の避難などもあることから、早急に台湾との公式協議の場を設けることだ。

 台湾との間では漁業協定締結など公式協議の実績は積み重ねられてきている。安全保障に関しても民間レベルの会合は積み重ねられているが、公式協議はまだない。

 だが共同声明で台湾について触れた以上、先島諸島防衛と台湾防衛に参戦する米軍に対する支援作戦、そして在留邦人の避難計画などを台湾と協議せざるを得ない。政府は早急に台湾の安全保障当局との協議を開始すべきであろう。

 ちなみにアメリカは既に台湾政府とのハイレベルでの公的交流に踏み切っている。

◆金融・経済危機への備えも

 第4に、台湾有事に伴う経済・金融危機に対する備えだ。台湾有事は、軍事だけではない。台湾は世界有数の半導体生産地だ。しかも台湾に攻撃を仕掛ければ中国に対して経済制裁を発動することになり、世界経済は深刻なダメージを受ける。よってG7などにおいて台湾有事に伴う金融、財政、経済危機に関して、あらかじめ協議しておくべきなのだ。

 第5に、台湾と朝鮮半島有事は連動するということだ。拙著『朝鮮戦争と日本・台湾「侵略」工作』(PHP新書)でも指摘したが、1950年の朝鮮戦争と台湾有事、そして日本国内での暴動は連動していた。在日米軍が朝鮮戦争に専念できないようにするためだった。その過去を踏まえれば中国側は、米軍の戦力を分散させるべく、台湾と尖閣と朝鮮半島有事を連動させてこよう。ロシアも呼応するかもしれない。

 よって台湾有事は半島有事などと連動し、かつ経済・金融危機をも招来するのだが、こうした複合的な危機に現在の官邸の危機管理体制だけで対応できるのか。体制の拡充が必要ではないのか。

 以上の5点について官民挙げて議論を本格化させたいものだ。(えざき みちお)

*編集部註 日本戦略研究フォーラム「日本が直面する中国リスクの現状と打開策」 http://www.jfss.gr.jp/symposium/#43

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