バイデン大統領の「台湾は独立している」発言は確信犯?

バイデン大統領の「台湾は独立している」発言は確信犯?

 中国の習近平・国家主席とオンライン形式で首脳会談した翌日の10月16日、米国のバイデン大統領はニューハンプシャー州に向かう途中、記者団から習主席との間で台湾問題に進展があったかを問われ「われわれは台湾関係法を支持している。それが全てだ。(台湾は)独立しており、自ら決定を行う」と答えたと報じられた。

 ただ、「この数時間後に再び台湾に言及した大統領は『われわれは独立を促しているわけではない』とした上で、米国の台湾政策に変わりはないと強調。記者団に対し、『政策を変更するつもりは全くない。台湾(関係)法が求める通りの行動を促している。それこそ、われわれが行っていることだ。台湾に決めさせよう。以上だ』と釈明した」(Bloomberg)とも報じられている。

 米国の歴代政権の対中国・台湾の関係は、台湾関係法、米中間の3つの共同コミュニケからなる「『一つの中国』政策」を基本とし、近年はこれに、台湾に対する「6つの保証」を加えている。トランプ大統領も、習近平・国家主席との2017年2月9日の電話会談で「われわれ(米国)の『一つの中国』政策」を尊重する(honor our “one China” policy)と表明していた。

 ところがバイデン大統領は、8月19日に放映された米ABCニュースのインタビューで「台湾に対しても防衛義務がある」と発言し、「もし誰かがNATOの同盟国に侵攻したり、実力を行使したりすれば、我々は対応する。それは日本や韓国、台湾も同じだ」と発言。

 それから2ヵ月後の10月21日にCNNテレビの番組に出演した際には「中国が台湾を攻撃した場合、アメリカは台湾を防衛するのか」と質問されたのに対し「そうだ、われわれはそうする責務がある」と答えた。

 今度は、米中首脳会談の翌日に「(台湾は)独立しており、自ら決定を行う」と発言した。

 8月と10月の発言に対しては大統領側近が「台湾に関する政策は変わっていない」と釈明し、3度目は大統領自身が釈明した。

 10月発言のとき、本誌は「一国の元首が2ヵ月に2度も同じ問題で口を滑らせることなどあるのだろうか」と疑問を呈し、恐らくバイデン大統領自身も、バイデン政権内部も「米国は台湾を防衛する義務がある」という認識が普通に持たれているからではないか、と指摘した。

 11月発言も、同じ印象を持たざるを得ない。バイデン大統領自身もバイデン政権内でも「台湾は独立している」と考えているのではないだろうか。

 日本の総理大臣が4ヵ月に3度も同じ趣旨の発言をしたら、確実に「舌禍事件」として国会などで追及され、メディアも森友問題以上に騒ぎ立て、総理辞任へと追い込まれる可能性もある。

 しかし、米国では台湾に関する大統領の一連の発言は、一国を揺るがすほどの騒動にはなっていないようだ。逆に、10月発言の際は、野党の共和党議員からは応援声明も出てくるほどで、ブリンケン国務長官が台湾の国連組織への参加を支持する声明を発表したのは発言から5日後のことだ。

 バイデン大統領は、民主党も共和党も台湾への理解が深いこのような国情も踏まえ、中国に対する抑止力として、台湾併呑に傾く中国を刺激するような発言を敢えて繰り返しているのではないだろうか。いわば米国流の中国に対する世論戦だ。

 11月発言について、日本経済新聞もほぼ同じ観点から、バイデン氏にアジア政策を助言した元側近やオーストラリアのダットン国防相の発言という「証拠」を理由に「意図的に間違えた「確信犯」ではないのかとレポートしている。下記にその記事をご紹介したい。

—————————————————————————————–バイデン氏「台湾防衛」発言に確信犯説 疑心暗鬼の中国【日本経済新聞:2021年11月19日】https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN272LK0X21C21A0000000/

 バイデン米大統領が台湾をめぐり「失言」を連発している。機微に触れる「一つの中国」政策などについて米国の歴代政権と異なる立場を示唆し、直後に修正や撤回を繰り返す。台湾防衛義務に触れた発言は中国を抑止するため意図的に間違えた「確信犯」の可能性がある。

 「我々は台湾の独立を奨励していない」。バイデン氏は16日、東部ニューハンプシャー州で記者団に強調した。これに先立って「台湾が独立している」との認識を示したと受け取られかねない発言をしていた。歴代政権は中国大陸と台湾が1つの国に属するという「一つの中国」政策を踏襲してきた。

 バイデン氏は米東部時間15日、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席とのオンライン協議で「一つの中国」政策を確認したばかりだ。首脳同士が台湾をめぐる双方の立場を明確にして意図しない衝突を避けることが主眼だった。協議翌日の「失言」で中国は米国に再び不信感を強めた可能性がある。

 バイデン氏は大統領就任前から失言癖で知られ、8月と10月には米国は台湾防衛の義務があると明言して物議を醸した。米国で1979年に成立した台湾関係法は、台湾の自衛力強化の支援をうたいながら台湾防衛を確約していない。ホワイトハウスはいずれも直後に発言を撤回して火消しに回った。

 この過程で浮上したのが、台湾防衛義務をめぐる発信が「確信犯」との見方だ。バイデン氏にアジア政策を助言した元側近は「バイデン氏は米国の台湾政策を知り尽くしている」と指摘する。

 根拠は2001年にさかのぼる。当時のブッシュ大統領(第43代)は米国に台湾防衛義務があるかどうか問われて「もちろんだ、中国はそう理解すべきだ」と応じた。

 バイデン氏は当時、上院議員として米紙に寄稿し「外交で武力行使の権利留保と台湾防衛の事前約束には雲泥の差がある。細部に注意しないと同盟国からの信頼を損なう」と苦言を呈していた。

 安全保障の新枠組み「AUKUS(オーカス)」を米国や英国と立ち上げたオーストラリアのダットン国防相の発言も「確信犯」説を補強する。

 ダットン氏は11月、豪メディアに台湾が中国に攻撃された場合「もし(同盟国である)米国が行動を起こすことを選択したら、我々が米国を支援しないことは考えられない」と述べた。

 米国が軍事行動に出れば、豪州も追随する考えを明言した。両国の国防当局が事前に擦り合わせなければ難しい発言だ。

 中国も「確信犯」とみている公算が大きい。1度目の発言の際は外務省報道官は「メディアが失言と報じている」と取り合わなかったが、2度目の発言に報道官は「失言」に触れなかった。

 習氏はバイデン氏との協議で「台湾独立の分裂勢力が挑発的に迫り、レッドライン(越えてはならない一線)を突破すれば、我々は断固とした措置をとらざるを得ないだろう」と強調した。米国では中台統一へ武力行使を排除しない立場を示したと受け取られている。

 バイデン氏は強気の姿勢を示すが、台湾有事での軍事介入は米国民の支持を得られるかがカギをにぎる。米シンクタンク、シカゴ・カウンシルの7月の調査では、台湾有事に米軍を派兵すべきだと答えた人の比率は52%だった。初めて半数を超えたが「ロシアによるバルト3国侵略」への派兵(59%)には及ばない。

 バイデン氏の「失言」は日本の安全保障にも直結する。4月の日米首脳声明は台湾海峡について「平和と安定の重要性を強調する」と明記した。自民党内では台湾有事に備えて日米の防衛協力指針を見直すべきだとの声があがる。

 台湾有事を想定した米軍の図上演習参加者は「米国が深刻な規模の犠牲者を出すことに疑問の余地はない」と話す。内向き志向を強める米国が遠い極東の有事にどれだけの犠牲を払う覚悟があるかはまだ見通せない。

(ワシントン=中村亮、シドニー=松本史)

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