【China2049】中国「100年マラソン」の野望

【China2049】中国「100年マラソン」の野望

国際派日本人養成講座より転載

「過去100年に及ぶ屈辱に復讐すべく、中国共産党革命100周年にあたる2049年までに、世界の経済・軍事・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する」

■転送歓迎■

■1.「自分が信じ込んでいた仮説は、危険なまでに間違っていた」

 過去30年にわたって中国専門家としてアメリカの歴代政権の対中政策に関わってきたマイケル・ヒルズベリー博士が著書『China2049 秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」』[1]で、自分がいかに中国に騙されていたかを赤裸々に語って、話題を呼んでいる。

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 わたしは、1969年に中国との連携を後押しする最初の情報をホワイトハウスに提供したひとりなのだ。以来、数十年にわたって、技術と軍事の両面で中国を援助することを両党の政権に促してきた。

その間を通じてわたしは、アメリカのトップレベルの外交官と学者が共有する仮説をすっかり信じ込んでいた。・・・すなわち、「中国は、わたしたちと同じような考え方の指導者が導いている。脆弱な中国を助けてやれば、中国はやがて民主的で平和的な大国となる。しかし中国は大国となっても、地域支配、ましてや世界支配を目論んだりしない」というものだ。・・・

 こうした仮説は、すべて危険なまでに間違っていた。現在、その間違いが、中国が行うこと、行わないことによって日に日に明らかになっている。[1,162]  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 一人の専門家が、これほど率直に、かつ1冊まるまるを使って自らの過ちを世に公表した事はかつてあっただろうか。文章は冷静で淡々としているが、紙背からは、30年も中国に騙されていた責任を痛感し、まだ間に合ううちに世界の人々に真実を知らしめたい、という静かな執念が感じられる。

■2.「100年マラソン」

 博士が「危険なまでに間違っていた」と悟ったのは、次のような経緯だった。

 1990年代後半のクリントン政権下で、博士は国防総省とCIAから「中国のアメリカを欺く能力と、それに該当する行動について調べよ」と命ぜられた。そこで諜報機関の秘密資料にあたったり、中国の反体制派をインタビューするうちに、従来の「中国の平和的な台頭」という仮説とは矛盾する事実が続々と出てきた。

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 やがて見えてきたのは、タカ派が、北京の指導者を通じてアメリカの政策決定者を操作し、情報や軍事的、技術的、経済的支援を得てきたというシナリオだった。これらのタカ派は、毛沢東以降の指導者の耳に、ある計画を吹き込んだ。

それは「過去100年に及ぶ屈辱に復讐すべく、中国共産党革命100周年にあたる2049年までに、世界の経済・軍事・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する」というものだ。この計画は「100年マラソン」と呼ばれるようになった。共産党の指導者は、アメリカとの関係が始まった時から、この計画を推し進めてきたのだ。[1,281]  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 中国はアメリカの伴走者を装って助けて貰い、十分力をつけてから、最後のラストスパートでアメリカを抜き去って勝者としてゴールインする、という戦略なのである。

■3.「100年マラソン」が引き起こした中ソ対立

 博士が「100年マラソン」の戦略に気がつくと、中ソ対立もそれが原因だった事が、改めて了解できた。

 1969年、中国はアメリカに、ソ連と対抗するための協力をしたいと申し出た。ニクソン政権はそれを受けるかどうか決定するために、博士に分析を求めた。

 博士は国連本部事務局のソ連職員アルカディ・シェフチェンコと仲良くなり、彼の意見を引き出した。彼は、何十年も中国はソ連の援助に頼る弱者を巧みに演じてきたが、その後で「ソ連の指導者は中国が共産圏の支配、ひいては世界支配を目論んでいると考え、中国人を憎み恐れている」と語った。

 ソ連から来た他の国連職員もこう警告した。「中国に脇役に甘んずるつもりはない。彼らには彼らのシナリオがあり、世界という舞台の主役を射止めるためなら何でもする覚悟だ。アメリカが中国の誘いに乗れば、予想もしない結果を招くだろう」と。

 しかし、当時、中国の経済規模はアメリカの10分の1に過ぎなかった。その中国がアメリカを追い抜くことを夢見るなどというのは非現実的なことのように思えたので、ヒルズベリー博士は米政府に直接的な中国支援を推奨した。

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 こうして中国との新たな関係が始まり、それは、わたしたちが考えもしなかった重大な結果をもたらすこととなった。[1,593]  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

■4.「今になって、自分の単純さが悔やまれる」

 1978年、カーター政権下で米中関係は正常化され、アメリカは中国を積極的に支援し始めた。中国は最初の5年間に1万9千人の中国人留学生をアメリカの大学に送り込み、その後、さらに増やしていった。

 1981年にレーガン大統領が署名した「国家安全保証決定令」では、中国軍の戦闘能力を国際レベルにまで底上げするために、先進的な空陸海の技術を中国に売ることを許可するものだった。

 またアフガニスタンに侵攻したソ連に対して、アメリカは反ソ・ゲリラを支援して泥沼化させ、これがソ連崩壊の大きな要因となったのだが、その際にも中国から20億ドルもの武器を購入して、ゲリラ勢力に提供している。

 レーガン大統領はソ連打倒という点では巨大な貢献をしたのだが[a]、その手段として中国を強力に支援して、ソ連への圧力とするという戦略をとったのだ。

 レーガンは中国の危険性にも気がついていて、対中支援の指示書にサインする際にも、「対中支援は、中国がソ連からの独立を維持し、独裁体制の民主化を図ることを条件とする」という但し書きをつけたのだが、この条件はなし崩しにされた。「民主化」を図っているという中国側のポーズに誰もが騙されたのであろう。

 アメリカのビジネス界も、中国市場が世界最大となるという見通しのもとに、米政府の対中支援を支持し、積極的に中国進出を図った。しかし自動車などの重要産業は中国政府との共同出資を義務づけられたため、中国側に経営を握られ、技術も盗まれていった。

 自由を求める学生や若者を大量虐殺した天安門事件が起こっても、ブッシュ政権下の中国支持者は、ヒルズベリー博士も含めて、これはタカ派の過剰反応で、トウ小平率いる「穏健派」を保護すれば、彼らはやがて中国を民主化への道に戻すだろう、という一つの仮説にしがみついていた。博士はこう後悔している。

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 今になって、自分の単純さが悔やまれる。優れたアナリストなら、一つにすべてを賭けたりはしない。[1,1733]  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

■5.孫子の兵法

「100年マラソン」の手段は、かつてのソ連のように、核ミサイルなどの軍事力のみでアメリカを凌駕しようという単純なものではない。

 中国の戦国時代に発達した『孫子の兵法』[b]に基づき、諜報、謀略、外交、経済など、すべての手段を使って相手を圧倒することを目指している。直接的な軍事力は総合的な国力の10%以下でしかなく、戦わずして相手を屈服させるのが最高の勝利だと考える。

 たとえば2013年の米政府内の調査によれば、中国はパトリオット・ミサイル、イージスミサイル防衛システム、オスプレイなど多くの兵器システム設計にサイバー侵入したと見られている。

 サイバー技術は機密情報を盗むだけでなく、攻撃にも使われる。米軍の弱点は、あまりにも最新の情報通信技術に頼りすぎている点にあり、サイバー攻撃によって兵器の通信・制御システムがダウンしたら、米軍の動きは麻痺してしまう点が大きな懸念となっている。

 経済分野においても、中国政府のバックアップをうけた国営企業が世界市場でシェアを広げつつある。世界の大企業500社のランキングであるフォーチュン・グローバル500には、2014年に中国企業が95社もランクインした。

 その一つ、世界最大の電気通信会社の一つ「華為技術(ファーウェイ)」のネットワークを使うと情報を盗まれる恐れがあるので、米英政府は国内での同社の機器の販売を禁止している。

 テロ集団や独裁国家を支援することも、米国打倒の手段の一つである。2001年9月11日の同時多発テロの直後には、タリバンとアルカイダが中国製地対空ミサイルを受けとった事実が確認されている。アメリカの特殊部隊がそのうちの30発を発見した。

 アフリカ諸国には2兆ドルもの無条件融資を餌に、反欧米プロパガンダの浸透を図り、独裁政権を支援してきた。さらにその他の地域でもシリア、ウズベキスタン、カンボジア、ベネズエラ、イランなどの独裁国家を手なずけている。パキスタンとリビアに核技術を提供した証拠も見つかっている。

 こうしてサイバー攻撃や、国営大企業の世界市場進出、テロリストと独裁国家の増殖により、アメリカの覇権は着々と浸食されつつある。

■6.「100年計画は予定より早く進んでいる」

「100年マラソン」のゴールは2049年だが、近年、GDP(国民総生産)で日本を抜いて世界第2位となり、アメリカの軍事力もあって、中国内では前倒しの可能性が論じられている。

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 ・・・中国の指導者のなかには、100年計画は予定より早く進んでいると結論づけた者もいる。学者や諜報機関の職員は、少なくとも10年、もしかすると20年も計画より先に進んでいると言いはじめた。こうして中国の指導者たちは、マラソン戦略に戦術的変更を加えるかどうか、つまり、ラストスパートをかけるかどうかを討議するようになった。[1,4429]  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

「ラストスパート」では、アメリカに助けられている伴走者というポーズをかなぐり捨てて、一気にアメリカを抜き去る。近年の尖閣海域での傍若無人ぶり、南沙諸島の軍事基地建設、サイバー攻撃の頻発、AIIB(アジアインフラ投資銀行)設立など、中国が今までの弱者の擬装をかなぐり捨てた可能性はある。

 アメリカ側も中国が正面の敵であると認識し始めた。アメリカ外交政策を論ずる大本山である外交問題評議会(CFR)は、従来「親中派」の牙城だったが、今回出した特別報告書ではリチャード・ハース会長が序文にこう書いている。

「中国は今後数十年にわたって、アメリカにとっての最も深刻な競争者であり続けるだろう」「中国の経済軍事両面での大きな膨張は、アメリカのアジアにおける利害、あるいは全世界におけるアメリカの利害に対して、大きな危険をもたらすだろう」。従来とは打って変わった敵対的な認識である。[2]

 今回のヒルズベリー博士の著書も、米世論の急激な転換に大きな役割を果たしているのだろう。

 ヒルズベリー博士は、中国の「100年マラソン」に打ち勝つための12段階の戦略を展開し、それを行う時間はまだ十分ある、としている。

 その内容は、「孫子の兵法」を逆用したもので、いくつかは弊誌852号「孫子に学ぶ対中戦略」[b]で、太田文雄・防衛大学校教授の著書から紹介したものと共通している。特に中国内の環境破壊や汚職のひどさを中国国民にも知らしめ、民主化勢力を支援する事は、中国共産党独裁政権のアキレス健をつく戦術である。

 アメリカの強みは、共和党と民主党で目指すべき方向は違っても、いざ国防・国益の問題となったら一致団結するという点だ。中国の擬装が明らかにされた以上、米国は今後、断固として中国に対峙するだろう。

■7.日本はどう対処するのか

 ヒルズベリー教授は、日本に関しては次のように語っている。

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 中国のマラソン戦略が実行可能かどうかを測る試金石となるのは、日本が西の領海でますます攻撃的になる中国にどう対処するかということだろう。

少なくともこれまでの20年間、中国政府は、ライバル国(この場合は日本)のタカ派を卑劣な手段で攻撃するという戦国時代の戦略を推し進めてきた。日本を悪者にする作戦をアジア全域で開始し、日本国内の聴衆にもそのメッセージを浴びせた。[1,4275]  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 我が国は「100年マラソン」との戦いの最前線で、中国と直接、対峙している。しかし、我が国の弱みは、中国の使う「軍国主義」プロパガンダに乗って、野党や左翼マスコミがいまだに「100年マラソン」の擬装を支えている事だ。敵国の国論を分裂させる「心理戦」が、孫子の兵法の一つなのだ。

 まずは中国が「100年マラソン」に勝ったら、どのような世界になるのか、日本国民はよく知るべきだ。その姿は、現在の中国内の事実を見れば明らかである。

 真実を語る民主派や報道記者[c]、宗教関係者は投獄され、テレビやインターネットも最先端のIT技術による検閲を受け[d]、チベット[e,f]・ウイグル[g]などの異民族は搾取・弾圧され、民衆は環境破壊と低賃金に喘ぎ、党や政府、国営企業の幹部が汚職に励む。

 我々の子孫をそのような世界に住ませたくなかったら、まずは我々自身が、中国の「100年マラソン」という野望の正体をよく見極めなければならない。
(文責:伊勢雅臣)