【香港VS中国】文明対野蛮の戦い

【香港VS中国】文明対野蛮の戦い

「ベクター21」6月号より転載

           鈴木 上方人 (すずき かみほうじん)中国問題研究家

●子供の排泄をめぐる大論争

 さる4月15日、香港の雑踏とした繁華街である旺角で、ある「事件」が起こった。若い中国人夫婦が街のど真ん中で子供に排泄させていたのを通りかかった香港人が写真で撮ったのである。このことに怒った中国人夫婦が香港人のカメラを奪い、相手を殴った。

社会面の記事にもならないこの出来事は、中国共産党の機関紙である人民日報とその傘下の環球時報を巻き込んだ大論争になった。子供の排泄がなぜこれほどの問題になったのか、外部の人間には分りにくいが、香港人にとってこれは起こるべくして起こった論争なのだろう。

●「蝗虫」と呼ばれる中国人観光客

 2003年に中国から香港への個人旅行が開放され、中国人観光客の大群が香港に押し寄せた。本来利益をもたらしてくれる観光客は歓迎すべきお客様だが、中国人観光客と言えばわけが違うのだ。人口7百万の香港に年間4000万もの中国人観光客が香港の街にひしめいている。わが物顔で香港にやってくる中国人たちは、列を割り込む、痰を吐く、地下鉄の中で飲食するなどの「中国文化」を香港に持ち込んでくる。

 香港人がもっとも我慢できないのは、レストランの席上や歩道、デパートの流し台などでところ構わず子供を排泄させる中国人の習慣だ。現代人ならば、子供といえども排泄はトイレですべきなのである。しかし中国人たちはそのように考えてはいない。自分の子供の排泄は何よりも緊急で一刻も待てないのだ。こうして野蛮な風習を香港に持ち込んだ中国人観光客は「蝗虫」(イナゴ)と呼ばれている。このイナゴの大群が東方の真珠と言われた香港を下品なチャイナタウンにしたのだ。

●香港人を見下す中国人

 もてなしの心を持ち、和を重んじる日本人からすれば、交流すればするほど相手のことをよく知り、親睦が深まるはずだが、中国人と香港人の場合はそうはならなかった。そもそも香港人を「植民地思想で毒された犬」(北京大学孔慶東教授)と見下している中国人からすれば、香港で何をしようとも「俺様の自由だ」としか考えておらず、他人様のところにお邪魔するという意識は全くない。

 香港で中国人妊婦の出産はその一つの例であろう。香港で生まれた子供には香港在住の資格が与えられるため、中国人妊婦の大群が香港へきて出産しているのだ。その数は全体の4割にも上るため、香港人妊婦の出産が困難になっている。更に中国産粉ミルクは偽物が多いため、中国人たちは香港の粉ミルクを買いこんで中国に運んでいる。そのため香港では粉ミルク不足になり、香港の乳幼児が飲むミルクがないという事態に陥った。

●「香港人は文明的ではない」と批判する中国紙

 こうした摩擦の根底にあるのは香港人と中国人の民度の差なのだ。経済が豊かになった中国人の民度はまったく彼らの収入に追いついていない。ところが、一般庶民だけでなく中国政府や中国の知識人までもが自身の民度の低さに気づいていないのだ。

 4月15日に発生した「排泄事件」について、人民日報と環球時報は署名記事で論評を掲載した。なんとこの中国を代表する二紙が軌を一つにして「子供の排泄に不寛容な香港人は文明的ではない」と香港人を強く批判したのである。日本人なら耳を疑うような論評だが、中国人にとって悪いのはすべて他人なのだ。

●自分は中国人ではないと主張する香港の若い世代

 中国に返還前の香港では、ほとんどの香港人が自分は中国人であると意識していた。しかし返還後の香港人の多くは、自分は香港人であって中国人ではないと主張するようになった。

 この傾向は若い世代ほど顕著である。2012年10月に香港中文大学で実施した調査によると、1980年代以降生まれた香港人の中で自分は中国人だと意識するのはわずか2.4%だった。2013年6月3日に発表した香港浸会大学の調査では、自分は中国人だと意識する学生はゼロだった。

 香港人意識が高揚しつつあるなか、「香港独立」の声も聞こえるようになった。生鮮食品から飲用水まで中国に頼り切っている香港の独立は現実的でないと考える香港人が多いのだが、「香港独立」の主張は「中国と一緒にされるのは嫌だ」との香港人の心情を代弁している。

●強権で香港人のこころを引き留めようとする中国当局

 こうして離れていく香港人の心を引き留めようと、中国当局の取った対策が愛国教育の強化だった。「国」とは当然香港ではなく中国のことである。香港人は「教育」によって中国を愛することになるだろうと権力者たちは考えているのだが、香港人からすれば、この強権思想は中国の文明度の低さを証明しているようなものだった。

●反中国で連帯する香港と台湾

 中国への反感が日増しに高まる香港人と、似たような状況の台湾人との間でかつてない程の連帯意識が生まれた。台湾のヒマワリ学生運動に合わせて、3月30日には香港の街頭で千人ほどの大学生たちが集まり、「中国反対・台湾支持」のデモを行った。

 利益ばかりを追求し、政治に無関心だった香港人は生活の尊厳を奪われて初めて政治意識が目覚めたのだろう。しかし一旦目覚めた香港人意識は決して消えることはない。香港が中国を粉砕する爆弾になるかもしれない。

2014.6.1


投稿日

カテゴリー:

投稿者: