【親日・台湾はいま】「怖いのは中国の以経促統」 若者は文化通じ、日本に親近感

【親日・台湾はいま】「怖いのは中国の以経促統」 若者は文化通じ、日本に親近感 
(交換留学生・許氏インタビュー)

2014.6.6 産経新聞

 台湾に住む2300万人の中でも、特に30歳以下の若い世代は「親日」の傾向が強い。幼い頃からアニメや音楽などの文化を通じて、日本に親しんでいるからだ。馬英九総統が進める中国との「サービス貿易協定」に反対し、3週間にわたって立法院(国会に相当)を占拠したのも、こうした若い世代だった。交換留学生として九州大で学ぶ台湾大の許彩誠氏(23)=福岡市在住=は、台湾に一時帰郷し、運動に参加した。親日家であり知日家でもある許氏は「中国は経済交流を通じて台湾を絡め取ろうとしている。台湾にとって、日本との経済関係強化が重要だ」と指摘した。(大森貴弘)

 馬英九総統の中国への傾倒が目立つ中で、日本の人々や政府には、台湾とのさらなる交流拡大を望んでいます。

 私は高校時代に日本のアニメ「攻殻機動隊」を見て、ストーリーの奥深さにひかれ、日本に関心を持ちました。そして台湾大学の日本語文学科に進学したのです。

 私だけでなく、学生の間で日本への関心はとても高い。テレビでは毎日のように、日本のアニメやドラマ、Jポップと呼ばれる音楽を放送していますから、興味を持つのが当たり前ともいえますが…。台湾の若者にとって、日本文化は生活の一部と言えるかもしれません。

 でも、文化だけでは不十分です。

 もっと経済的な関係も深めてほしい。台湾はWTO(世界貿易機関)に加盟していますから、この枠組みで、日台間に自由貿易協定(FTA)のような、何らかの協定を結んでもらいたいです。

 なぜ、私たち台湾人がこのように考えるのか-。背景には、中国が進める「以経促統」という政策があります。「経済を以て統一を促す」という意味です。経済交流を拡大し、台湾の中国市場依存度を高め、台湾を絡め取る戦略といってもよいでしょう。

 中国は過去、軍事・政治の面から台湾に干渉しようとして、失敗しました。だから経済と文化を手始めに、台湾を侵食しようとしているのです。

 ところが馬総統は2008年の就任以来、「中国から世界へ」というスローガンを唱えています。中国との問題を解決し、その後に世界に打ってでる-という考えです。

 でも、これは明らかに間違っています。だって、中国が台湾の取り組みを妨害しないなんて信じられますか?

 中国を特別視せず、まずは世界の他の国と健全な経済協定を結ぶ方が安全です。中国との問題はその後解決する。むしろ「世界から中国へ」という方が現実的だと思います。

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 2012年に中国で反日デモが多発した後、日本企業の投資は中国を避け、台湾や東南アジアに向かいました。この動きは拡大する可能性があります。

 中国の船は南シナ海でベトナム船への体当たりを繰り返し、こうした横暴は世界に認知されました。4日に始まった先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)でも、こうした動きを牽制(けんせい)する宣言が出たのです。

 今後、経済連携の相手として、世界の目が、中国ではなく台湾へと注がれるかもしれません。日本にはぜひ、その先駆けになってもらいたいですね。

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 ところが、当の台湾は中国への傾倒を突き進んでいます。

 馬総統にとって大事なのは域内総生産の数字と大企業がもうかるかどうかだけ…。中国とのサービス貿易協定を重視するのは、これまでの制限を外して、企業が中国に進出しやすくしたいからです。

 でも、本当に私たちの生活は良くなるのでしょうか。今、大学新卒者の給料は伸び悩んでおり、若者は親の支援がなければ家も買えないありさまです。今回の学生運動は中国への不安と、馬政権への不信が背景にあります。

 勘違いしてほしくないのですが、私たちが反対するのは国際貿易の拡大ではありません。問題は、相手が中国であることなのです。

 台湾に領土的な野心を持つ中国相手の協定だからこそ、特別慎重になるのが普通ですよね。

 しかし、馬総統は過程を公開せずに門戸開放を決めようとしています。

 台湾はすでにシンガポールやニュージーランドとFTAを結びました。こうした国との協定はまったく問題ありません。手続きも法律で定められています。でも、中国との協定は、馬総統の、そして中国のやりたい放題になる危険性があります。私たちは、中国と結ぶ協定をしっかり監視できるよう条例の改善を求めていきます。

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 今回の学生運動は、「台湾人」としての自覚の表れだと思います。

 馬総統が就任してから、学校で使う教科書の作りが一気に変わりました。台湾の歴史教科書なのに、中国から見た視点になっています。今後も「日本統治時代」が「日本植民統治時代」となるようです。

 でも、われわれ若い世代には、教科書が変わったことでかえって、「台湾で何が起きたかを自ら学ぼう」という姿勢が芽生えています。

 そして、最初は学生中心に始まった今回の運動も、中高年層も含めて「台湾人の土地を守ろう!」という意識の下、一つになっています。もはや学生の「ままごと」ではなくなっているんです。


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