【産経記事】日本核武装論 再び

【産経記事】日本核武装論 再び 

産経新聞2013.2.23

               ワシントン・古森義久 

 北朝鮮の核兵器開発への必死な動きに対して、ワシントンでは日本の核武装の可能性がまた語られるようになった。韓国ではすでに核武装が現実の課題として論じられ始めたことは本紙のソウル駐在の黒田勝弘記者の報道でも詳しく伝えられた。だが日本の場合、核の選択が同盟国の米国でまず論題となる点が安全保障での独特の屈折を示している。

 共和党ブッシュ前政権で国務次官や国連大使を務め、核兵器拡散防止をも担当したジョン・ボルトン氏は20日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルに「北朝鮮の脅威にどう応じるか」と題する寄稿論文を発表し、日本の核武装という政策選択を提起した。

 同論文は、オバマ政権内外に北朝鮮の核兵器保有を現実として受け入れ、抑止や封じ込めに戦略重点を移そうとする動きがあるとして、その動きを「敗北主義」と断じ、「北朝鮮の核兵器をさらに増強させ、核の威嚇や拡散をもたらす危険な状況を生む」として許容すべきではないと、主張した。

 ボルトン氏は、北朝鮮の核破壊のための軍事攻撃は犠牲が大きすぎるとして排する一方、非核を受け入れる新政権を生むために、北朝鮮が今必要とするエネルギーの90%以上を供する中国に圧力をかけて、金正恩政権を崩壊させ、朝鮮半島の統一を目指すべきだ、とも論じた。そして、中国が難色を示すならば、日本と韓国の核武装を現実の事態とすべきだと強調したのである。

 ボルトン氏は、日本の核武装が中国にとって「最悪の恐怖」だと評し、中国を動かすための圧力材料に使うことを提案する一方、その核武装が実現しても構わないことを示唆した。

 その理由に「オバマ大統領が『核なき世界』の夢を追うとなると、その一方的な核削減は逆に北朝鮮を含む他国への核拡散を招き、長年、米国の核のカサ(抑止)に守られてきた日本や韓国は(核抑止の)再考を迫られる」という点をあげた。

 同氏は「北朝鮮が核兵器を武器にさらに好戦的な言動を取ることへの対応として韓国の政治家たちは自国も核兵器を開発することを求め始めた」とし、「同様の(核武装賛成の)議論が日本でもひそかに語られ始めた」と述べる。つまりは中国に北の核武装を放棄させるための圧力材料としてだけでなく、すでにある核の脅威に対する日本の核武装にも理があるとする議論なのだ。

 ボルトン氏は、日本や韓国のような「安全な諸国」へも核兵器は拡散させないことが従来の米国の基本政策だったことも明記する。だが、その政策を変えうる「北東アジアの新しい核の現実」が生まれ、その現実に対応する日本の核武装もありうると説くのである。

 米国政府が日本の核武装に反対であることは明白だが、議会や専門家の一部には、米国に敵対しうる中国や北朝鮮が核の威力を誇示する現状では、米国と利害や価値観を共にする日本が核を持っても害はないとする意見がすでに出ていた。

 2011年7月には下院外交委員会有力メンバーのスティーブ・シャボット議員(共和党)が日本人拉致事件の「救う会」代表らに「北朝鮮や中国に圧力をかけるためにも日本は自国の核兵器保有を真剣に考えるべきだ」と述べた。09年7月の下院外交委の公聴会でも、エニ・ファレオマベガ議員(民主党)が「日本も核戦力を開発する必要があるという議論が出ても自然だ」と証言していた。

 06年10月には有力政治評論家のチャールズ・クラウトハマー氏が「米国は最も信頼できる同盟国で国際社会の模範的一員の日本に核兵器保有を奨励すべきだ」という日本核武装奨励論を発表していた。日本国内の現状は別にしても、米国側では東アジアの危険な核の状況への抑止策としての日本核武装という戦略オプションも出てきたということである。


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