【浅野和生】日中関係と併存する日台関係

【浅野和生】日中関係と併存する日台関係
 ―日中平和友好条約を蹂躙する中国―
 ―台湾は中国の一部ではない―

世界日報より転載

          浅野和生 国際平成大学教授

 日中平和友好条約の締結から40年が経過した。1978年8月12日に署名された同条約の
第一条第一項には、「両締約国は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉」とあるが、この40年間にわたって中国はこれを蹂躙し続けた。繰り返された「教科書問題」や、尖閣諸島問題、東シナ海の海底資源開発問題など、中国からの内政干渉、日本の主権や領土に対する侵害行為は枚挙にいとまがない。
 さて、日中間の最大の懸案は「台湾問題」である。しかし、日中平和友好条約に台湾への言及はない。ただ前文に日中共同声明が両国間の平和友好関係の基礎であること、そして共同声明に示された諸原則が厳格に遵守されるべきことが確認されている。
そしてその日中共同声明の第二項には「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」とあり、第三項は「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華民国政府の立場を十分理解し、尊重」するとしている。
 ところで、台湾の中華民国と大陸の中華人民共和国の関係について司法判断を示したのが光華寮裁判であった。この裁判は、台湾の中華民国が所有していた京都の留学生寮が、1960年代に「毛沢東思想万歳」などと高唱する中国人留学生に不当に占拠されたため、家主である中華民国が不当な借家人(留学生)の立ち退きを求めて起こした訴訟である。裁判が始まった1967年には、日本と台湾の間に国交があり、中華民国の訴訟の当事者適格が問題となることはなかった。しかし1977年の第一審判決までに日華断交となったため事態は複雑になった。
一審は原告の中華民国が敗訴、二審は逆転勝訴となった。そこで1986年の京都地裁の差戻第一審は、昭和47年の日中共同声明による日本と中華人民共和国との国交正常化と、日本と中華民国との国交断絶にかかわらず、「中華民国政府が現在まで、現実に、台湾及びその周辺諸島、およびそこの地域の人を、排他的、永続的に支配、統治」していることを認めた。さらに「旧政府が完全には消滅せず、その国の領土の一部を実効的に支配している、政府の不完全承継の場合」旧政府が外国において所有していた財産については新政府に継承されないとして、中華民国に光華寮の所有権と訴訟の権利を認め、留学生に立ち退きを命じる判決を出した。
 これを不服とした留学生側は控訴したが、1987年の大阪高裁差戻第二審は、差戻第一審判決を支持した。そこで留学生側は最高裁に上告した。
このタイミングで中国政府が、同判決に激しく抗議して、裁判は国際問題化した。中国による日本の内政への露骨な干渉である。馬毓真新聞局長が「日本の司法が、中日共同声明、中日友好条約、国際法に違反し、二つの中国、もしくは一つの中国、一つの台湾を作り出している」と批判すれば、同年9月10日には、孫平化中日友好協会会長が、「日本の司法機関が二つの中国の前例を作ることを許すことはできない」と糾弾した。この間、日本政府は中国に三権分立の説明をするとともに、日中共同声明と日中平和友好条約の遵守を誓ったが、日中の摩擦は1年以上も継続した。
問題が政治化した結果、最高裁は事態が鎮静化するのを待った。待ちに待った結果、判決が出されたのは2007年3月、上告受理から20年後となった。
その判決は、主文「原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。本件を京都地方裁判所に差し戻す」「本件において原告として確定されるべき者」は、「昭和47年9月29日の時点で、『中華人民共和国』に国名が変更された中国国家というべき」というものだった。最高裁は、40年続いた裁判の原告の適格性を最後になって否定するとともに、40年前の時点に差戻し、原告は「中華民国」ではなく「中国国家」だとしたのである。「中華民国」はこの判決をどう受け止めたら良いのか。訴訟を起したのは「中華民国」なのに、「中華民国」が「中華人民共和国」に変わっても変わらない「中国国家」という別の実体が原告だと最高裁は断定した。最高裁は中国の圧力に屈したのではないか。
ところで、安倍首相は2016年5月20日、蔡英文総統就任の日に、江口克彦参院議員(当時)の質問主意書に対する答弁書を発し、「台湾との関係に関する我が国の基本的立場は、昭和四十七年の日中共同声明第三項を踏まえ、非政府間の実務関係として維持する」としつつ、政府としては「我が国との間で緊密な経済関係と人的往来を有する重要なパートナーである台湾との間においてこのような実務関係が着実に発展していくことを期待している」と明らかにした。つまり、台湾にはパートナーとなりうる実体があると認める常識的立場を首相は表明した。
日中共同声明以来、中国は「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」と主張しているが、日中平和友好条約締結から40年、その主張が相変わらず虚構であり、日中関係とは別の緊密な日台関係が存続していることを慶びたい。


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