【台湾VS中国】太陽花の戦い

【台湾VS中国】太陽花の戦い
2014.5.1

「ベクター21」 2014年5月号
         
              鈴木 上方人(中国問題研究家)
           

●中国が台湾を併呑する最後の一里塚・「サービス貿易協定」

3月18日から4月10日まで23日間の太陽花学生運動は、その名を世界に轟かせた。運動の主旨は馬英九政権下で台湾と中国が締結した「サービス貿易協定」への反対だ。
      
本来、島国である台湾は貿易への依存度が高く、自由貿易の受益者である側面が多い。その流れでこの協定がすんなりと受け入れられるはずであったが、相手が台湾に領土野心のある中国であれば話が違ってくる。そもそも経済的有利か不利かの要素は反対の理由ではない。

サービス貿易協定そのものが、中国による台湾併呑の最後の一里塚なのだ。

●台湾では台湾人が少数民族になってしまう

「サービス貿易協定」とは名前の通り、サービス業の自由化である。サービス業とは、人が中心になるので人的往来と定住の自由化は必要条件となり、貨物の貿易協定よりも一体化が進みやすい。

中国との一体化の結果がどうなるかは現在のチベット、ウイグル、内モンゴルを見れば一目瞭然だ。台湾は中国に併呑されるだけでなく、いずれ台湾では台湾人が少数民族になってしまうだろう。

事実、中国ではすでに「4万元で台湾移住」という広告が出されている。4万元とは日本円で50万円ほどの金額だ。中国なら数千万単位の人間がその金額を出して台湾移住を希望するであろう。

●国民党も民進党も中国傾斜の元凶

 台湾の中国傾斜の流れは2000年の陳水扁政権から始まり、2008年の馬英九政権で更に加速された。陳水扁時代の中国傾斜は経済中心であったが、馬英九時代になると政治も含めた全面的傾斜となり、中国政府に操られている政府機関の言動は国民の誰もが感じている。

元々馬英九は中国との統一を「歴史的偉業」にしたいという魂胆があるのだが、最大野党である民進党も陰に陽に中国に媚び、経済的利益を得ようとしている。実際、民進党の政治家たちはほぼ例外なく家族や親戚の名義で中国と商売をやっている。彼らは陳水扁政権時代からすでに中国と利益共同体になっているのだ。

●「イチゴ族」と言われていた大学生たちが立ち上がった

台湾社会では政権や企業の中国傾斜とは裏腹に、反中国感情が高まっている一方、中国傾斜を食い止める政治勢力は実質的に存在していない。こうした無力感が漂う台湾社会で、今まで軟弱な「イチゴ族」と揶揄されてきた台湾の大学生たちが立ち上がった。

20代の台湾人は親たちの世代とはどう違うのか?彼らの親の世代は、国民党による中国人教育を受け、思想成熟期に美化された虚構の中国をそのまま受け入れている。対する現在の大学生たちの世代は、ネットや中国留学生や観光客を通じて現実の中国をみて成長してきた。彼らにとって台湾における中国的な部分は異様に感じられ、結果として親の世代よりも台湾人意識が強いのだ。

●起こるべくして起こった反体制運動

3月18日夜の国会占拠は計画的なものではなく、学生たちのとっさの判断による偶然の産物だが、太陽花運動そのものは起こるべくして起こった運動と言えよう。

運動のシンボルである「ヒマワリ」は中国語では「向日葵」というが、台湾語では「太陽花」と呼ばれている。暗雲が立ち込めている台湾に射し込む希望の光になるということだ。その延長線で運動のテーマソングである「島嶼天光」も数日後に作られ、この島国の隅々に光が届くよう願いが込められている。

また3・30のデモで決めたシンボル服の黒いシャツには、台湾に命を与えてくれた太平洋を流れる「黒潮」への感謝と希望の意味が込められている。

「サービス貿易協定」の撤回という明確な目標を定め、短期間で戦略と戦術を決め、協力体制を作り、シンボルカラー、シンボル花、テーマソングまで出来たこの太陽花運動は、学生運動の枠を遥かに超えた歴史に残る社会運動と言えよう。

●女性パワーが原動力に

テレビでは雑然とした議場の光景を映されていたが、実際の彼らは秩序ある行動をとっており、それぞれ得意とする分野のチームワークができていたのだ。中国語、英語、日本語などを流暢に操り、国内外に発信する広報班をはじめ、外部からの援助物資を管理分配する物資班、清潔を維持する掃除班、ごみを分類処理するごみ処理班、警察の突入を防ぐ警備班、全員の食事を用意する炊事班、そして現役の医者と看護学部の学生たちが構成する医療班である。

リーダー格である林飛帆氏と陳為廷氏は男性だが、多くの幹部は女性である。議場内では禁煙、禁酒とし、整理整頓も行き届いていた。議場内の学生たちは約200名だが、議場を囲んだ支援者は常に数千人いる。道路の両側には数百のテントが設置され、それぞれのテントに分りやすく「何故サービス貿易協定に反対するのか」を説明する担当者がおり、センスのいいユーモアあふれるポスターが道路の両側に掲げられているのだ。

更に即席の講演会や座談会も周辺のあちこちで開いており、誰でも手を挙げて自由に発言することができる。国会周辺を取り囲んでいる物々しい警察や機動隊の存在さえ無視すれば、まるで大学の学園祭の光景だ。反体制運動とは言え、殺伐とした雰囲気は微塵も感じられず、ほんわかとした南国の特有の空気である。

●既有政党を超えた組織力

クライマックスである3・30デモは三日前に決めたにも関わらず、当日は50万人もの参加者が会場周辺の道路を埋め尽くし、学生たちの誘導で整然と行動していた。参加者はそれぞれ手作りのプラカードやヒマワリを持ち、自己流で反サービス貿易協定をアピールした。特筆すべきは、デモの参加者のほぼ半数が女性であり、中には子供連れの若い母親もかなりいたことだ。

デモ終了の時間になるとこの50万人はわずか30分程で、ごみ一つ残さずに完全に解散した。学生たちの企画力、動員力、組織力は台湾の既有政党を遥かに超えたのだ。幹部の多くが女性であるためか、運動全体はソフトな雰囲気で芸術的にすら感じられる。

●台湾の守護者になった学生たち

国会占拠は4月10日に幕を下ろしたのだが、学生たちの戦いは終わらない。彼らは国会議場から出て、太陽花運動の種を台湾全土に播き、全国に開花させると宣言した。この23日間の国会占拠によって台湾の学生たちは台湾人の自信と誇りを確実に勝ち取った。彼らはすでに台湾の守護者となり、台湾を中国に併呑されない最大の砦となったのだ。

(すずき かみほうじん)


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