【台湾有情】ある企業人の誇り

【台湾有情】ある企業人の誇り  

         吉村 剛史(産経新聞台北支局長)

産経新聞:平成24(2012)年4月5日

 ペダル付きの「足こぎ車いす」という器具を製造する会社が注目されていると聞き、台
北市内にある同社の事務所を訪ねてみた。

 「なぜ車いすにペダルを?」と首をかしげたが、脳梗塞などで歩行困難な人の移動補助
具であり、リハビリの効果もあるという。

 社長の陳子堅さん(53)によると、15年前に日本の東北大で考案。改良を重ねたが、日
本では量産可能な企業が現れず、一昨年、陳さんが台湾での製造に名乗りをあげた。

 知人を介してこの器具の存在を知り、「寝たきりの人が生き生きと“散歩”を楽しみ、
笑顔を取り戻す姿に感動した」ためだ。

 自転車産業が盛んな台湾ゆえ、「近く2つ目の工場も稼働し、年産1万台が可能になりま
す」という。

 実際に乗せてもらったが、片手操作の小さなハンドルとブレーキで、スイスイと自在に
移動ができる。昨年の出荷は500台弱だったものの、次第に評判を呼び、現在、内外の問い
合わせが殺到しているという。

 シャープと鴻海精密工業の提携同様、日本では台湾を通じた技術流出を懸念する声も浮
上する中、陳さんは「日本人はもっと自信を持つべき。私はこの技術を、日台提携で世界
に発信できることを誇りに思う」と胸を張っている。(吉村剛史)


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