【傳田晴久の台湾通信】春節あれこれ

【傳田晴久の台湾通信】春節あれこれ 

              傳田晴久

◆はじめに

 新年快楽。春節(旧暦のお正月)がやってまいりました。今回の「台湾通信」はこの春節にまつ
わる話をお伝えいたします。

 日本ではお正月を迎えるにあたって、門前に門松を立てますが、台湾では春節を迎えるために門
前に赤い紙に書かれた春聯(しゅんれん)を貼りつけます。また、爆竹を盛大に鳴らします。何故
でしょうか?

◆年獣来了(年獣が来た)

 国立成功大学の華語中心で中国語を勉強している時、「中国故事」という授業があり、いろいろ
面白い物語を読む機会がありました。今日(2015年2月19日)は旧暦のお正月「春節」ですので、
中国故事の一つ「年獣来了」をご紹介したいと思います。この物語は華語中心の葉美杏老師が我々
学生のために編集されたものです。物語は次のように・・・・

 皆さん、毎年「過年」(旧暦のお正月、春節のこと)が来るたびに餃子を食べ、爆竹を鳴らし、
赤い衣服をまとい、春聯を貼るのは何故かご存じですか? ここには「年獣」という面白い物語が
あるのです。

 昔の人は過年を嫌っていました。それは「年」が来ると災難が来るに等しいからでした。もとも
と、「年」は一種の非常に恐ろしい一本角の怪獣ですが、大変暑がりで、眠るのが好きで、普段は
深い深い海底に住み、365日目になると目覚め、起き出し、海底から陸に這い上がり、食べ物を探
します。この日、人々はお互いに「年が来るぞ、年が来るぞ」と警告しあいました。

 年獣が現れると、陸地は直ぐに水浸しになり、年獣に見られた人や動物は全て年獣に食い尽くさ
れてしまいます。人々は年獣を極度に恐れ、冬が到来すると乾燥食品の準備を開始し、年獣が上陸
する前に山の上に身を隠し、避難します。

 今年もまた厳しい冬がやってまいりました。村では老いも若きもみな忙しく山の上に乾燥食品を
準備し、村長は声を張り上げて、「年が来るぞ! 年が来るぞ! 急げ!」と大声で叫びました。
彼は大声で叫びながら、村の人々を急き立てて山に走って行きました。

 ところが、村の東に住む一人のお婆さんだけが、前回たった一人の子供を年獣に食べられてしま
い、一人さびしく悲しいので、子供を食べてしまった年獣と絶対に命がけでやり合おうと考えてい
ました。

 丁度その時、突然、髪をふり乱した年取った乞食が村にやって来て、杖を突きながらよろよろと
歩き、哀れっぽく「食べ物をくれ、もう何日も食べておらんのだ・・・・」村民たちは急いで山に登
り、年獣を避けようとしているので、誰も彼にかかわろうとしませんでした。

 年取った乞食は、村人たちがみな行ってしまうのをなすすべもなく見ているだけで、まだ食べ物
にありつけていませんでした。彼は大いに失望し、まさに立ち去ろうとしたその時、お婆さんが目
にとめ、呼び止めた。「あの〜もし、私のところに夕べ食べた水餃子の残りがまだいくらかある
が、食べてみますかな?」

 年寄りの乞食はその声を聴くと大変喜び、すぐさま足を引きずり引きずり寄ってきて、水餃子を
手に取り、大いに食べ始めた。

 食べ終わると彼は腹を叩きながら、言った。

「おかしいなぁ、何故みんなは慌てて山に登って行き、お前さんは行かないのかね?」

 お婆さんはため息を吐くと、涙を流しながら、年獣が人々に害をなす様子を話し、最後に言っ
た。

「年獣はもうすぐやってくる。お前さまも食べ終わったら早く行きなされ。年獣に食われないよう
に。」

 何と、老乞食はそれを聞くと声を挙げて笑い、「わしにはたいしたことには思えんがねぇ。もと
もとただの年獣ではないか、簡単なことだ、怖がることはない。今晩、わしが年獣を退治してやろ
う。」

 お婆さんは目を丸くして彼の言うことが信じられず、「なに? お前さまはあの恐ろしい年獣が
怖くねぇだか?」

 老乞食は「お前さんはわしに赤い布と2枚の赤い紙をくれればいい。おぉ、先ほどの餃子はうま
かった。しばらくしたら、また餡を叩いて作ってくれ。夜中に一緒に食べようではないか?」

 お婆さんは半信半疑であったが、赤い布と赤い紙を探して、老乞食に渡すと、台所へ入り、「と
とととと」と包丁で餃子の餡(あん)を叩き始めた。

 老乞食は赤い紙を扉の両側に張り付け、赤い布を身に巻きつけると、思いがけず庭の中で自分の
竹の曲がった杖に火をつけた。「パチパチ」「パチパチ」と音が響いた。

 空はすでに暗くなり、海はザーザーと鳴り始めた。年獣が眠りから覚め始めたのだ。年獣は海面
から出現し、村に向かって一歩一歩近づき、まさにあちらこちら食べる人を探している。しかし、
村からは奇妙な音のみが聞こえてくる。「ととととと」・・・・「パチパチ、パチパチ」・・・・年獣には
いまだかつて聞いたことのない物音であり、包丁を叩くような物音は彼の耳に障り、非常に不愉快
に感じられる。

 「ウォー!ウォー」年獣は怒って吠え、恐ろしい叫び声がお婆さんの耳に入った。彼女は全身を
震わせ、手にした包丁をさらに早く叩いた。「ととととと」、「パチパチ」、「ととととと」・・・・

 ウワァ! タマラン! タマラン! 年獣は音を聞き、辛くて地団駄を踏み、眼を大きく見開
き、音の出るもとを探し求めた。

 年獣が遠くにお婆さんが住む家を望んだその時、大きな赤い光線が千万本の針のように年獣の両
目を鋭く射た。痛い! 年獣は慌てて目を閉じたが、間に合わなかった。

 年獣が最も恐れているものはやかましい音と赤い色であり、しかも、老乞食は赤い布を身にまと
い、門に2枚の赤い紙を貼りつけ、年獣を驚かせている。

 餡を叩き、竹を燃やす音は依然止まることなく伝わって来て、年獣は地面をのた打ち回って苦し
がる。年獣は頭を持ち上げて門の上の赤い紙を見る事ができず、その後、素早く深い海に逃げ戻っ
た。以来、年獣は再び人間の世界に来ることはなかった。

 老乞食は大笑いしながら言った。

「お婆さんや、わしが年獣を追っ払うのを見なかったかい? 安心していいぞよ!」と言い終わる
や否や、サッと姿を消してしまった。もともとこの老乞食は決して普通の人でなく、善意の仙人で
した。

 翌日の早朝、村人は山を下りて来たが、お婆さんが元気にしているのを見て、みな非常にびっく
りした。そこで、お婆さんは前の晩に起こった事の一部始終を語ると、みなは大いに喜び、言っ
た。

「それはよかった、この後、年獣が目を覚ますときは、我々は餃子の餡を叩き、赤い着物を着て、
赤い紙を貼り、竹を燃やせばいいのだ。2度とふたたび年獣が人を喰うのを恐れることはないの
だ!」

 その後、人々は年獣が逃走したその日を「過年」と呼んだ。そして、その時に年獣を追い払った
各種の方法を発展変化させて今日に至り、竹を燃やすことは爆竹に変わり、門の上の赤い紙はめで
たい言葉を書き記した春聯となり、このほか人々は過年の時に赤い新しい着物を着て喜んだ。

 しかし、皆はもともとこれらは年獣が人を喰いに来るのを防ぐために備えたことを、すっかり忘
れてしまったのだ!

◆おわりに

 以上が「年獣来了」という中国故事です。成功大学の葉老師がこの物語を教えて下さったのは、
メモによりますと2008年の冬とあります。

 当時、「年」という名前の怪獣が年齢に重なり、不思議な感じを持ったのを覚えています。その
ころ私は「古稀」を控えておりました。そしていま私は喜寿を控えています。年をとるとは不思議
なことです。

 どうぞ皆様、健康で、良い一年をお過ごしください。


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