【遥かなり台湾】「台湾の人に守られて生き続ける狛犬たち」

【遥かなり台湾】「台湾の人に守られて生き続ける狛犬たち」

メルマガ「遥かなり台湾」より転載
          
   
***************************************************************************************
毎月送られてくる台湾協会報に先月知人の市来訓子さんの寄稿文が掲載されていました。本人の
承諾を得て本日のメルマガ記事に転載させてもらいました。

●台湾の人に守られて生き続ける狛犬たち
                                    箕面市  市来訓子

はじめに
私が台湾を初めて訪問したのは、2000年12月末のことでした。旅行会社のツアーを利用しましたが、
そのとき高雄の壽山公園を案内してくれた台湾人のガイドさんの「これは獅子じゃなくて日本の狛
犬さんですよ、とても立派ですね」という解説に衝撃を受けました。確かに壽山公園は嘗て日本統
治時代に高雄神社が鎮座していた場所で、現在本殿跡には忠烈祠が建てられています。しかし、
まさか狛犬が神社跡に今も無事に生きているとは夢にも思いませんでした。

 帰国後、早速「台湾の狛犬」について調べ始めましたが、今のようにネットで検索すると情報が
簡単に手に入るような状況ではなく、少しずつ手がかりを探すしかありませんでした。
そんな中、台中神社の狛犬の存在を教えていただき、また台湾在住で台湾の日本統治時代に関する
著書を数多く出版されている片倉佳史さんから、様々な狛犬の話と合わせ、戦後の混乱期に狛犬を
守るために穴を掘って埋め隠し、混乱が終わってから掘り出してまた設置したものまであるという
話を聞いて、台湾の人たちがあたたかい気持ちで狛犬たちに接して下さっていたことに感動を覚え、
大変胸が熱くなりました。
壊されることなく残されている狛犬は他にもいるのだろうか、実際に狛犬に会いたい。気持ちの高
まりを抑えられず、皆さんからの情報をもとに、狛犬を訪ね歩く旅が始まりました。

足を運び始めて数年、私は友人知人とのご縁で出会った、当時皇学館大学理事長を務められていた
狛犬研究の大家、上杉千郷先生に、台湾には日本統治時代の神社の狛犬が数多く残っており、中には
意図的に保存されている物もある事をお話しました。すると先生はたいそう驚かれ、ぜひ台湾を訪問
して実物を見てみたいと強く希望されたのでした。
そこで、方々の関係者に打診し計画を立て、2007年秋、とうとう上杉先生と台湾の狛犬たちが対面す
る旅を実現することができました。
その時先生はよく「狛犬にはいのちがありますよ」とおっしゃっていましたが、先生はきっと旅を
通して、台湾の狛犬たちの喜びにあふれた息吹を感じ取られたのでしょう。
 その後も短い休暇を取りながら、新たに見つかった狛犬や、最初に訪問した時と状況が変わって幸
せになった狛犬などを現在もこつこつと訪ね歩いています。
本来の使命を失うも、台湾の狛犬は全て打ち壊されてしまったのではなく、中にはその地で暮らす人々
に救われたり、更には大切に保存されたものもあります。
その中から一例をご紹介したいと思います。

北投社の狛犬

台北市内の有名な温泉地である新北投に、北投社がありました。場所は逸仙國小のすぐ近くで、狛犬は
現在、その小学校の敷地内にあります。
片倉佳史さんによると、神社が取り壊される直前、こっそり学校の職員の皆さんが夜陰に乗じて敷地内
へ運び込み、土中に埋めて隠したとのことで、早速訪問しました。
2004年1月には、狛犬は青く塗られていました。吽は、校舎へ入る階段の脇に台座と共に据えられており、
比較的きれいに残されていましたが、阿は向かいの植え込みに無造作に置かれているうえ、耳が一部欠損し、
尾は途中からぽきりと折れてしまった状態でした。気の毒なことに口の中には平べったく大きな石が押し
込まれていました。苦しかろうと思いましたが、手を入れても取り出すことはできませんでした。

その後、2006年夏、神社の狛犬であり、歴史的価値のあるものだからとの理由で、狛犬は植え込みから、
学校の正面に移設されました。2007年5月に漸くその姿を目にすることができましたが、立派な姿になって
いたものの、阿の尾は折れたままで、口の中の石も取り出されないままで、そこが何とも心残りでした。
さらに数年経った2014年のある日、台湾の狛犬仲間から衝撃のメールが送られてきました。「北投社の狛犬
の尾がえらいことになっている、とんでもないひどい目に遭わされている」とあり、あわててリンク先を
開いた途端、「何てことを!」と叫んでしまいました。阿の尾が途中から折れてなくなっていたところに、
本来の形とは似ても似つかぬ玉ねぎのような形の尾が付け足されてしまっています。一体なぜこんなことに
なってしまったのかと呆然としてしまいました。台湾の狛犬仲間は、何らかの行動を起こしたいと、連絡を
取り合っていたようです。熱い心を抱いた仲間たちの活動が実を結んだのか、この事件はテレビやネットの
ニュースで取り上げられました。

その後同年10月に訪台する機会を得たので、現場を訪問したところ、台座の上に狛犬の姿はなく、修理中で
ある旨記された紙が貼りつけてありました。ほどなくして、無事に修理が済んだという話を人づてに聞き、
翌2015年1月、狛犬のもとを訪れました。
阿の折れた尾は吽と同じ尖った姿になっており、そしてさらに嬉しいことに、口の中の石が取り除かれて
いたのです。双方とも青色のペンキが塗られていたその色もほぼ全て落とされ、本来の姿を取り戻した狛犬は
胸を張り、以前よりずっと晴れやかな表情を見せていました。吽の横には狛犬としての立派な説明プレートが
設置されており、これからもずっと、歴史を伝えるとともに、子供たちを護るという任務を背負って頑張って
ゆけるだろうと、心から嬉しく思いました。

(補足)阿吽(あうん)
仏教の呪文の一つ。
阿は口を開いて最初に出す音、吽は口を閉じて出す最後の音であり、そこから、それぞれ宇宙の始まりと終わ
りを表す言葉とされた。また、対となる物を表す用語としても使用された。特に狛犬や仁王など一対で存在す
る宗教的な像のモチーフとされた。口が開いている方を阿形(あぎょう)、閉じている方を吽形(うんぎょう)
と言う。

カテゴリー: 台湾の声 タグ: , , , , , , , , , , , ,