【傳田晴久の台湾通信】「紅十字会法廃止」

【傳田晴久の台湾通信】「紅十字会法廃止」

1. はじめに

2016年7月12日に台湾立法院に於いて「紅十字会法」の廃止案が議決されましたが、その2週間後の27日に総統府は同法を廃止するという総統令を公布しました。この法案は今年の2月22日、民進党、時代力量(政党)が「転型正義」として提起していた問題ですが、5か月後に実現した訳です。この「転型正義」に相当する巧い日本語がないのですが、ある人は「移行期正義」と訳しています。これについては後に触れたいと思います。
今回の台湾通信はこの「紅十字会」(日本の赤十字社に相当)について報告いたします。

2. 中華民国紅十字会

台湾の紅十字会は正式名称「中華民國紅十字會」と言い、創立は1904年、上海で設立された上海万国紅十字会が前身、ウィキペディアによれば、日露戦争により満州が荒廃し、この地区の民衆を救済する目的で上海の有力者が創設したものと言います。
その後の歴史をたどると、1907年に大清紅十字会、1911年の辛亥革命後中国紅十字会に改称、1912年赤十字国際委員会(ICRC)の認可を受け、1919年には国際赤十字赤新月社連盟(IFRC)に加盟した。同会は1933年、中華民国紅十字会に改称、国共内戦の結果、1949年に台湾に移った。1952年ICRCは中国紅十字会を中国における唯一の赤十字組織と認定し、中華民国紅十字会は追放された。

中華民国紅十字会の組織としての根拠は「中華民国紅十字会法」にあり、この法律は1954年に制定されたが、紅十字会に多くの特権を与えたといわれています。
すでに廃止された「中華民国紅十字会法」によれば、同会は名誉会員、基本会員、特別会員、団体会員、普通会員、少年会員などで構成され、各会員はそれぞれに規定されている会費を支払うことになっています。その会費の額については、総会で決定するとしか書かれていないので詳細は分かりません。

3. 何が問題だったのか?

311東日本大震災の時に台湾の友人たちが世界一の義援金を贈って呉れましたが、その時妙な噂が立ちました。私は台湾のある「会」に所属しており、そこでささやかなお見舞金を拠出いたしましたが、多くの人々が「紅十字会」を通さずに、交流協会に直接届けるべきだ、あるいは日本(の赤十字社)に直接送るべきだ、という話がありました。しばらくして、「紅十字会」は集まった浄財をまだ日本に送金していない、一部をふところに入れているといったうわさが広まりました。

この台湾の赤十字(中華民国紅十字会)に対する台湾の人々の不信感について、永山英樹氏はブログ「台湾は日本の生命線!」(2012/04/25/Wed)にて以下のように紹介されています。

●台湾赤十字が集めた義援金総額は257,151万元(71億円)で、そのうち日本赤十字へ送ったのは僅か約8億元にとどまっている。

●2004年発生のスマトラ沖地震への支援募金の際、台湾赤十字の台北分会(支部)は、集めた義援金の15%を「業務交通費」なる名目の手数料として引き抜いたことが明るみに出た。

●2005年、幹部の給与が問題になった。当時幹事長だった国民党のカク龍斌氏(前台北市長)の月給が12万元もの高額で、その腹心8人の年収も1人当たり約1000万元。それらだけで赤十字の人件費の実に半分を占めた。

●2008年には、カク龍斌市長の台北市が、かつて1999年の台湾大地震救援の為に集めた義援金の残金6400万元を折から発生した国内の水害被災地に回すこともなく、台湾赤十字を通じて四川大地震の被災地に届けている。

同様の事が2015年04月27日の「報橘」(Buzz Orange)に、「善良であろうとするあなたが『中華民国紅十字会』に寄付しようとするとき、先ず以下の事を読んでからにしてください」として、紅十字会にまつわる色々な不信事項をならべたてていました。

紅十字会にはこれらの不透明な噂がいろいろありますが、制度的な問題も指摘されています。紅十字会法の第30条には「政府によって課税されない権利を有する」と書かれています。また第31条には、「戦時傷病者の救護、捕虜、平民の救済、国内外の災害被災者の救護などの事業を行うために国内外の関連機関と協業し、そこからの補助を受ける」とあります。

これらの特権の他に、一般の団体は緊急募金の可否について、制約があります。どの団体でも公益募金許可法によって募金を行う場合は3週間前に所定の手続きをしなければならないが、緊急の場合はその制限を受けないと言います。

このような諸々の問題がかねてから指摘されていましたが、陳水扁総統時代には提案しても議会は国民党によって支配されていたので、紅十字会法を廃止することができませんでしたが、議会の勢力逆転を機に、廃止法が上程されたのです。

4. 日本の赤十字社はどうか?

寄付金を扱う団体はいろいろあります。ユニセフ、共同募金会などの他、街頭には得体のしれない人々が募金活動を行っているのを見かけます。募金活動、救護活動などには当然諸経費が掛かりますし、人件費もかかります。信頼厚い日本赤十字社の場合はどうなっているのでしょうか。

日本赤十字社法によれば、同社は「社員」をもって組織され、社員は社費(年額500円以上)を収めることが義務付けられています。社員になることに関して、人種、国籍、信条、性別、社会的身分または門地によって差別されることはなく、何時でも脱退することができます。この社費と言うのは社員である個人あるいは法人からの寄付であり、これによって日赤の運営に必要な経費(救護員の確保、養成訓練、救護材料の準備、救護装備の整備、病院・診療所の運営、職員の人件費等々)が賄われているということです。

5. 寄付金と義援金
寄付金と義援金は紛らわしいですが、辞書によりますと、「義援金」というのは「慈善や被災者救済などの趣旨で差し出す金銭」のことで、「寄付金」というのは「公共事業や社寺などに贈る金銭」とのことです。

我々が日本の311や台南の地震の様な災害が発生した時に、少しでも被災者のお役に立ちたいとの気持ちから、細やかではありますが金銭をお送りしたいと思うのは、まさにこの「義援金」であり、そのようなお金を扱ってくださる団体の運営費にしていただこうということでは断じてありません。もちろんそのような団体の活動に感謝もし、それに経費がかかることも承知しておりますが、趣旨が違います。

日赤は当然運営の為の会計と義援金の会計とは明確に仕分けているはずです。もし紅十字会が(意図的かどうかわかりませんが)それらを混同しているとしたら大問題で、「転型正義」すべき事項でしょう。

6. 転型正義

台湾通信No.109で「転型正義」についてご紹介いたしましたが、この言葉の意味を上手く表現するのは大変難しい。語源は “transitional justice”で、独裁政権が民主化されたときに、それ以前の不公正、不公平、不正義、不正当な事柄、扱い、行いを是正する時のjusticeを指すということです。

台湾では新政権発足(5月20日)以後、従来の「諸問題」を次々に改めようとしています。今回の話題の「紅十字会法廃止」もその一つですが、7月25日には「不当党産条例」(政党及びその付属組織が不当に入手した資産の処理に関する条例)が議会を通過し、8月1日(原住民の日)には蔡英文総統が、原住民に対する過去の不平等な扱いについて謝罪したと報道されています。

7. おわりに

紅十字会法は特定の組織体に「特権」を与えるもので、その特権が廃されるのは「異常な状態が正常な状態に戻される」という意味の「転型正義」だと思われます。
新政権発足以来、次々と行われる「転型正義」は色々な意味があるようです。その中にこの「転型正義」の分かり易い日本語が見つかることと思います。

『台湾の声』 http://www.emaga.com/info/3407.html

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