_塚本三郎元民社党委員長小論集_ _当会支部最高顧問、塚本先生世評_

人間力の凄さ       平成二十三年十月上旬   塚本三郎

習うことは慣れること

 自転車は、止まっていればすぐに横転する。走っていれば転ばない。走るには、運転する人間が、左、右に傾かないように、操縦しているからだ。

 その微妙な操縦を小学生になれば誰でも乗りきる。僅か一日の練習で大丈夫だ。

 人間の感覚、慣性は素晴らしい。

 自動車という文明の利器は、今日では人間の下駄代りとなり、日本の各家庭に普及した。一家ではなく、一人に一台の便利な足と代った。ただ土地代が高いから自動車の駐車場の癌となっている。私も車を運転して、既に半世紀を越えた。車内でニュースを聞きながらの運転である。それでも前方を見ていれば事故を起こさない。

ニュースは耳と心で聞き、眼は前方の信号と左右の道路の利用者、前方車の急停止、車線変更、追い越し車の暴走にも注意を払う。未知の道を避け無事に自宅へ戻る。

 私にとっての日々は、政局に気を使う。国政に青春を捧げた往時の夢が消えないからだろう。愛国者とか憂国の士を自負するつもりはない。されど人生の青春時代の習いが性となっているから、政府と野党の動静の記事を真っ先に眼を通す。

今では解説者となった友人の解説記事や、テレビの討論には、自らチャンネルを合わせる。「彼ならば、こう言うであろう」と発言の前から予想する。すべてが予想通りだと、拍手を送る。

 気分を休めるために、休日にはピアノを弾く。勿論、昔の演歌の極々初歩である。右の指のみで、左手の伴奏は無理。約一時間、楽譜を見ていれば、自然と右手は鍵盤を叩く。眼が楽譜と鍵盤を繋ぐのだろう。楽譜を考えていては、音楽にならない。

流行歌を口ずさんでいれば、楽譜を見なくとも歌によって、また鍵盤上を見なくとも、右指が自動的に歌に合わせ、しかも強弱や、速度も曲相応の音を出す。

 昔、孫娘が自分の演歌の指捌きを見て、まどろしく思い「おじいちゃんどきなさい」と自分を椅子から追い出し、両手で名曲を弾き始めた。素人の眼では「天才だなぁ」と思える程に見事だ。それが普通の子供達の指捌きだと云う。

齢八十を越せば、それでも譜に合わせて、指が一緒に動いてくれるだけでもよい。

ボケ防止のため

 政界を引退して、老後の余暇利用と、健康の為に何か一つと考え、尺八の練習を思いつき、習いはじめた。爾来、約十年。

 この世界は、ピアノと比べて、音楽の舞台でも別世界である。

 尺八寸の長さ。竹の持つ独特のは素晴らしい。前に四つの穴、手前に一つの穴の操作によって、すべての音色が変化する。自分が吹く息の竹の中を通る風力が、前後五つの穴の操作によって数十の音声に分かれる。

 しかも、吹き込む風力の強弱によって、全く異なった音色となる。吹く風の量と、強弱によっても異なることは、楽器の持つ、特色、即生命であろう。

この音色によって、自分の体力の良、不良を悟ることさえできる。

 習い始めて約十年。心を癒す為に、少しずつ吹き続けて今日に至る。音を聞きながら、自分の体力と心の癒しを感じるが、不思議なことは、楽譜を眼で捉えていても、そのまま指が動いていることである。

 譜を眼で捉えて、そのまま指で穴を押さえていると、吹く息は筒の中を走り回り曲と変る。自分の心は音楽の総合指揮者のつもりであろう。それでも頭脳は、何のかかわりもないかの如くである。習慣と呼ぶ人間力の凄さだ。

頭脳と能力は無限

 金婚式を越えて、夫婦合わせて既に百六十歳以上。二人きりの生活が続いている。

 妻が時々新婚生活当時の話を食事どきに持ち出す。

 女性の会話には、「主語が無い」と言われるが、わが家もその通りだ。何の、誰の、いつの、と問い質さないと話は通じない。それでも会話を続けるには、話の主語の、誰々さんは、と確かめる。話している間に、当時を思い出す。

 五十年前で、今はこの世から去った人達との会話も思い出すことが出来る。親しい友人ともなれば、細かい言葉使いまで思い出させてくれる。人はみな五十年昔の出来事でも、印象深い事件や、自分とかかわりの大きい事柄は充分に覚えている。

人間の記憶力は、書庫の如く、静かに思いを画いていれば、その記憶はどこに収めていたのか、浮かび上がって出てくるものだ。

一人の人間が、複数の協力によって、一プラス一は二ではなく、五となり十となることが不思議ではない。人間同士の協力と活用の方法は、時と場所によって、その成果が異なる。

 まして、人間が生み出した最大の思考は、器具、道具の利用である。

 それが各国間の戦争の武器として、不幸を拡大しつつあることは述べるまでもない。

 人生僅か五十年の寿命は、薬品及び健康法の効用は、近年飛躍的に活用された。

今日では百歳を数える人が珍しくない。日本人も一万人ほどになるそうだ。

 戦中に育った私にとっては、日本人の夢の長寿は一〇六歳の人物(武内宿禰)である、唯一人超長寿にいきた。その人の姿は、紙幣で見ていたことだ。

 勿論、今日でも長寿を保つには本人の持つ生命力、加えて健康への注意、そして近代的な健康への食品をはじめとする、生活態度が程良く釣り合っての生活が功を奏していることであろう。――人間の能力の凄さを述べれば際限が無い。

 時には、人類の能力は暴発する。戦争がそれである。

 ノーベルが発明した火薬、即ち爆発力の悪用は、最早許される限度を越えている。

 地上に生きる動物として、唯一の能力を開発した人間は、自らの手で開拓した、科学力、化学力、器具や兵器や薬の活用は、人間を生かすことと殺すことの双方に働く。

 人間の能力は、近年に至って急速度に発展しつつある。それをすべての人間に、或いはすべての国家に、善意に活用出来れば心配することはない。

 皮肉なことに、一方の国に善意に利用出来ることが、他国にとっては不幸を伴うことが多々在る。その極端なことが戦争に繋がることは歴史が証明している。

 第一次世界大戦は欧州中心に行われたが、第二次世界大戦は日本をも巻き込んでの世界戦争となり、壊滅的な打撃を世界中に及ぼし、日本も全国が焦土と化した。

 聡明な戦略家、石原莞爾氏は「世界最終戦論」を著述し世に問うた。人類絶滅の危機はこれが最後だと論じた。しかし結果として、第三次世界戦争は来ないと断言できない。或いは、形を変えて、既に第三次世界戦争の序曲が「テロリズムの拡大」として、世界各地に、小さな戦争の姿として、「放火」している、とも受け取られる。

裁きは神、仏のみ(それが大自然の威力)

 人間の能力は、すべて善意に基づいて発明発見、そして創造されたことを認める。されど、その能力が威力を発揮すればする程に、悪用されることも否定出来ない。悪用する側にとっては、決して悪用していると思わない処に、ことの「むずかしさ」

「恐ろしさ」が在る。

 一体、その対立を誰がどのように裁くのか?武力なのか、財力なのか、智力なのか?

最後のキメテは、教育の力による自制心となるのか。国家に自制心はあるのか。

大自然は、我々人間に直接語り掛けてはくれない。しかし自然現象として、人間の所作の暴走を、ストップさせる温かさ、鋭さ、厳しさを示しているものと信じたい。

 我々の祖先は、無限の力として、自然現象を「神と崇め、仏と尊敬」して来た。だから我々の祖先は、素直に太陽や月を拝み続けて来た。

眼に見えない時でも、形に示されないからこそ、余計に怖れ、尊崇して来た。

 幸い科学の進歩により人間もまた、地球上に活かされた、大自然の中の優れた一小動物に過ぎないと悟った。大自然から眺めれば生かされている小動物そのものだろう。

 活かされているからこそ、大自然の流れに沿っている間は、順調に成長する。大自然に逆らえば、川の流れに向かって泳いでも、源流に上ることは出来ないと同じ。

 太平洋の海水が、太陽の熱によって天上に吸上げられて雲と変り、風に乗って北上して、我々の上空から雨と降らせて、山の樹を育て、川の流れと下って、街に住む人間の生活用水と役立て、川に棲む魚をも、藻をも育てている。勿論農地の田や畠の植物を育てる天才でもある。

その「自然の回天」は「因果応報」として、やがて海へと戻ってゆく。見事な働きを人間は知らない筈は無い。それを無視し、或いは軽視することは、天に対する挑戦である。それを黙視する処にこそ、神仏、即ち大自然の戒めがある。

最近の日本には、地震、津波、台風、干魃等、大自然の怒りの様相が甚だ厳しい。

その最大の怖れが地震で、防ぐことも出来ない神様仏様の戒めの力と思うが。

今年の春襲った東日本大震災以来、地震の大・小が頻発して止む気配がない。

日本歴史始まって以来の連続ではないか。

科学万能の世相に酔う日本人には、この恐るべき天変地異に加え、豪雨が土砂崩れを誘い、河川の増水による水等、日本列島は、荒され放題である。

被害を受けたのは、日本列島の一部ではあるが、国家にとっては大打撃である。それでも、現政界と無関係と言い逃れ出来るのか。いや一億国民総懺悔の時であろう。

政府は更に円高や放射能の処理に対して、打つ手を失って立ち往生している。

七百五十年前、日蓮が「立正安国論」を北条幕府に突き付け、私心を捨てて立ち向かった。その一部分を紹介する。即ち、

『所詮、天下泰平に国土安穏ならんことは、君臣の願う所、土民の思う所也。夫れ国は法に依って而して昌へ、法は人に因って而して貴し。国亡び人滅せば仏を誰か崇むべき、法をば誰か信ず可けん哉。先ず国家を祈って須らく仏法を立つべし、若し災を消し、難を止むるに術有らば聞かんと欲す。』

野田佳彦政権は、今こそ、天の声(大自然の警鐘)に応えるべき時である。


PDFはこちらをクリック