_塚本三郎元民社党委員長小論集_ _当会支部最高顧問、塚本先生世評_

日本丸の操縦席を塞ぐは大罪人  平成二十二年十一月下旬    塚本三郎

 内閣総理大臣は、日本国家最大の権力者であり、国家と国民を守る最高の責任者である。その地位を占めている総理は、言わば日本丸の操縦者でもある。

 国家の命運を一身に背負うべき席を占めた総理が、「言うべきことを言わず、為さねばならぬ大事を為さず、進む方向さえ示さなければ」、日本丸はどうなる、乗客はどうなるのか。

日本丸の舵を握って離さず、どこへ行くかも判らず、只々時を過ごして居れば、日本丸は危機に直面する。何もしないことが即「重大犯罪」で、菅総理はその中心ではないか。

 菅総理は、自分が国家に対し、重大犯罪を犯していることにさえ気付いていないようだ。

尖閣諸島事件や、日中境界線のガス田盗掘問題で、日本政府が「友愛外交」と、どれだけ叫んでみても、相手は聞く耳を持たないのは、日本政府が「事勿れ主義」であることを、中国が充分に承知しているからではないか。北方領土も同様である。

 日本政府はなぜ正論を強く主張しないのか。事勿れ主義の背景には、いざ本格的な騒動となり、戦争となったらどうするのか。その緊急時を避けたいと考えているようだ。

 日本国憲法で禁止された不戦の憲法が在る以上、戦うことは出来ない。また万一戦ったとしても、あの強大な軍事大国には、勝てるはずがないと云う、最初から敗北主義に、菅政権自身が洗脳されている。或いは中国からの工作も混じっているやも知れないと疑う。

 人間には闘争本能がある。まして国家には、権力者として国民に対し、それぞれの責任と自負心がある。それぞれの周辺国同士が、共通の利益のみではなく、相対立する損得や感情も少なくない。それに呼応することなく、日本だけは例外と許してもらうつもりか。

恐怖の均衡と情報戦

 紛争のゆきつく先は、戦争で結着することが過去の歴史であった。第二次世界大戦から既に六十五年が経過した。あの時のような戦争を行えば、人類の大半は滅亡するであろう。

核兵器に対する「恐怖心が均衡」しているから、以後の大きな紛争と争いは、事前に手控えられた。それが「米・ソの冷戦」と評されている。

 戦争を避けられた原因の一つは、米・ソが、地球の裏・表に位置していて、直接の利害、特に領土問題が無かったことが幸いした。今度は、ソ連に替わって中国が、同様に米国と覇権争いをするようになりつつある。米国と中国もまた、地球の裏・表だから、直接に戦わねばならぬ主な原因はない。だが、中国には十三億の人民が居る。この人達を養うには、食糧だけではない。あらゆる物資を必要とし、年と共に周辺国に野心の手を、資源欲しさに侵さざるを得ない、内部事情が大きく影響していると伝えられる。

 経済交流ではお互いに、共通の利益がある。しかし、それでも経済そのものの紛争が、やがて領土問題、資源問題から軍事衝突に及ぶことも想定される。

 科学技術の発達は、人間をして抑制的にする一方、逆に別の方法で悪化することもある。

 情報戦が、まず第一歩としての争いであろう。「敵を知り、己を知れば百戦危からず」。

米国と中国とは、その情報戦の真っ最中である。本来ならば、日米同盟の日本が、彼等の中間に位置しているから、米国と組み、米国以上に日・中間で情報戦を争うべきである。

事勿れ主義本来の武器は、重大事に至る前の情報戦であるのに、情報をも軽視する菅内閣は「痴呆内閣」と言わねばならない。

 同盟国の米国でさえ、直面している情報戦について、愚鈍の菅内閣に苛立ちを隠さない。重大な情報が漏れたり、政府が命運を懸けている尖閣諸島事件の、対中国紛争のビデオさえも全世界に漏れた、しかも、それを映したのは「政府関係者」だ。

政府の余りにも愚鈍で、事勿れ主義で、卑怯な態度に対して、政府部内の一人から、堂々と打って出た、上長に対する挑戦のキザシか、或いは正義感とも見られる。

 敵は身内にも居る。その典型的事例を示された。まして、中国や米国までも、菅政権を信用していないとみるべきだ。

菅政権は反省する前に、流出の犯人捜しに狂奔している。良識ある国民は、犯人こそが正当の日本人だから、捜す必要はない、むしろ褒めてやれ、露出させた人を表彰したい、との申し出さえある。

 文明開化の二十一世紀が情報と科学の時代と言われているが、国際間の紛争には、未だ軍事力が背景に在ることが、大勢を決すると考える国が多い。その最たる国が中国である。

 情報化時代は、その国の独裁政権といえども、軍事力以上に情報を独占することが大切となった。しかし、皮肉なことは、それほど大事な情報管理も不可能となりつつある。今回の尖閣諸島の事件が、日本国内でも中国国内でもそれを実証した。

情報は実体の一部か、大半か

 「世間は七分の理と三分の非」ではないかと、私はしばしば論じて来た。

 情報こそ、その典型であろう。正しく伝えられることがすべてに優先する。しかし、「全体の三分」のみを正しく論じたとしても、残る七部に理があることもある。

 日頃から、相手の活動を充分に承知した上での情報ならば、実体は把握できる。それゆえ、政治や、外交の舞台では、相手を十分に理解し、把握した上での判断力が求められる。

 特に多数を相手にする政治や、外交の世界では、意図的に、一部の情報を流すことは「宣伝戦」として、常識化されている。

 自由と民主主義の政治体制下では、指導者の情報に対する判断力の強弱が問われ、国の運命をも左右する。それにもかかわらず、指導者となる人物は、情報宣伝力を利用して、マスメディアに乗った、軽薄な候補者が代表者として選ばれ易いことは、中央と地方の代表者(議員)に目立っている。普通選挙制の抱く暗部かもしれない。

「それ天下は悪に亡びず愚に亡ぶ」との、田中智学師の名言は、以前に紹介した。有権者のみではなく、代表者まで愚人ならば余りにも悲しい。

それでも情報の過多は止められない。情報は社会の生きた眼であり耳であるから。

それが正か、邪か、一部か全体か、七分か、三分か、情報を流す発信源を判断することと共に、情報を受け止めて、判断力を更に深めることが、指導者の義務となっている。

 中国胡錦涛政権の狡猾さは、軍事力を堂々と増強しつつあり、その勢力は、量に於いては、世界一を誇り、その行動も表面的に近隣諸国を威圧しつつある。

更に情報戦は、これまた世界一の謀略を重ねていることに注目すべきである。

 アジア諸国が、自由と民主主義政体であるため、何れの国へも、自由に入り込んで謀略を重ね、南シナ海は既に自国の海と宣言している。そして周辺の国々にも経済力を使って、重要な戦略に役立つ「土地を買い漁って」、自国の領土化を秘かに進めている。

中国は欲しい物は何でも盗ってやる主義で、アジア諸国は、表と裏の双方から侵略されつつある。その意図が日と共に進む中国に、全世界は警戒感を高めている。

 米国さえも、南シナ海航行の自由は、米国の権利であると云わざるを得なくなった。

 本来ならば、アジアの盟主を自負している日本が、それを言い出すべきであった。米国が出る前に、日本こそ、インド洋と太平洋を結ぶ、アジアの守護神でなければならない。

 アジアに於ける航行自由の存否は、日本自身の生存にも決定的なかかわりが在る。

中国は既に南シナ海のみならず、東シナ海も、否、太平洋の西半分は、中国の自由の海だと宣言しているではないか。黙っていては中国の侵略を許すことになる。

日本が強い国となるため

 占領時代に押し付けられた、世界に例のない「不戦の憲法」を日本は止むを得ず軽視し、正当防衛の権利として、自衛隊を育てて来た。その精鋭の戦力は、こそ少ないが、戦闘能力と度は超一流で、も空も、決して中国に劣らない力を保持している。その精強さは米国も認める。問題は愚鈍な政権が、日本の防衛力の腰を折っていることだ。

 今日、最大の課題は、まず日本丸の操縦席を塞いで居る「愚鈍の菅内閣」を引き下ろして、日本の直面する危機を、見抜くことのできる代表者に入れ替えるべきだ。

それは、衆議院の解散による以外にない。菅内閣は、余りにも自己の名利に酔っている、国民は既にそれを見抜いている。

 民主党は、野党暮らしが長すぎて、自らが操縦席に就いた経験が無く、未だ野党ボケから眼が覚めていない。責任能力を失ってしまった人が大勢を占めている。

 菅内閣は、何もしなくて、重大案件を先送りばかりしていては、不信任に繋がることを多少でも承知しているから、何かをしなければとあせっている。その姿が露骨に表われているのが、中・ロの首脳会談を求めていたことであろう。

 尊大ぶる中国及びロシアの首脳に向かって、なぜ頭を低くして、会談を申し込まねばならぬのか。会うことに意義があるのではない。会ったとき、両国の「卑劣な泥棒的行為」をなぜ指摘しなかったのか。ロシアと中国の、不法の事実を突き付けるだけの、勇気と段取りがなくして、会って外交が成り立つのか。先ずそれが第一だ。

今は、彼等の国際常識を無視した事実を、堂々と世界に向かって喧伝することが大事だ。

今までの友愛外交とは全く異なった、自主独立国家として、堂々と正論を、あらゆる舞台で論断して、日本外交が、全く新しい体制に変わったと、世界中に印象付けるべきだ。

 中国も、ロシアも、野心に満ちた政権であるが、さりとて、全世界の世論を敵に廻しては立ち行かなくなる。情報化時代の世界の世論は、直ちに自国民にも跳ね返って来て、無視できないはずだ。

中国、ロシアに対し、こちらから求めれば、それだけで一歩引かざるを得ない。相手が会談を求めて来るまで、一方的に、中国とロシアの非道を暴き、喧伝し続けるべきだった。

菅内閣は、やらねばならぬ事をせず、やってはいけないことを、あせって物欲しそうに言う。盗られた領土と資源を、恐る恐る、訴える恰好だけを示した。それは相手に対して、怒りの要求ではなく、単に日本国民向けの、努力の実績を示したに過ぎないとみる。

 日本は正しく強い国だ。その上、世界一強い米国との軍事同盟国である。日本は自国を守り抜く為には、血を流す覚悟を持っている。米国も日本の為に血を流してくれるのだ。

 菅総理に重ねて云う。日本丸の操縦席に居て何もしないなら、重大犯罪人となる。

 日本国家の代表として、ロシアには「火事場泥棒」をやめて、北方領土を返せと主張し、中国には、軍事力で周辺を脅し、さらに「尖閣諸島を盗む侵略」の野望を捨てよ、と国際社会で堂々と叫ぶことを奨める。

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