期待を裏切る「政権交代」 平成二十二年二月上旬 塚本三郎
この世の道理は、七分と三分とに分かれることが多い、と私は論じて来た。
科学の世界は、一〇〇%の完成を求め、それを達成するため、研究者は必死の努力を重ねている。人間社会は、善悪・両面を抱えているから、立場によっては七分と三分に相反することが多い。
鳩山政権の迷走
新政権に対して期待外れと、失望の声が巷に溢れている。だが、与党各党の議員達は、未だ発足早々だから、四年間の長いスパンで我々の行動を見守っていてくれ、と弁明に懸命である。政権公約の「マニフェストの実現」を国民は期待している。
良いことづくめのマニフェストを掲げた民主党だが、反対者の多いインデックス(即ち民主党の政策の本命)を隠しておいたこと、それを、選挙直後から露骨に、小沢幹事長、鳩山首相の両氏が言い出したことは、許されない。――特に在留外国人地方参政権・夫婦別姓などを持ち出したことは、民主党の詐欺、騙し討ちと評されても仕方がない。
民主党鳩山政権・及び小沢幹事長が、政権交代の実を挙げんと意気込んで居るが、その直前に、「政治とカネ」にまつわる重大疑惑が浮上してきた。もともと「政治とカネ」の問題は、自民党政治最大の恥部とされて来た。否、だからこそ政権交代の最大のポイントは「清潔な政治」を求めた、国民の主たる期待でもあった。
その最大の関心事が、自民党同様に、民主党首脳も、同じ疑惑を背負っていたことが露呈される始末である。それは無理もない。自民党政権時代、その不信の中心が田中角栄派と呼ばれ、その派閥の中心的人物が、小沢氏であり鳩山氏であったことは否定出来ない。
秘書のやったことは議員の責任であるから、「バッジをはずせ」。その言い出しっぺは、他ならぬ当時野党に居た鳩山由紀夫氏その人であった。この政治倫理のルールにより、当時、自民党の幹事長経験者だった加藤紘一氏ら、何人かが道義的責任を取ってバッジをはずした。それなのに、母親からの「愛の子供手当て」十二億円の贈与税を払わず、「みんな秘書がやった」「なぜ母が一言も話しをしなかったのか」「自分は何も知らない」と他人のせいにして、バッジをはずさない鳩山総理。
そして、今度は小沢一郎民主党幹事長の四億円土地購入疑惑である。三人の現、元秘書らが政治資金規正法違反で逮捕された。政治団体の土地取得は禁じられている。
鳩山総理の場合、身内の中のことゆえ、知っていたのか、知らなかったのか、本人の言い分に、他人が証拠立てすることは難しい。犯罪には「証拠主義」が原則だから、「しらをきる」ことで逃げ切ることが出来る、本人はそう思っているようだ。
総理は、まず道義的責任を
その場合の、唯一の手掛かりは、「状況証拠」を理論づけることが有力な証拠となる。
しかし、万一、総理大臣が十二億の金が入り、それを使った事実について、そのカネがどうして在ったのかを、本当に知らなかったなら、知っての「ウソより重大問題」である。
民主党の主たる支持者は、労働者で、自動車、電力、繊維、電気、鉄鋼、教職、地方自治体等々に働く、労働者の組織内議員が多い。それらの労働組合は、デフレ下で、僅か一万円の賃上げさえも、要求を断念させられている組合が少なくない。その時、総理が十億を超えるお金の受け取りを知らず、それが検察の事後の捜査によって知り、六億円近くの贈与税を支払ったことでは総理の資格はゼロである。私財を惜しげもなく活用してこそ、今日の総理大臣と呼ぶ、最高の地位を得たと思うのが常識ではないか。
鳩山総理は、額に汗を流して働く労働者の結集、労働組合の支持をうけた民主党の党首である。一般人より以上に、金銭の入りと出に、細心の注意を払うべき立場ではないか。
鳩山首相を支える以上に、首相に指示を与えている最大の実力者小沢幹事長が「カネの出入りと不動産」について、連日、マスコミでは中心の話題となっている。
被疑者・小沢幹事長は何等不正のカネではない、「検察と戦う」と豪語している。そして鳩山首相も戦って下さいと、協力ともとれる応援、激励の言葉を述べ、弁明していた。
民主政治は、司法・立法・行政の三権が歴然と分立している。立法府の最大の実力者小沢幹事長が、司法から嫌疑をかけられたことは、たとえ野党の一議員でさえも、司法と戦うのは如何かと思う。まして政権党の中でも最大の実力者が、検察と戦うと、堂々と宣言するのは、分を弁えない発言である。
既に、比較的好意的なマスコミさえも、連日、小沢氏のカネの出入りと、多数の不動産の入手について、疑問点を具体的に指摘している。検察は、この実状を放置することが出来ず、止むなく、事情聴取に踏み切ったとみるべきであろう。
鳩山首相を支える、言わば命綱とも頼る小沢幹事長との関係からすれば、無実であって欲しい、と願うことは同情に値する。だが「戦って下さい」は、ないであろう。そのような言葉を用いるのは、未だ鳩山由紀夫氏は、首相としての自覚がない。野党議員の心そのままではないか。内閣総理大臣は、司法・立法・行政三権を統括する総司令官である。
自分の麾下に在る検察が、事情聴取に動き、マスコミが連日、騒ぎ立てているのを、他人ごとの如く論じているのは卑怯である。鳩山由紀夫氏は、民主党の代表であると共に、三権の長として、検察を監督し、「真実の究明をせよ」と指示すべきだと思うが如何か?
自身も嫌疑をかけられていることもあろうが、総理大臣が、同じ党の幹事長に対し麾下の検察に向って戦って下さいは、職責の放棄ともとられる。それとも未だ野党ボケから醒めていないと同情すべきか。いずれにしても、道義的立場から不適格と言うべきだ。
小沢幹事長の変心は国難
昨夏の総選挙で、少なからぬ保守支持層が、自民党に見切りをつけたのは、民主党が保守の基盤に立つ政党と思われ、その上、何となく小沢氏の剛腕に期待するという感覚が、国民一般に根強くあったからだ。そして一時期小沢氏自身、「保守」を売り物にする時期もあった。しかし、「自民党と自由党の連立」が解消された直後から左旋回をはじめる。旧社会党の土井たか子氏、横路孝弘氏、日教組出身の興石東氏といった人達と連繋し、社民党等と連立を組み、小沢氏は変節を繰り返している。彼が変節しないのは、傲岸な体質と、カネにすべてを収斂する「唯金思想」である、と評した某大学教授の言もうなずける。
日本を支配する鳩山政権、その権力を支配する小沢幹事長の政治行動の危うさ。しかし、いつまでも、その変節者を、日本国民は見過ごし許してはおかない。
彼の背後には、「カネと政治」の魔物がとりつき、さらに国民の怒りが込められ、身動き出来ないように幕を下ろす時が迫ると思う。
民主党議員は良識者の声に応えよ
民主党内には、期待すべき良識在る国会議員が沢山居る。それ等の人達、特に若い優秀な議員達の多くは、現在の鳩山首相や、小沢幹事長の言動に対しては、内心、不信と不安を抱いているとみる。
民主党は独裁、独善政党では断じてない。それなのに、なぜ愛党の精神をもって、堂々と是々非々の発言を行わないのか。
野党に下った自民党のダラシナイ姿に、国民は鉄槌を下した。それでも前述の如く、秘書の逮捕によって、党内の不信の発言に従って、数名の国会議員がバッジを外している。
それと比べて、今日の民主党の党内無言の姿は、悲しみに堪えない。人生には、運・不運が在る。まして政治家には、心ならずも、仲間に犠牲を強いなければならぬ場合もある、悪役を背負って立つ覚悟が時には不可欠である。仲間を労わるだけが愛党ではない。
民主党の国会議員は、発言の機会の熟するのを待っているようだ、それも一つの方法ではあろう。だが、今日の日本は、そんな時間を無駄にする余裕はない。
経済的危機は日と共に深まり、不況のため庶民は悲鳴を上げている。更に外交・防衛では、大切な日米同盟まで、危惧すべき難局に直面している。だから両首脳の「政治とカネ」の問題に足を縛られ、後ろ髪を引かれる思いであろう。
民主党政権は、一刻も早く本題に取り組まなければならない重責を背負っている。
政治は世相を映す鏡であるが、他面、政治こそ世相を改める天意でもある。
政治家は、上手に世渡りをすることが少なくない。人間として咎め立てしにくい。だが、その惰性によって、日本国家と国民も、悪い底にと落ちてゆくことを知るべきだ。
日本国民は、月日と共に、鳩山政権に対する不安と不信を募らせつつある。
日本が直面する内外の危機を憂いている有識者の声は、日と共に増大し、全国各地で、自発的に表面化しつつある。その声は、「政治家よ、もっと本心を語れ」、日本国家に必要なことなら、我々は犠牲を払うことも辞さない。財政が厳しいなら、それを補う為に「増税を」と正直に言ってくれれば応じても良い。防衛力が足りなければ、「防衛力増強も」勇んで認める。――このような嬉しい言葉が湧き上がりつつある。
日本国家が、今日までと異なる危険な事態に直面している。このことに、国民は眼を閉じ、わがままを許されないことを充分に承知している。
いつまでも、国民を怠惰な愚民と思い、それに迎合する政治は止めて欲しい。日本国民は冷静であり、素直な民族として、「日本人らしさ」を守り抜いて来た。それを信用してほしい。万一、それに応えて、落選することになるかもしれない、それもまた為政者の運命としては甘んじて受けよ。もう「大衆迎合主義」や、「偽善の政治」は止めるべきだ。
国家と国民の為には、正直者が、時には馬鹿をみることがあっても仕方がない。それが政治家の宿命と覚悟すべきである。
鳩山政権は、自民党政権のことごとくを否定したいようだ。そのことが、かつては無駄な行政だったことを印象づける為に。しかし、国益に適うものも沢山ある。そのときは自民党政権の政策を踏襲することも、ためらうべきではない。
アジアは今日、世界の成長の中心地と目されている。日本は幸い、そのセンターに位置している。この地域の需要を取り込むため、絶好の立場に立ち、国益中心の政治を直ちに行なうべきは言うまでもない。
日本の政治を、横目でにらみつつ急進する中国・韓国の嘲笑の声が聞えないか。
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