NHKに巣くう報道テロリスト [伊勢 雅臣]

【8月2日 Japan on the Globe 国際派日本人養成講座】
http://www.melma.com/backnumber_115

■1.「人間動物園」!?■

 ジャーナリストの大高未貴さんは、台湾の教育部原住民教育政策委員・華阿財氏とのイ
ンタビューで、こう質問した。

 (台湾原住民の)パイワン族がロンドンの博覧会に連れていかれ、彼らが人間動物園と
して見せ物にされたとNHKが報じていますが、本当ですか?[1,p36]

 NHKのドキュメンタリー番組『JAPANデビュー』は、台湾の原住民パイワン族が
百年前のロンドンでの日英博覧会に連れて行かれ、戦いの踊りや戦闘のまねごとを披露し、
「人間動物園」と呼ばれて人気を博した、と報じた。大高さんはこれが事実かどうか確か
めるために、台湾にやってきたのだった。

 大高さんが「人間動物園」と口で言っても、華さんは一向に理解できなかったので、メ
モ用紙に「人間動物園」と書いた。

 華さんは目をひんむき、憤激の体で頭を何度も左右に振った。「私は、こういう事を聞
いたことがない!」それから華さんは、こう語った。

 ロンドンに行ったパイワン族の24人は誇りを持って民族の舞踏や戦いの儀式を披露しま
した。滞在が1年4カ月にも及んだので恋も生まれ、結婚式もあった。イギリス人との友情
も深まり、その後、イギリス人学者二人が部落を訪れ、25日間も滞在し、相互交流を深め
ました。その時、イギリス人がパイワン族に英語の歌を教えてくれ、いまでも部落に伝承
されています。

 華さんは「私は英語下手ですけど」と照れ笑いしながら、その英語の歌を二度も披露し
てくれた。

 別の資料によれば、この日英博覧会では、京都の大相撲の一団や綿花農家も参加し、相
撲や伝統技術を披露したという。今日でもよく行われる民族文化の実演である。

 これを『JAPANデビュー』は、台湾原住民を差別した「人間動物園」と報道したの
だった。華さんはパイワン族の代表として、民族の名誉を汚された事に対して、NHKへ
の抗議文を書いているという。

■2.「台湾人は豚のシッポを食うのか」■

 『JAPANデビュー』のインタビューに登場した柯徳三さんも、実際の報道ぶりに仰
天し、怒り心頭に発した一人である。柯徳三さんは、濱崎ディレクター以下NHKスタッ
フを自宅に招き、朝9時から昼食を挟んで夕方までインタビューに応じた。 [1,p30]

 日本統治時代の良い部分も悪い部分も公平に話したという。特に教育やインフラ整備な
どの良かった点については、時間をかけて説明した。[a,b]

 しかも、柯さんは濱崎ディレクターに対して、「日本人に対してこれを発表したら悪く
思うような箇所があれば、削っても構わないよ」と言った。しかし、削られたのは、時間
をかけて説明した良かった点の方で、紹介されたのは次のようなエピソードだった。

 豚肉の角煮(ローバ)を弁当に持っていくと、笑われるんだ。台湾人は豚のシッポを食
うのかと騒ぎ立てる。だから家に帰って母に文句言った。おかずを日本式にしてくれ、卵
焼きとたらことかと。母も随分苦労した。さくら干しとか、みりん干しとか。そうしたら
弁当の蓋を堂々と開けられる。[1,p24]

 この話が、日本統治下で台湾人が「差別」「弾圧」されていた実例として紹介されたの
である。

■3.日本式の貧乏臭い食事■

 しかし、これは「恨み言」ではなく、台湾人の誇りをユーモラスに語った話なのだ、と
メールマガジン『台湾の声』編集長・林建良さんは明かしている。

 「ローバ」「豚のシッポ」とは台湾料理で一番おいしいとされる高級料理だ。それを弁
当に入れるのは豊かな上流家庭の子供だけだ。一方、玉子焼きというのは、台湾では貧し
い家庭の料理である。・・・

 要するに柯徳三さんは、貧乏臭い弁当を母親に頼み、「苦労」させたと語ったのだ。だ
からそのとき、周りにいる台湾人は笑っていた。

 だがインタビューを行った濱崎憲一ディレクターはそれがわからなかった。日本の植民
統治下における「差別」「弾圧」のネタを探すのに急だった彼は、大喜びでこのエピソー
ドに食らい付いたのではないか。[1,p24]

 他民族の食事について違和感を持つ事はよくあることである。たとえば、フランス人が
カエルやカタツムリを食べるのは他国民には容易にはなじめない食習慣である。そして子
供なら、それをからかったりもするだろう。しかし、この程度の事をもって「差別」と言
うのは、なんとも苦し紛れの報道である。

 真に日本統治の功罪を問うなら、日本人の子供と台湾人の子供が同じ学校に通っていた
という教育政策、そして台湾人のなかには日本人よりも贅沢な弁当を持ってくる家があっ
たという経済事情の方を考えるべきではないか。

■4.「日台戦争」!?■

 柯さんは『JAPANデビュー』の次のようなナレーションにも怒りをぶつけた。[1,p40]

 漢民族としての伝統や誇りを持つ台湾人が、日本の支配に対して激しい抵抗運動を起こ
したのです。武力で制圧しようとする日本軍に対し、台湾人の抵抗は激しさを増していき
ます。戦いは全土に拡がり、後に日台戦争と呼ばれる規模に拡大していきます。

 「日台戦争」という表現には、誰でも驚かされる。柯さんもこう怒った。

 思いもよらない言葉ですよ。まったく聞いたことがない。日本と台湾がどこで戦争やっ
たんだ![1,p31]

 清国は台湾を割譲したが、一部の抵抗勢力を放置していったために、日本軍は掃討戦を
行った。一方、台湾人の有力者や商人などは、治安回復のために日本軍の台北入城や台南
入城を要望した。これを勝手に「戦争」と呼ぶのは、歴史学や政治学の常識を無視した歪
曲である。

 続いて「漢民族としての伝統や誇りを持つ台湾人」という歴史認識については、柯さん
は顔を赤らめて、台湾人は漢民族ではない!医師である柯さんは様々な遺伝子学的根拠を
挙げて、NHKの歴史認識の誤りを示した。

■5.「あんた、中共の息がかかっているんだろう」■

 柯さんは『JAPANデビュー』を見た後、濱崎ディレクターに抗議の電話をした。

 私は濱崎さんに言うたんだ。あんた、中共の息がかかっているんだろう。私が聞くとこ
ろによると、朝日新聞とNHKは、北京に呼ばれてチヤホヤされて、貢物をもっていった
んだろう。[1,p34]

 これに対して、濱崎ディレクターは「いや、先生、それは違います。我々にたくさん視
聴者から評価する声が、FAXや手紙で来ています」と言って、それらをFAXで送って
きた。しかし、その後、濱崎ディレクターは柯さんに電話をしてきて、「さっきのFAX
は柯さんだけに留めてほしい」と頼んだという。

 この時、すでに番組のあまりの偏向ぶりに怒った人々の批判が全国からNHKに寄せら
れ、大問題に発展しつつあった。濱崎ディレクターは、柯さんの怒りを静めるために、視
聴者の評価する声だけをとりあげたFAXを送ったのだが、その後、これがまた番組の偏
向に抗議する人々の手に渡れば火に油を注ぐ、と考え直したのであろう。姑息な手を使う
人物ではある。

■6.「人をばかにしているんだ」■

 もう一人、『JAPANデビュー』では、教育勅語を暗唱し、「人をばかにしているん
だ、日本は!」と語った老人が登場する。

 番組の検証を行うために訪台したジャーナリスト井上和彦氏は、日本統治時代を知る親
日老人たちの憩いの場となっている台北市の龍山時で、この老人に偶然出くわした。

 井上氏が話を聞いてみると、この老人が言いたかったのは「我々台湾人は、命をかけて
日本のために戦った。にもかかわらず、戦後日本は、台湾の主権を放棄してしまった。だ
から台湾はみなし子になったではないか」ということだった。

 「人をばかにしている」のは、台湾を見捨てた戦後の日本であり、台湾を統治していた
戦前の日本ではない。

 龍山寺前の公園には大道芸人も数多く、彼らは戦前の日本の 軍歌や唱歌などを演奏し
て年配者の喝采を浴びていた。取材中の井上氏を取り囲んだ群衆は、軍歌『暁に祈る』の
大合唱で歓迎してくれたという。

 おそらく、濱崎ディレクターらNHKの取材陣も、同様の光景を見たはずである。そし
て、この老人に出くわして、その話を聞きながら、片言を切り取って、さも戦前の日本に
対する批判のように加工したのである。

 これは偏向というより、確信犯的な捏造報道である。「人をばかにしている」のは、濱
崎ディレクターではないか。

■7.台湾と日本で沸き起こる抗議行動、集団訴訟■

 こうした日本語世代の人々が集まって、5月16日、台北のNHK支局にデモ抗議をしか
けた。次のような声があがった。

 NHKは台湾の人の言うことを非常に歪曲し、それから捏造した。これに対して我々日
本語族は非常に怒りを感じるのです(『素晴らしかった日本の先生とその教育』の著者・
楊應吟氏)[1,p18]

 日本国内においても、1500人もの抗議デモ隊がNHKを3回にわたって取り巻いた。そ
の後も全国各地で抗議デモが繰り広げられている[2]。

 さらに1万人近くの原告が集まって、NHKへの集団訴訟がなされ、今もその人数は増
え続けている[3]。放送法第3条3項には「報道は事実をまげないですること」とあるが、
本稿で紹介した台湾の人々のインタビュー内容を恣意的に編集したことで、この条項に抵
触している疑いは濃厚である。

 また「公共放送のあり方について考える議員の会」が発足し、6月11日の設立総会では
約60人の国会議員が参加した。

 例によって、こうした動きは、産経新聞や週刊新潮以外のマス・メディアでは目立った
報道がされていないが、インターネットが普及して草の根の情報伝達が広まった現代にお
いては、以前のように大手報道機関が頬被りを決め込められる時代ではない。これは戦後
最大級の偏向マスコミへの批判行動であろう。

■8.中国共産党中央宣伝部「抗日戦争の研究強化呼びかけ」■

 柯徳三さんの「あんた、中共の息がかかっているんだろう」という言葉は、根拠なき罵
倒ではない。「漢民族としての伝統や誇りを持つ台湾人が、日本の植民地支配によって差
別された」という視点は、中国の主張そのものである。

 この点については傍証もある。中国共産党中央宣伝部の責任者・李長春は、4年前、
「抗日戦争の研究強化呼びかけ」の演説を行っている。そこにはこうある。 [1,p161]

 日本が中国とアジア太平洋各国を侵略した歴史を深く研究し、日本軍国主義の残虐行為
を明らかにし、右翼勢力の歴史をねじ曲げ、侵略を美化するでたらめな論調を暴かなけれ
ばならない。

 日本による植民地支配に抵抗した台湾人民の戦いの歴史を深く研究し、「台湾独立」と
日本軍国主義の歴史的根源を明らかにし、祖国平和統一を促進しなければならない。

 『JAPANデビュー』の企画提出から制作決定、制作期間を考慮すると、4年前のこ
の「指示」と時期的にぴったり一致する、というのが、チャンネル桜の水島総氏の見解で
ある。

 台湾併合を狙う中国にとって、日台友好関係こそ目の上のたんこぶだ。そして日台を離
間させてから台湾を併合し、西太平洋を「中国の海」とすれば、自ずから日本も属国とな
り、その技術力・経済力を自由に搾取できるようになる。これが中国の戦略である。

■9.我が国の自由民主主義が脅かされている■

 『JAPANデビュー』が、中国共産党中央宣伝部の「指示」に従ったものか、あるい
は自主的にその意向に沿ったものである事は疑いようがない。NHKには、日本国民から
集めた金を使って日本の国益を害し、他国のために捏造報道を行う報道テロリストが巣く
っているのである。

 放送法第3条に定められている「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないで
すること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明ら
かにすること」は、自由民主主義社会において国民が正しい判断をするために必要不可欠
な基盤である。

 意図的な捏造報道で事実を曲げ、視聴者を特定の方向に洗脳することは、中国の常套手
段であり[c,d]、それをNHK内部に巣くった手先が日本国内で展開することは、我が国
の自由民主主義体制に対する重大な挑戦である。

 NHKへの集団訴訟は、我が国の自由民主主義の基盤を守るための戦いである、と言
える。

                               (文責:伊勢雅臣)