馬英九総統再任 とどまらない中台の「現状」 吉村 剛史(産経新聞台北支局長)

【産経新聞:平成24(2012)年5月26日「国際情勢分析 吉村剛史の目」】

 台湾の馬英九(ば・えいきゅう)総統(61)の2期目の就任式が20日、台北市内の総統府
で行われた。引き続き対中融和の歩みが注目されるが、今後4年間の施政方針を示す就任演
説では、政治対話など具体的な目標は掲げられず、「さらに新たな協力分野を切りひら
く」と表現するにとどめている。中台関係はどのように進展するのか。

◆霧の中の演説

 「両岸(中台)関連で何かをするとは言わない一方、何もしないとも言っていない。霧
の中で示されたかのような印象」

 就任演説の後、複数の専門家はこう指摘した。

 演説では、中台の「新たな協力分野」に言及した後、「民主、人権、法治」をめぐる対
話を深め、「引き続き平和を強固にし、繁栄を拡大し、相互信頼を深める」と主張。中台
共通の基盤として「中華民族に属し、血縁、歴史、文化を共有する」ことを挙げ、「とも
に『国父』とする孫文」の「天下為公」や「自由、民主、均富(公平)」の理念を「忘れ
てはならない」とした。

 一方で、「中華民国憲法こそ政府が両岸関係を処理するうえの最高指導原則」と改めて
示し、「統一せず、独立せず、武力行使せず」の「3つのノー」という従来の対中姿勢に
よる現状維持姿勢も重ねて強調した。

 現在、馬総統は、食肉の赤身を増やす飼料添加物を使用した米国産牛肉の輸入問題や、
電気料金の値上げなどで、世論の反発の渦中にあり、主要紙の世論調査でも、支持率は
20%台前半と低迷している。

 加えて、一方の主役、中国も今年は政権交代期。台湾の背後の米国も大統領選を控えて
おり、与党・国民党幹部は「周囲をみても、足もとをみても、今は両岸関係で積極的な発
信ができる状況にない」と説明する。

◆「二つの地区」とは

 結局、対中国では「同じ中華民族」、対中融和の先の「統一」を危ぶむ人々には、台湾
の大多数が支持する「現状維持」と、両にらみの演説となったとみられる。

 記者会見でも、対中対話は「経済優先」とし、敵対関係に正式な終止符を打つ中台平和
協定も「今のところ計画はない。行う場合も公民投票が前提」と慎重姿勢を示した。

 ただし、中台の政治的衝突を回避する「一つの中国」では、これまで「一中各表」(一
つの中国を各自が示す)としてきた台湾側の姿勢で、「一つの中国とは中華民国」と改め
て補強。

 同時に「一つの『中華民国』、二つの地区(台湾と中国大陸)」との表現を盛り込み、
中台は「相互の主権を承認せず、相互の統治権を否認せず、という共通認識を確立させ、
関係を前進させるべき」などとした。

◆関係条例を修正か

 実は、この表現には前段がある。今年3月、北京を訪れた台湾の呉伯雄(ご・はくゆ
う)・国民党名誉主席(72)は、中国の胡錦濤(こ・きんとう)国家主席(69)と会談
し、「一つの中国」のもと、「台湾地区」と「大陸地区」が共存するという考えを「一国
両区」(一国二地区)という表現で、初めて直接伝えた。

 1997年に「中華民国憲法」に加わった修正条文中の「自由地区」(台湾)、「大陸地
区」(中国)規定に沿っているが、呉名誉主席が唐突に触れた背景には、馬総統の再選
後、中国側が台湾に提案した福建省・平潭(へいたん)島の中台共同開発案への意趣返
し、との見方も、有識者の間では指摘された。

 台湾本島まで最短距離に位置する平潭島の共同開発は、福建省が主体で、現地行政組織
には台湾からも幹部を公募し、一部で台湾の自治も認めるという方針で、これに対し台湾
当局では「香港、マカオ同様の一国二制度(一国両制)の実験区」との懸念を示していた
ためだ。

 とはいえ、計画は台湾企業や自治体の注目を集めており、就任式の翌21日には、昨年11
月に平潭─台中で就航した高速船「海峡号」が6月以降、週3往復から4往復に増便され、今
後は台北や台南にも就航する計画が発表されている。

 6月下旬には中台間の直接投資を促す投資保護協定が締結される見通しだが、その舞台と
なる台湾側の対中交流機関、海峡交流基金会の新たなビルが17日、台北市内にオープンし
た。

 その際、馬総統は式典で、「相互に交流機関の現地事務所を開設したい」また、中台の
経済、貿易、文化交流を規定する両岸人民関係条例も「時代に即した内容に修正したい」
と発言。中台の「現状」は今後もとどまることはなさそうだ。

                         (よしむら・たけし 台北支局)


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