聖火リレールートを巡る衝突の原因は中国のルール違反[台北 中西 功]

北京オリンピック聖火リレールートを巡り台湾・中国間で衝突
原因はまたも中国のルール違反

                   青森李登輝友の会事務局長 中西 功(台北)

 3月26日、来年開催される北京オリンピックの聖火リレールートが決定しましたが、こ
のルートに対し、台湾が抗議・拒否をしています。なぜそのような事態になってしまっ
たのでしょうか。

聖火リレールート
http://torchrelay.beijing2008.cn/upload/torchrelaymap/map.pdf

 元々台湾は、聖火リレールートに台湾が含まれることがわかった時点で、ルートが「中
国〜台湾〜その他の国」、「その他の国〜台湾〜中国」、「その他の国〜台湾〜その他
の国」のいずれかでなければならないと主張していました。

 もし「中国〜台湾〜中国」のようなルートだと、世界の国々に台湾が中国の一部であ
ると誤解されるため、台湾は「台湾の国際的立場を低くする、いかなるルート選定も認
めない」と申し出たのです。

 さて、正式に発表されたルートを見てみると、「〜タイ〜マレーシア〜インドネシア
〜オーストラリア〜日本〜韓国〜北朝鮮〜ベトナム〜台湾〜香港〜マカオ〜海南島〜広
州〜」となっています。そうです、中国は台湾の申し出を受け入れ、「ベトナム〜台湾
〜香港」というルートを選定しました。それではごり押ししているのは台湾なのでしょ
うか?

 いいえ、確かに台湾側にも狡猾な中国の策略を読みきれなかった非はありますが、明
らかに中国の台湾いじめです。

台湾は、
(1)中国が「台北、香港、マカオについては、『国際路線』ではなく『境外路線』である
 ことをはっきりと認識してほしい」と、台湾を中国の一部として発表したこと。
(2)中国が意図的に終始『中華台北』を『中国台北』と呼称していること。
 の2点により、このルート選定は台湾の国際的立場を低くするものであり、絶対に容
認できないとしているのです。

 さて(1)の『境外』はどのように解釈すればいいのか、「はっきりと認識してほし
い」と言われても私には全くわからなかったので、台湾人の友人に聞いてみましたが、
それでも「ある一定の境界の外」ということ以外、やはりはっきりしません。台湾でも
外国の株式を扱っているファンドを『境外ファンド』というらしいのですが、それなら
『境外』=『国外』ですから、意味が通じません。どうやら中国は自国の主権が及ぶ範
囲を『境内』、及ばない範囲を『境外』としているようです。そこで、「台湾、香港、
マカオは(中国国内の)境外」と言われたのですから、台湾が容認できるはずがありま
せん。

 次に(2)ですが、この『中華台北』という呼称は、1989年に台湾と中国の2国間で
協議・決定した正式な中国語名称です(英語名称のChinese Taipeiは1981年に決定済)
これを中国が一方的に無視して『中国台北』と呼称するなど許されることではありませ
ん。

 このような国際ルールを無視した中国の態度は絶対に許されるものではありません。
しかも中国は、自分がこのようにオリンピックを政治に利用しているにもかかわらず、
台湾に対して「政治とスポーツは別物」などと、二重人格としか思えない発言をしてい
ます。

 また、自国台湾の地位が貶められているにもかかわらず、「聖火が来れば台北の国際
的立場があがる」と、現台北市長([赤におおざと]龍斌/カクリュウヒン)は手放しで歓
迎の意を表明しています。

 台北が『中国の台北』であることが世界中で認識されることを喜ぶ中国のスポークス
マン。

 台湾政府は中国と自国の両方を相手に、これから難しい交渉を始めることになりまし
た。しかし、台湾が1国で声高に叫んだところで、見直される可能性は低いでしょう。
例え北京オリンピックをボイコットしたとしても、1国だけのボイコットでは国際世論
に与える影響は微々たるものです。さらには、台湾が頑なに正式決定した聖火リレール
ートを拒否し続ければ、最悪IOC会員資格の剥奪といったIOCによる制裁処置もあ
るかもしれません。願わくはIOCの良識に期待したいものです。

 今後、この問題がどのように進展するかはまだわからないものの、あの中国が簡単に
引き下がることは決してありえません。来年のオリンピックはどうやらビール片手に浮
かれている場合ではなさそうです。


■参考 『中華台北』の経緯(台湾:国家政策研究基金会HPより)
 意訳ですので、原文は下記HPでご確認ください。
 (中国語:http://www.npf.org.tw/PUBLICATION/EC/090/EC-R-090-017.htm

1952年 第15回ヘルシンキ大会開催
    中国の圧力によりIOCは台湾に大会参加を認めない旨通知する。台湾側の交
    渉により『中国』名義での参加は認められないが、『台湾』名義での参加が認
    められる。
1954年 中国がIOCに加盟
    これにより中国、台湾の両国がIOC加盟国となる。
1956年 第16回メルボルン大開開催
    台湾に中国の国旗を使用するよう中国が画策するも不調に終わる。これに怒っ
    た中国は大会をボイコット。
1958年 中国は台湾がIOC加盟国であることへの反対を重ねて表明
    中国がIOCからの脱会を宣言。IOCが中国のIOC脱会および再加盟の禁
    止を決定(その後も中国は台湾妨害活動を継続)。
1959年 第55回ミュンヘンIOC総会開催
    IOCは台湾に今後『中国オリンピック委員会』の名称使用禁止を通知(名称
    変更によりIOC加盟は継続可能)。
1960年 第58回ローマIOC総会開催
    『中華民国オリンピック委員会』としてIOC加盟資格を回復(英語名称:
    Republic of China Olympic Committee)。しかしオリンピック参加名称につい
    ては未解決のまま。しばらく『台湾』としてオリンピックに参加。
1968年 第68回メキシコIOC総会開催
    台湾の『中華民国』名でのオリンピック参加を承認される。
1971年 中国が国際連合へ加盟、台湾が脱退
1975年 中国が再度IOCへ加盟申請と台湾のIOC加盟資格剥奪を申請
    両案ともに却下。
1978年 スウェーデンIOC総会開催
    中東・アフリカ・東欧・アジア等35カ国が台湾のIOC加盟資格剥奪を提議す
    る(認められない場合、1980年モスクワ五輪へのボイコットを表明)。
1979年 第81回モンテビネオIOC理事会開催
    中国のIOC加盟資格が回復(名称:Chinese Olympic Committee,Peking)
    台湾のIOC加盟資格も継続(名称:Chinese Olympic Committee,Taipei)
    これを不服とした中国は同年、プエルトリコ、サンファン、名古屋で開催され
    たIOC理事会で、以下を提案し採用される。
    (1)中国は『中国オリンピック委員会』の名称を使用する(英語名:Chinese
     Olympic Committee)。
    (2)中国はオリンピックにおいて中華人民共和国の国旗、国家を使用する。
    (3)台湾は『中華台北オリンピック委員会』の名称を使用する(英語名:
     Chinese Taipei Olympic Committee)。
    (4)台湾がオリンピックで使用する旗、歌は別に用意しIOCの承認を受ける。
    台湾は本決定がオリンピック憲章に抵触するとして、IOCを相手に訴訟、勝訴。
1980年 IOCがオリンピック憲章を改正
    この改正により前決定が憲章違反でなくなる。
1981年 台湾が正式に前決定を受け入れ、以下のとおりとなる。
    (1)台湾は『中華台北オリンピック委員会』の名称を使用する(英語名:
    Chinese Taipei Olympic Committee)。
    (2)台湾がオリンピックで使用する旗、マークは梅花と五輪のものとする。
    (3)オリンピック入場の序列は、中国はC(China)台湾はT(Taiwan)とする。
1989年 北京でアジア青年体操選手権が開催
    『Chinese Taipei Olympic Committee』の中国語標記について、台湾と中国間
    で協議を実施し、以下のとおり定めて署名。
    「台湾のスポーツ団体・組織が中国で試合・会議・その他活動に参加する場合、
    中国が使用する台湾の呼称はすべて(プログラム・ネームプレート・広告等)
    IOC規則に基づき『中華台北』を使用する」



投稿日

カテゴリー:

投稿者: