現地報告−高砂義勇隊慰霊碑【古市利雄】

高金素梅がもたらした混乱に向き合う簡福源理事の固い意志

 去る2月17日、移設されて間もない高砂義勇隊慰霊碑の撤去問題が急遽浮上し、その成り
行きが注目されています。高砂義勇隊慰霊碑は日本と台湾の交流のシンボルで、12日に「
烏来と天灯の里ツアー」で訪問したばかりでした。
 このツアーに現地参加してくれた本会理事で台湾研究フォーラム事務局長の古市利雄氏
が、現地を三度訪ねた最新情報を「台湾の声」に寄せておりますので、転載してご紹介し
ます。
 何としても平和の象徴でもあるこの高砂義勇隊慰霊碑の撤去という、法的根拠も希薄な
措置を回避されることを願っています。もしこの慰霊碑が県政府の横暴な措置によって撤
去の憂き目に遭えば、心ある多くの日本国民の台湾への眼差しは確実に変わります。
 これは台湾の将来にとっても尾を引く事件となり、台湾国内の中国統一派勢力を助長し
、中国に併呑される可能性がますます高くなってしまいます。
 撤去は何一つとしていい結果をもたらしません。撤去が回避されることを心から望んで
います。                               (編集部)


【現地報告】高砂義勇隊慰霊碑
高金素梅がもたらした混乱に向き合う簡福源理事の固い意志

                    台湾研究フォーラム 事務局長  古市利雄

 移設され今月8日に除幕式を迎えたばかりの高砂義勇隊慰霊碑が、18日にも撤去される
と報道を聞き、いてもたってもいられず今週既に2度も訪れたウライの地へ向かった。

 この知らせを耳にした時には、日本人の善意が裏切られる形となって非常に悲しい気持
ちになったが、それよりも遺族をはじめとした原住民の心情を考えるといたたまれなく
なる。

 原住民の歴史においては「平地の人(原住民以外の民族)」に、純粋な原住民が騙され
るとことが多々あったため、彼らは平地の人をあまり信用していない。今回ようやく祖先
を祭ることができると思ったら、また平地の人に裏切られることとなってしまったのだ。

 ウライへと向かうバスの中では、こうした報道がされてもウライへと観光へ出かける「
平地の人」の多さに少々驚くとともに、このような原住民に対する理解のままでは、いつ
までたっても台湾は団結することはできないのだろうと感じた。

 移設された瀑布公園には、発端となった記事を掲載した中国時報、TVBS、年代、非凡な
どのマスコミが取材に訪れており、20人ほどの原住民に、平地の人(と思われる人)が
10人ほど、一般の日本人が7,8人いる具合で、各々の議論は高まるものの、高金素梅氏
のような抗議グループが来ていなかったこともあり、平穏に事態は過ぎていった。

 瀑布公園には多くの日の丸が掲げられていたはずだが、それら全てがすでに片付けられ
ており、以前と比べると殺風景な印象を受けた。慰霊碑はもとより、日本より送られたさ
ざれ石、君が代を中文訳した石碑などは、まだ撤去の難を被っていなかった。

 慰霊碑を管理する義勇隊紀念協会の、簡福源理事にまたお目にかかることができた。開
口一番「日本の皆様に申し訳ない」とおっしゃられたのには、先日訪れた際には「日本人
は靖国神社へ必ず参拝しなさい」と懇篤なお話を頂戴していただけに、私は日本人として
何と言葉をおかけしたらいいのかわからなかった。

 周麗梅さんのご子息、マカイ・リムイさんは疲れきった表情で私と握手を交わしてく
れた。義勇隊紀念協会は記者会見で、子孫へ語り継ぐ歴史の重要性を強調し、県政府によ
る撤去には反対することを表明した。

 台北県は去年12月の地方選挙で民進党から国民党へと執政が移った。現在国民党の県長
であるために慰霊碑が撤去という事態に進みかけたが、不幸中の幸いか、多くの原住民は
国民党を支持している。そのため国民党側もこの問題の処理をあやまることは支持率低下
につながる。

 今回の報道について私には少々の疑念はあった。慰霊碑が落成した際には全く問題にな
らなかったのが10日近く経ってから、こうした形で報道され、また報道されてからの台北
県政府の一連の対応があまりに早すぎることである。

 14日に国民党中央が「台湾の独立を将来的な選択肢の一つとして承認する」という新聞
広告を掲載し、国民党内部だけではなく中国からも非難されたために、そうした流れを変
える目的でマスコミと共謀したのではないかと推測したが、国民党自体が対応に苦慮して
いる様子をみると、どうやらそうではなさそうだ。

 台北県政府は「設置者が一週間以内に撤去しなければ県政府が撤去する」と発表し、紀
念協会側は対応を協議し20日に県政府に出向く、とのこと。一時は18日にも撤去すると息
巻いていたはずだが、やはり撤去するだけの法律的根拠が弱いことに気づき始めたようで
、もちろん予断を許さない状況ではあるが、若干トーンが落ちてきている。

 一体何が法律を犯していたのかいくら調べても未だによくわからない。日本的にいえば
「公共の良俗を乱す」といった具合なのだろうか。慰霊碑は県有地にあるのだが、県の土
地にはふさわしくないといった具合なのだろうか。

 人によっては蒋介石像や忠烈祠がそれにあたるだろう。いずれにしても、それらが撤去
する法的根拠としては成り立たないだろう(台湾の司法が正しく機能していればの話にな
ってしまうが)。

 別の視点からも考えてみよう。慰霊碑を撤去して一体誰が得をするのだろうか?

 撤去されればウライへお参りに訪れる日本人の観光客はいなくなるどころか、台湾が
中国、韓国と同じ怖い反日国家だと見られ、臆病な日本人は台湾に訪れなくなるだろう。

 経済的損失は図りかねない。「金よりも誇りが大切だ」という意見には賛同するが、そ
の誇りは原住民ではなく、中国人としての誇りである。

 高金素梅や国民党にとってみれば、このような愚行を犯したら完全に原住民の信頼を
失う。拳を振り上げたのはよいが、といった状態ではなかろうか。

 おそらく妥協点を探ってくるだろう。既に原住民側からは、日本語表記の多い解説に英
語と中国語も入れる案が出てきている。

 それにしても今回の事態において、平地の人の対応はすこぶる悪い印象を受ける。国民
党教育の強い影響を受けた人にとっては、台湾と日本が歩んだ歴史と原住民の心情を無視
し、「裏切り者」と罵り、日本の姿を消そうとする。国民党支持者の知り合いは「政治の
都合なんだから仕方がない」と言った。

 日本人からすれば靖国神社が壊されるような事態にも関わらず、立ち上がったのは当事
者の原住民だけで、平地の人は反対運動を起こす気配すら、今のところない。

 台北県長だった蘇貞昌行政院長は、協会が申請をした昨年12月は台北県政府すでに離れ
ており申請を受理したのは代理県長であるという理由で、責任を回避した。

 アイデンティティの混乱を抱える現在の台湾社会にとって、原住民について考えるとい
うことは、台湾という国を考えるうえで避けて通れない命題であり、台湾がこれから向か
う方向を照らし出す光となることだろう。

 帰るころには大雨が降り始めた。高砂義勇隊の英霊の涙雨だろうか。雨が故郷台湾の地
を強く激しく打ち付けた。

 最後に簡福源理事がおっしゃったことを紹介したい。

 「もしも慰霊碑を撤去するなら、私はこの慰霊碑の前で腹を切る。撤去をするならそれ
からにしなさい」


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