李登輝前総統の来日の意義  中嶋 嶺雄(国際教養大学理事長・学長)

先に紹介したように、中嶋嶺雄氏が2007年の李登輝元総統来日に賭けた思いを改めて振
り返ってみたいと思い、ここに本会編纂『李登輝訪日 日本国へのメッセージ2007年旅と
講演の全記録』(まどか出版、2007年11月)に収録した「李登輝前総統の来日の意義」の
全文をご紹介したい。なお、掲載に当たり、漢数字を算用数字に改めたことをお断りする。


李登輝前総統の来日の意義

                      国際教養大学理事長・学長 中嶋 嶺雄

◆念願の実現

 今回、李登輝博士ご夫妻は「学術・文化交流と『奥の細道』探訪の旅」と銘打って訪日
された。

 講演も初めて滞日中に3回行うことができ、どれも非常に興味深く、日本人にとって有益
なお話をいただいた。そして、お兄さんの祀られている靖国神社にも、今回初めて参拝が
実現した。本来なら日本は自由と民主主義の国なのだから、誰がどこへ行き、何を話そう
と誰にも制約されるべきではない。しかし李登輝さんにはこれまで来日しても「東京に来
てはいけない」「政治的発言をしてはいけない」などと厳しい制約が付けられていた。民
主主義の国では絶対にあってはならないことがまかり通っていたのである。その壁を、私
をはじめ、多くの人が壊したいと願っていたが、やっとその願いがかなったのであった。

◆公的機関の手は借りない

 今回は、李登輝さんがあくまでも私人として「奥の細道」を訪れる目的で訪日されると
いうことで、日本外務省の出先機関(交流協会)や台湾の台北駐日代表處などの公的機関
にはお世話にならないようにした。李登輝さん自身がそれを強く望んでいたからである。

 しかし、コーディネートする側としては、それだけにいろいろな苦労があった。今回
は、1989年から2000年まで12年間にわたって日台間の知的交流を担った「アジア・オープ
ン・フォーラム」が国際教養大学と共に3月末に公式に招請し、5月下旬には第1回後藤新平
賞受賞が決定、李登輝ご夫妻が私たちの招請を受諾されたのであった(上掲資料:省略)。
私は「アジア・オープン・フォーラム」の世話人代表であるが、「李登輝さんを迎えての
日本でのフォーラム」というのは当フォーラムメンバーの長年の悲願でもあり、そのため
の費用も留保していたのであった。日本李登輝友の会など各地での協賛もあり、「アジ
ア・オープン・フォーラム」としての今回の来日招請費用は予算内でカバーすることがで
きた(総額2376万6447円)。

 その準備は、まずはなるべく静かな宿泊先を押さえることから昨年末に始まっていた。
秋田では携帯電話の電波も入らず、地上波TVも映らないような山奥でありながら、素晴
らしい温泉旅館(「都わすれ」)へ宿泊していただいた。東京のホテルも訪日で騒ぎにな
っては、ということで最後の最後まで「中嶋嶺雄」の名前で宿泊の予約を入れていたほど
である。

 新幹線のチケットはみどりの窓口へ私自身が取りに行ったのだが、一行13名のグリーン
車がなかなか取れない。今は全国がオンラインで、窓口が空いた途端に予約が入ってしま
う。しかも、盛岡〜田沢湖間の新幹線「こまち」はグリーン車が一両しかないため、日本
側の警護の人たちの分も席を取るとなると大変な苦労が伴った。他にも公的な来賓ではな
いから公用車を使えないので、ハイヤーやワゴン車を借り上げるなどさまざまなことがあ
った。完全に私的な旅行にするためには、留意すべき点が数多くあったのである。

◆旅程に沿って

 こうした状況下ではあったが、李登輝ご夫妻が感激された場面がたくさんあり、私たち
も苦労のしがいがあったといえよう。

 まず、日本に着いてすぐに、お台場の国際研究交流大学村へ行っていただいた。ここは
内外の優秀な研究者に質の高い生活・研究空間を提供する目的で作られており、私も設立
時の委員の一人である。ここにはとても大きな留学生宿舎の東京国際交流館がある。そこ
には台湾からの留学生も来ており、そのため台湾の国旗も掲げられている。それを見て、
李登輝さんは感激しておられた。というのも、日本で台湾の国旗が掲げられているところ
はほとんどないからである。学問や大学の世界では当然のことであるべきだ。

 6月1日には、第1回後藤新平賞の授賞式が六本木の国際文化会館であり、「後藤新平と
私」と題する素晴らしい内容の受賞講演が行われた。

 そしていよいよ奥の細道である。深川の芭蕉記念館から旅をスタートさせ、李登輝さん
は「深川に芭蕉慕ひ来夏の夢」と句を詠まれた。文惠夫人の句は、「今昔芭蕉慕ふる南
風」であった。

 さらには松島や立石寺、中尊寺や象潟の蚶満寺などを回られた。秋田では私が理事長・
学長を務める国際教養大学で特別講義をしていただいた。講義は私が「グローバル研究概
論」として英語で行っている授業での特別講義で、英語の講義録も配り、李登輝さんにと
っての外国語である日本語で「日本の教育と台湾―私が歩んだ道」と題して約1時間の講義
が行われた。そこで「教養を重視した当時の日本の教育は素晴らしかった」とおっしゃら
れ、まさに私の大学で実践している教育教養の大切さに触れてくださったことは、非常に
嬉しい発言だった。

 大学での講義に限らず、ホテルオークラ東京での「2007年とその後の世界情勢」と題す
る講義も、多数の方々から応募をいただいた。「平安の間」という大きな会場を使ったの
だが、それでも1300人の定員オーバーで、多数の方には申し訳ないこととなった。

 また行く先々で台湾の国旗や緑の旗を振り、李登輝さんを歓迎する方々の姿が見受けら
れた。李登輝さんとしては、「国家を代表として来ているわけではない、あくまで私人と
して来ているのに」との複雑な思いもあったようである。

◆靖国神社に感謝

 そして6月7日の靖国参拝である。当初は、スケジュールの中に靖国参拝は入っていなか
ったが、その予定が組み込まれたのは、李登輝さんの強い思いによるものである。私もそ
の気持ちに動かされ、急遽日程を調整し、参拝の2時間程前に内閣官房を通じてドイツ滞在
中の安部首相にも私から連絡を入れた。

 この日、作家の曽野綾子さんと三浦朱門さんご夫妻も一緒に靖国に行かれた。曽野さん
から私のところに連絡があり、「李登輝さんが行くのなら、私も是非一緒にさせて下さ
い」とのことであった。曽野さんは6月8日からアフリカへ行かれるというので、日程はす
でに6月7日の午前しかなく、午前9時半に記者会見をした上で10時に靖国へ行かれた。

 李登輝さんは「クリスチャンだから」と祝詞をあげなかったはずである。とにかく遺族
として、肉親として冥福を祈りたいという一心であったにもかかわらず、一部のマスコミ
の報道は全く文脈のずれたものであった。しかもその関心は「靖国に参拝すれば中国の反
発を免れない」というところに収斂されていたのである。

 ところが中国側はほとんど反発などできなかった。ドイツのサミットの際にも当初は胡
錦濤主席が李登輝来日を理由に日中首脳会談を渋ったようであるが、サミットのオブザー
バーである中国がそのような条件をつけるのはおかしいという安倍首相の強い姿勢に折れ
て首脳会談に応じ、会談では李登輝訪日の件は一切出なかったという。

◆安倍首相への期待

 今回の訪日の成功は安倍前総理が日本のトップにいたことが大きかったと思う。靖国神
社参拝に関しても、「私人として当然信仰の自由がある。日本は自由な国だ。その中でご
本人が判断されることだ」と安倍さんは述べていた。

 昨年、李登輝さんの訪日の予定があったときも官房長官だった安倍さんや麻生外相には
事前にお話しをした。愛知万博を契機に、台湾からの観光客はノービザになったのだが、
李登輝さんのようなVIPは日本政府の承認が必要だったのである。しかし、当時安倍官
房長官と麻生外務大臣がそれも必要ないとおっしゃってくださったので、その壁はすでに
クリアできていたといえよう。

 安倍前首相は去る9月12日、残念ながら突然に辞意を表明されたが、在任中に教育基本法
を改正し、憲法改正も俎上にのぼった。これまでこんな政治家はいなかったのではないか
と李登輝さんも言っていたし、今回の一連の発言の中にも、安倍さん応援のメッセージが
ちりばめられていた。

 李登輝さんは今、国民党と民進党の間に立たされている。しかし、私は李登輝さんに、
台湾民主化の父として、両党の上に立つような存在になって欲しいと思っている。台湾を
あれだけ民主化し、自由な国にされたのは大変な歴史的功績だからである。

 孫文が国民党からも共産党からも国父として慕われたように、李登輝さんにも「台湾の
父」という存在になってもらいたい。


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