李登輝前総統の来日で突きつけられた課題

次は「無条件ビザ発給」を期して

 1月2日夜、李登輝前総統が無事に帰台され、関係者は安堵の胸を撫で下ろして
いる。京都で発表された日本語によるメッセージからも、日本の文化や国民性に
直に触れられたことによる収穫は少なくなかったようだ。短期間ではあったもの
の、雪の年末年始という美しい日本ならではの風情にも恵まれ、総じてこの訪日
は成功したといってよいだろう。
 名古屋空港、名古屋駅、金沢駅、京都駅、そして関西空港には出迎えや見送り
に多くの人々が馳せ参じた。本会会員をはじめとする日本人や在日台湾人、留学
生など、日台関係に関心を寄せる人々が手作りの横断幕や幟を掲げ、日の丸の小
旗や緑の台湾旗を打ち振りつつ、万歳とともに出迎え、見送った。関空では近県
は及ばず、遠く山形、群馬、石川、福井、岡山、佐賀の各地から見送りに駆けつ
けている。
 年末年始のあわただしい中、現地で奉迎や奉送のために小旗や横断幕などを準
備された各位に、この場を借りて改めて深く感謝したい。
 日本李登輝友の会では今回の訪日に対して「来日が観光目的のプライベートな
ことに鑑み、みだりに握手を求めたり、著書にサインを求めるなど、李登輝前総
統やご家族を困らせるようなことにならないよう、粛々と、しかし熱烈に歓迎し
たいと」案内した。
 本来なら、各地で大歓迎会を催して、李登輝前総統にお話しいただきたかった
のだが、すでに李登輝前総統が何度も表明しているように、奥の細道を日本人と
一緒に散策したいという、次の訪日の実現を期したからに他ならない。
 しかしながら、この訪日は主権国家としての日本に大きな課題を突きつけた。
 この訪日決定の報道を受け、私どもは12月16日、歓迎声明とともに「政府への
要望」を呈し、それを小泉首相、細田官房長官、町村外相へ届けた(下記に改め
て掲載する)。
 要望は以下の4点にわたっている。1、外圧に屈することなくビザを発給する
こと。2、ビザ発給には条件をつけないこと。3、テロ行為に備えての措置をと
ること。4、ビザはマルチ・ビザ(数次査証)とすること。
 1のビザ発給は12月21日になされ、3のテロへの措置は警察庁が「公人」並の
警備体制を敷いたことで達成されている。しかし、2の発給は無条件でと4のマ
ルチビザは実現できなかった。
 特に2に関しては、「観光目的の家族旅行」を守ることという条件だった。具
体的には、これもすでに報道されていることだが、日本政府の出した来日の条件
は(1)記者会見しない、(2)講演しない、(3)政治家と会わない、という
「3つのノー」だったという。
 しかし、観光目的で来日する外国要人にこのような条件を突きつけるというの
は、やはり異常というしかない。台湾の親民党主席である宋楚瑜氏がいい例だ。
総統選挙の候補者でありながらビザを発給し、来日するや政治家と会い、講演な
ど選挙キャンペーンまでしているのである。
 ビザ発給は主権国家としての当然の行為であり、他国に左右される筋合いのも
のではない。法的に問題がなければ、要人であろうと発給すべきが当然なのだ。
李登輝前総統に法的問題がないことはすでに国会で明らかにされている。中国政
府に都合のいい要人なら発給し、都合の悪い要人には発給しないというのであれ
ば、主権国家として筋が通るまい。
 ましてや、私人として来日する観光客の言論の自由や行動の自由を奪うような
条件をビザ発給に付するのであるから、普通ではない。政府がようやくビザ発給
したことを評価するとはいえ、日本国民は政府の及び腰を危惧しているのである。
それ故、政府に対して「毅然とした姿勢」を要望したのである。
 すでに米国はマルチ・ビザを発給している。日本が李登輝前総統に対して米国
並みの待遇を与えるのはまだまだ先のようである。
 しかしながら、条件が付いたとはいえ、今回は中国政府からの圧力を跳ね返し
てビザを発給したことを了としたい。李登輝前総統が黙々とそれを守られた姿は
痛々しくもあったが、次を期して臥薪嘗胆、「無条件ビザ発給」を合言葉に、皆
様のさらなるご支援ご協力を仰ぎつつ、微力ながら力を尽くしたい。
              メールマガジン「日台共栄」編集長 柚原 正敬


李登輝前台湾総統来日についての歓迎声明と政府への要望

 本日の報道によれば、政府は李登輝前台湾総統の来日を認めて中国政府にも通
告し、査証(ビザ)発給の方針を決定したようである。
 細田博之官房長官は本日の記者会見で「李登輝氏から年末年始に純粋な観光目
的の家族旅行をしたいと申請があった」と述べ、また、小泉純一郎首相も町村信
孝外相も「一市民が観光目的で来日するのを断る理由がない」と表明している。
 政府はこれまで台湾の現役政治家である連戦・中国国民党主席や宋楚瑜・親民
党主席などにビザを発給し、来日時の政治的言動も制限してきていない。それな
のに、なぜこれまで李登輝前総統にだけビザを発給しないのか理解しがたい対応
を取ってきた。
 李登輝前総統の来日実現を目的の一つに掲げて設立した本会が、本年八月末に
起こった同氏のビザ発給問題の折、「李登輝先生来日歓迎実行委員会」設立を提
唱したところ、全国から百五十を超える団体より賛同いただいている。
 このような経緯に鑑み、本会は今般の政府の李登輝前総統に対するビザ発給決
断を全面的に支持し、その来日を心から歓迎するものである。
 ついては、以下のことを政府に要望したい。
一、すでに政府のビザ発給方針を取り消すよう抗議している中国政府の外圧や、
 国内の反対勢力に屈することなく、毅然とした姿勢でビザ発給方針を貫徹され
 るよう要望する。
一、ビザ発給に当たっては、観光目的で家族とともに来日されるのであるから、
 平成十三年四月来日時のような「政治的な言動をしない」などの条件を付する
 ことのないよう措置することを要望する。
一、日本国内において、李登輝前総統やその家族に危害を加えるようなテロ行為
 に対しては、それを未然に防ぐ万全の措置を講ずるよう要望する。
一、政府は近い将来、台湾からの観光客に対するビザ免除の方針を表明し、今般
 の来日を「断る理由がない」と承認したからには、李登輝前総統がいつでも自
 由に来日できるよう、現時点で数次査証(マルチ・ビザ)を発給するよう強く
 要望するものである。

 平成十六年十二月十六日
                       日本李登輝友の会
                          会長 小田村 四郎


李登輝前総統:台湾に帰着−−日本滞在中、目立つ行動を控える
【毎日新聞 2005年1月3日 大阪朝刊】

 【台北・飯田和郎】年末年始を日本で過ごした台湾の李登輝前総統(81)は2
日夜、関西空港発の定期便で台北に帰着した。李氏は日本入国査証(ビザ)の発
給条件だった「観光目的の家族旅行」を守り、7日間の日本滞在中、政治的発言
や目立つ行動を控えた。対中関係への悪影響を危惧(きぐ)していた日本政府は
、安堵(あんど)しているとみられる。李氏は今春以降の再訪日を希望しており
、次回の査証発給に向けて実績を積んだといえそうだ。
                    ◇
 関西国際空港旅客ターミナルの国際線出発口で、李前総統は大勢の見送りを受
けた。「お元気で」と声をかけられると、「はい、ありがとう」と手を振り、飛
行機に乗り込んだ。【浜本年弘、撮影・石井諭】



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