日本統治時代の台湾の警察官・憲兵・軍人  傳田 晴久

【台湾通信(第125回)「廣枝警部慰霊祭雑感(2)」:2018年2月2日】

*本誌掲載に当たり、原題「廣枝警部慰霊祭雑感(2)」を「日本統治時代の台湾の警察官・憲 兵・軍人」に改めたことをお断りします。また、読みやすさを考慮し、適宜、振り仮名を振り、 改行しています。

◆はじめに

 台湾通信No.122において、昨年(2017年)9月23日(土)に参加した廣枝音右衛門(ひろえだ・おとうえもん)氏並びに劉維添(りゅう・いてん)氏の慰霊祭ツアー参加の雑感を報告させていただきましたが、実はそのとき、もう一つ感じたことがありました。それは日本統治時代の警察官・憲兵・軍人についての感想です。ちょっと間があいてしまいましたが、ご覧下さい。

◆警察官廣枝音右衛門氏の人柄

 ツアー当日配布された資料によりますと、廣枝氏は明治38年(1905年)、神奈川県足柄郡(現小田原市)に生まれ、軍人、教員生活を経て1930年警察官試験に合格、台湾・新竹州の巡査となられた。1938年警部補、1942年(38歳)警部に昇進、1943年海軍巡査隊大隊長として台湾人巡査隊のフィリピン派遣総指揮をまかされたと言います。

 廣枝警部の部下劉維添氏によりますと、廣枝隊長は大変穏やかな人柄で、怒ったり叱ったりすることはなく、何か不都合なことをしてしまったときでも諄々と諭されたそうです。恐らく劉維添氏も廣枝隊長の部下としてその薫陶を受けられたのでしょう。大変穏やかな、しかししっかりした毅然とした態度のお方でした。

◆日本統治時代の警察官・軍人

 気になるのは、日本統治時代の警察官・軍人の姿です。映画やテレビのドラマに出て来る当時の警察官、軍人は多くの場合、サーベルをガチャガチャ鳴らし、乱暴で、怒鳴り、威張り散らすので、私はそういうものかと思っていました。霧社事件を描いた台湾の映画「セデック・バレ(賽?克?巴萊)」でも警察官の乱暴がきっかけとして描かれていたかと思います。

 しかし、先日読みました『汝、ふたつの故国に殉ず』(門田隆将著)は日本人を父に、台湾人を母に持つ弁護士湯徳章氏の物語ですが、その父は警察官で西来庵事件(1912年に台湾で発生した武装蜂起事件)で殉職する。当時の台湾の巡査・警察官は治安を守る行政官であると同時に住民に日本語を教え、道徳を教える教育者でもあったといい、大変尊敬されていたと書かれています。

 台湾の詩人であり小説家であった錦連さんの『台湾今昔物語』に登場する憲兵も人情味あふれる人に描かれています。日本人憲兵にまつわりつく台湾の子供達が、憲兵の持つピストルを見せてくれとせがむ光景が描かれており、根負けした憲兵が皮ケースを開けて見せると中は空っぽ。失望と不平の声を上げる子供達に「そんな必要はない」と一言。乱暴で、恐ろしい憲兵であったら子供達がまつわりつくはずがありません。

 今回、ツアーに参加された片倉佳史(かたくら・よしふみ)氏が車中でお話されましたが、日本統治時代の初期、いわゆる高砂族には「首狩り」の習慣があり、そのような山に派遣される警察官は大変危険な任務であり、実際多くの警察官が首を狩られたといいます。

◆神様になった警察官・軍人

 台湾にはもう一人有名な日本人警察官がおられました。現在の嘉義で神様として祀られている森川清治郎(もりかわ・せいじろう)巡査、義愛公(1861〜1902)です。任地で警察官としての任務を果たすかたわら、住民に対して読み書きの指導、衛生教育に力を注ぎ、住民に慕われましたが、1902年、総督府が課した新税と住民の困窮の板挟みになり、自殺します。その後、当地に疫病(コレラや脳炎)が流行ったが、村長の夢枕に立った森川巡査が環境衛生への注意を指示し、疫病は収まり、感謝する住民により義愛公の尊称を付けられた御神体がつくられ、長く愛されているということです。

 飛虎将軍廟(台南市安南区)に矢張り神様として祀られている杉浦茂峯(すぎうら・しげみね)少尉にも似たような話(台湾通信No.66にてご紹介)がありました。

 先日、メルマガ「台湾の声」に「神様になった日本人・小林三武郎─『もう一回さん』と呼ばれた巡査」という記事が紹介されましたので、その一部を引用させていただきます。

<小林三武郎巡査は名古屋出身、日本統治時代に宜蘭で森林警官として勤務した人物で、台湾檜や樟脳の材料となる楠の違法伐採を取り締まる役職であった。

 当時の警官は農業や畜産の指導もしていた。あるとき、農民がニワトリ・ブタ・鴨などの家畜の種付けをしようとしたが、なかなか上手くいかなかった。成功しないと生活が苦しくなるので、その農民は心底困っていた。不憫に思った小林巡査は、本来禁止されている役所所有の家畜を内緒で農民に貸して種付けを試みさせた。一回で成功しなくても「もう一回! もう一回!」と繰り返し成功するまでこっそり家畜を貸し出した。いつしか小林巡査は「もう一回さん」として地元農民に親しまれるようになった。お役所的なルールを曲げてまで、台湾の農民の生活を守ろうとしたのだ。小林巡査は台湾人と結婚し、1944年に宜蘭で天寿を全うした。

 厳格な警察官でありながらユーモラスな一面もあり、地元住民に親しまれていた小林巡査は有應公(立派な人物)として宜蘭の住民に祀られ、2000年代初頭に土地公(土地を守る神様)にレベルアップされた。近年、小林巡査を里帰りさせたいという声も聞こえているが、日本にいた頃の小林巡査の情報は、名古屋出身という以外全くないのが目下最大の問題だ。長きにわたって台湾人の手で祀っていただいた恩に報いる意味でも、小林巡査の里帰りを実現させたい。>(台湾の声編集部 加藤秀彦)

◆李文清さんの思い出

 私が台湾で急性盲腸炎で入院した時に大変お世話になった李文清さんに、以前お聞きした話があります。

 私の質問は、「台湾の皆さんは日本人がいいことをしたというお話のみ語られるが、悪いことも色々あったと思うので、そういう話をお聞かせください」というものでしたが、李文清さんは「自分はそのような経験はない」ということであり、矢張りいろいろいいことをした日本(人)の話をしてくださったが、最後に母がいつも語ってくれた忘れられない話であると言って、次のような話をされた。それは……

<私が6歳の時だった。昭和9年、父母は台南市の白金町、今の忠義路で金銀細工の店をやっていた。ある日、店の前を一人の日本の兵隊さんが通ったが、勇ましい姿なので私はついて行った。兵隊さんは台南駅まで歩いて行ったが、私もトコトコとついていった。

 兵隊さんは南下の汽車に乗ったので、私も従って汽車に乗った。岡山駅に着く頃、大人に連れられていないこの子供はどこへ行くのだろうかと、兵隊さんは不審に思った。そこで私を連れて岡山駅で下車し、北上の汽車に乗り換えた。台南駅に戻ると、駅前の道を私の家の近くに戻った。

 母が私たちを見つけ、家から出てきた。そして兵隊さんが経過を話したので、母は兵隊さんにお礼を言った。もし兵隊さんが私を連れて家に戻らなければ、私は迷子になってどうなったか分からない。よい兵隊さんだったので、責任をもって私を連れて家に戻れたのです。日本軍人の親切、責任感を私は身をもって経験したのです。このことは一生忘れられません。このように、私は日本人の親切、善心を知っていますが、良くないということは経験していません。>

 以上が李文清さんのお話です。

 李文清さんは昭和4年5月20日生まれ、一昨年の秋、亡くなられました。尚、台南駅と岡山駅との間は現在の普通列車で30分ほどかかる距離です。

 このように当時の台湾における警察官、軍人の仕事ぶりはなかなかのものであったようです。

◆おわりに

 日本統治時代の警察官・軍人は皆いい人ばかりであったとは言いません。ある方が次のような当時の歌を教えてくれました。

 The Naichi ni oitewa Saitan pan Formosa ni oitewa Itten ran Wah! Wah! Policeman

 意訳すれば、「内地においては御穢屋(おわいや)さん、台湾においては一等人、わぁーい! わぁーい! ポリスマン」

 昭和10年頃、台湾人の学生が警察官を揶揄して交番の前で囃したてたそうですが、台湾語のわからない日本人警官は怒りもしなかったとか。

 学生たちが親しみを込めて歌う歌ではなさそうですので、警察官がそういう目で見られていたのもひとつの事実でしょう。同時に、多くの日本人が神様に祀られたのもひとつの事実です。


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