建国途上にある台湾の「中華民国」呼称をめぐる悩ましい問題

中華民国には3つの概念があり、馬英九・現総統と蔡英文・民進党主席の言う「中華民
国」の違いについて、10月14日付の台湾紙「自由時報」が社説で述べていた。

 馬氏の言う中華民国は「今も中国大陸を版図に含み、台湾はその一部」だとし、また蔡
氏の言う中華民国は「1912年の辛亥革命で成立した国の名を借りた実質的な台湾地域」だ
という。3種目の中華民国は、中国にとっての中華民国で、国共内戦で敗れて滅びた(台湾
に亡命した)歴史上の国家だという。

 国連の五大国には、1971年に代表権が中華民国から中華人民共和国に代っても、いまな
お「中華民国」の名称が残り、中華人民共和国は中華民国を継承したという立場を取って
いると理解されている。ソビエト連邦が崩壊し、その後をロシア連邦が継承したのと似て
いる。旧ソ連は国家として存続していないように、中華民国もすでに滅亡したとの認識だ。

 しかし、台湾には中華民国を名乗る国が厳然としてある。2300万人の国民もいる。領土
もあり、軍隊もあり、議会もある。国際機関にも所属し、オリンピックにも出場する。国
家元首や国会議員を国民が選挙で選ぶ民主国家だ。実質的な独立国家であり主権国家だ。

 だが、台湾の中華民国は、1949年の国共内戦で敗れて台湾に亡命した蒋介石政権が占領
を続け、そのまま居座っているという歴史事実も見逃せない。亡命政権の常で、蒋介石は
中国大陸も自分の領土だとうそぶいた。

 もちろん、台湾が中華民国であろうと何であろうと、中華人民共和国が成立してから一
度もその支配下に入ったことがないのも事実である。

 荒っぽい説明になったが、台湾の複雑さはこのような戦後史に由来している。未だ法的
な地位を確立できていないのが現状だ。日本も1972年の国交断絶以降は「非政府間の実務
関係」と規定しているものの、(財)交流協会を通じて実質的な政府間交流を続けている。

 台湾の帰趨を決定するのは、台湾に住む人々だ。だから、国家の名称、すなわち国号の
問題には敏感だ。

 10月8日、蔡英文氏が高雄市において開かれた国政講演会で「中華民国は台湾であり、台
湾は中華民国だ。現在の中華民国政府はすでに外来政府ではない」と発言したことが波紋
を広げている。昨年5月、蔡氏は「中華民国は亡命政府」だと公言していただけに、中国国
民党はもとより、中華民国体制からの脱却をめざす独立建国勢力からも異論が出ていると
いう。

 産経新聞が「総統選で再燃する台湾の国号論」と題し、蔡氏の発言をめぐる報道を紹介
しているので下記に紹介したい。

 台湾の戦後史を振り返れば、中華民国が台湾に逃げ込んだ亡命政府であることは歴史の
事実だし、台湾の現状からすれば「中華民国は台湾であり、台湾は中華民国」以外のなに
ものでもない。台湾は中華人民共和国の版図の一部ではないのも事実だし、中華民国が中
華人民共和国やモンゴルなども含む領土を版図としていないことも現実だ。

 やはり、台湾の将来を決定するのは台湾に住む人々だ。この中華民国の名称をめぐる悩
ましい問題に決着をつけるのは、台湾に住む人々以外にいない。

 日本発の台湾正名運動が台湾では中華民国を台湾に正名することと理解されたことで急
速に広がったことを想起すると、やはり台湾は建国途上にあると言っていい。東日本大震
災に対して、日本に多大な支援をしていただいた台湾の人々の英知と勇気に期待したい。


総統選で再燃する台湾の国号論
【産経新聞:平成23(2011)年10月25日「日々是世界 国際情勢分析」】

 来年1月に総統選が迫る台湾で、「中華民国」という国号をめぐる論争が再燃した。事実
上、二大政党による一騎打ちの構図となる中、歴史観だけでなく対中関係に直結する国号
問題が改めて政治争点化し、両陣営の応酬に発展している。

 きっかけは、最大野党、民主進歩党(民進党)の総統選候補、蔡英文主席が8日の演説で
「中華民国は台湾であり、台湾は中華民国だ」と発言したことだ。民進党は台湾独立、反
中志向の支持者を基盤に発展してきており、台湾が正式な国号とする「中華民国」への反
感は根強い。陳水扁政権時には「中華」や「中国」を冠する公営企業名などを「台湾」に
変更する「正名運動」をしたこともある。蔡主席の発言は、従来の民進党の主張を大きく
変更するもので、翌朝の1面トップで扱う台湾紙もあった。

 発言の狙いを、早稲田大の若林正丈教授(台湾現代史)は「中台関係で現状維持志向が
強い中間層の有権者に軸足を移し、争点を内政問題に集中させるためではないか」と指摘。
前回総統選の候補者が独立色の強い陳政権の印象を払拭できずに惨敗したこともあり、こ
れ以上「中華民国」論を争点にしないことが真の狙いだったと分析する。

 だが、蔡主席の発言に独立派の有力者や識者らは「民主化運動の先人は中華民国を認め
るために命を捨てたのか」などと反発。再選を目指す馬英九総統の中国国民党の報道官は9
日、「立場を修正するなら、独立派の主張に反駁(はんばく)せよ」と蔡主席を挑発した。

 また、国民党寄りとされる台湾紙、聯合報は12日の社説で「蔡英文の中華民国論は民進
党(の主張)と整合性がなく、社会を分裂させ、両岸関係を困難にする。民衆をだまして
権力を奪う手法だ」と指摘した。中国の国務院台湾事務弁公室は楊毅報道官が同日の記者
会見で、「殻をかぶった台湾独立の主張だ」と批判。議論は台湾だけでなく、中国側にも
波及した。

 一方、蔡主席は9日、民主化や総統直接選を経ることで「中華民国は台湾の土地、住民と
一体化し、台湾の政府となった」と真意を説明。10日には、馬総統が双十節式典で「大陸
当局は中華民国が現在進行形で存在する事実を正視すべきだ」と中国側に呼びかけたのに
対し、蔡氏が「馬総統こそ中華民国が台湾であることを正視してほしい」と批判した。民
進党寄りとされる自由時報は12日の社説で、馬総統が双十節で「中華民国はわれわれの国
家であり、台湾は家園(故郷)だ」としたことを、「法律上も事実上も台湾住民をだまし
ており、最終的な目的は台湾を中国に併呑(へいどん)させることだ」と酷評し、間接的
に蔡主席を援護した。

 両陣営の過熱する論争に、国民党寄りの中国時報は13日の社説で、「選挙には競争が必
要だが、国家には団結が必要だ。意図的に『中華民国』と『台湾』の差異を作り出さない
でほしい」と冷静な対応を求めた。



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