台湾新幹線は欧州仕様の発想を排して日本式への転換を望む

開通と開業は違う

 いろいろな事情で遅れていた台湾新幹線の試運転が、去る1月27日から、約3
ヵ月遅れで始まった。たいへん喜ばしいことで、今後の進展を見守りたい。
 このことは1月28日(金)付の新聞各紙でも大きく報道された。中でも意外な
ことに、朝日新聞の報道(「時時刻刻」欄)は先に受注した欧州連合との関連で
かなり突っ込んだ内容が記載されていて、たいへん興味深く読んだ。
 そもそも「新幹線」とは何か。
 単に200?/h以上のスピードで走るだけでは「新幹線」ではない。当然「安全」
「正確」が重要な要素であることは言うまでもないが、それを確保すべく、「全
線専用線であること」「踏切がないこと」「複線で、一方通行であること」「同
一性能の車両であること」などを満たしてはじめて「新幹線」なのである。
 当初、台湾新幹線はフランスを中心とした欧州連合が受注していたため、基本
ベースで欧州仕様が色濃く残っている。そのため、日本連合に切り替え後も欧州
の技術者が顧問のような形で残り、今でも影響力を持っている。
 朝日新聞ではこの問題点を、「運行方式」「通信システム」「軌道(ポイント
の素材)」「運転台の表示灯」の4点あげている。ついでに私が聞いた話で、「
使用する塗料(欧州仕様の方が耐火という観点で厳しい)」もあげておく。
 このうち、「通信システム」は私が不勉強につき、パス。「軌道」については
昨年2月、月刊「VOICE」誌で当事者である葛西社長(当時)が述べている
ので省略。
 そこで、残る「運転台の表示灯(欧州仕様では表示灯は15個、新幹線は8個)」
と、「塗料」であるが、これは踏切対策と火災発生時対応である。即ち、「踏切
で事故の発生する可能性を下げる」「万一事故で火災が発生しても、燃えにくい」
ことを目指している。
 待たれよ、欧州ではTGVにしてもICEにしても踏切のある在来線(欧州は
在来線も高速鉄道もレールの幅が同じ)を200?/h以上で走行するから「踏切対
策と火災発生時対応」をしなければという発想になるのである。しかし、これは
新幹線なのである。専用線で踏切のない新幹線方式では考慮する必要はほとんど
ないといってよい。
 しかし最大の問題は、やはり「運行方式」であろう。
 日本の新幹線は常に複線運行で左側通行であるが、欧州仕様は単線相互通行を
考慮している。どういうことかというと、複線であっても、点検とかレールの交
換の際、片方で作業を行い、もう片方で単線運転をする、というものである。こ
の考えは、以下の二つの点で、新幹線にはなじまない。
 ひとつは「徹底した危険の排除」である。なんのために「踏切を排し」て「専
用線」にしたのか。もちろん、単線でも徹底した防止システムはあろう。しかし
、停電とか運転士の突然のアクシデントが重なったらどうなるのか。確かに万分
の一の確率かもしれない。しかし、これすらも排除するのが「新幹線」の思想で
ある。
 もうひとつは、効率である。
 新幹線の駅間距離は平均約30キロメートル。新幹線でも10分近くかかる。とい
うことは、単線相互通行の場合、A駅を1時に発車した列車は、次のB駅に着く
のは1時10分である。反対に、B駅からA駅に向かう列車は1時10分に発車する
が、当然A駅に着くのは1時20分である。だから、次にA駅からB駅に向かう列
車が発車できるのは1時20分になる。
 何をいいたいかと言うと、単線相互通行の場合は「20分以上の間隔でしか運行
できない」ことを指摘したいのである。
 では、台湾新幹線は何分間隔で運行するのか。1時間に6〜8本を想定してい
る。そうすると、単線相互通行の場合は半分以下しか運行できないことになるの
である。1時間に2〜3本しか運行しないフランスならいざ知らず、人口密集地
である台湾にはなじまない。
 しかも、このために特別な安全システムを講じる必要が出てくるだけでなく、
設置する信号は倍必要になる。なぜなら、反対向きにも設置しなければならない
からである。
 これらの問題をかかえたまま、開通へ突っ走るのは大変危険と感じる。台湾高
鉄顧問で自らも新幹線設計に携った島隆氏(新幹線の父・島秀雄の次男)も「日
欧混在という難しい条件で進む建設工事の『拙速』を戒めている」(1月28日付
「朝日新聞」時時刻刻)という。
 結論をいえば、欧州仕様の「単線相互通行」は問題外、早急に廃棄すべきなの
である。

 この機会にもう一点、申し上げたい。
 「10月末開業」は非常識この上ない。「10月末開通」ではないのか。
 これは日本のマスコミが台湾の「通車」を「開業」と誤訳しているのか、台湾
高鉄が「営業開始」と言っているのか定かでないが(日経新聞は「開通」、読売
新聞や朝日新聞は「開業」と記載)、いったい全体、全線が完成するのはいつの
ことか。設備が全部完成し、物理的に全線で走れるようになるのが「開通」、そ
の後全線で、営業ダイヤを想定した試運転が始まり、トラブルなどを想定した訓
練も行い、全てのチェック終了後、お客様を乗せて運行するのが「開業」である
。これを混同してしまうと、とんでもない勘違いとなる。
 今なら間に合う。「営業運転を開始するのは『X年X月』の見込み」と発表す
ればよいのである。
 日本と台湾の共栄を望み、日本国と日本の新幹線をこよなく誇りと思う者とし
て、このプロジェクトの成功を確信し、祈念している。

            日本李登輝友の会事務局次長・日台鉄路愛好会
                              片木 裕一


台湾版新幹線が試運転…日本のシステム海外で初採用
【読売新聞 1月28日】

 【台南(台湾南部)=石井利尚】日本の新幹線システムが海外で初めて採用さ
れた台湾版新幹線「台湾高速鉄道」の試運転が27日、台湾南部の台南―高雄間(
約60キロ・メートル)で行われた。
 新幹線は、台湾の南北の2大都市、台北―高雄間(345キロ・メートル)を最高
時速300キロ、最短1時間半で結ぶ。事業会社の「台湾高速鉄路(台湾高鉄)」は
、今年10月末の開業を目指している。
 白地に黒とオレンジのラインが入った流線型の車両「700T型」は、東海道・山
陽新幹線「のぞみ」の「700系」をベースに川崎重工業などが開発した。この日の
試運転は、時速約30キロの低速で行われ、無事終了したが、今後、少しずつ速度
を上げ、6月末には時速300キロで試験走行する予定だ。
 総事業費は約1兆6000億円。車両や信号など中核システムは三菱重工、東芝な
どの日本企業連合が受注。台南県にほぼ完成した新幹線駅で行われた記念式典に
は、葉菊蘭・行政院副院長(副首相に相当)や日本の大手企業首脳らが参加した
。林陵三・交通部長(交通相)は、「試運転は、日本の新幹線車両が初めて海外
で走る歴史的なできごとだ」と述べた。ただ、試運転開始は、昨年秋の予定だっ
たが、送電の遅れなどから先送りとなり、台湾では10月末の開業を危ぶむ見方が
強まっている。



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