台湾・統一地方選挙 勝敗の原因は奈辺に  傳田 晴久

伝田です。いかがお過ごしでしょうか。

 台湾通信No.91「勝敗の原因は奈辺に」を作成いたしましたので、お送りいたします。前号をお
送りしてまだ10日しかたっておりませんが、帰国の前に仕上げたいと考え、作成いたしました。

 台湾在住の方々はすでにテレビの報道、新聞でご存じのことが多いと思いますが、日本在住の方
はご存じない方もおられると思い、いろいろ情報を集めてみましたのでご覧ください。

 東京は大分寒いらしく、インフルエンザが流行し始めたとか。台湾もかなり寒くなり始めまし
た。

 どうぞ皆様、風邪など召されませぬように。

                                       傳田 晴久

                  ◇   ◇   ◇

勝敗の原因は奈辺に
【台湾通信(第91回):2014年12月11日】

◆はじめに

 九合一選挙が終わって一週間がたち、劇的結果の騒ぎも一段落し、国民党の責任問題が、紙面を
にぎわせています。友人から驚くべき結果だが、国民党がかくもひどい負け方をした原因は何なの
か、いや、お前の見解でなく、台湾ではみんながどう思っているのかが知りたい、それをまとめて
報告しろとの趣旨のメールを何通か頂戴いたしました。

 今回の台湾通信はそれにお答えできるかどうかわかりませんが、集めた情報をいくつかご紹介し
たいと思います。

◆「ひまわり學運」から「九合一選挙」まで

 今回の選挙結果をレビューする場合、矢張り3〜4月に台北を中心に行われた「ひまわり學運」を
取り上げない訳にはいきません。

 馬英九政府が進めようとしていた大陸との「海峡両岸サービス貿易協定」に反対する学生が立法
院を占拠しました。さらに、一部の学生たちが行政院を占拠したのに対して、行政院長の江宜樺が
警察力を動員して排除し、多くのけが人を出しました。一方、立法院の方は学生の声に王金平・立
法院長が耳を貸し、4月初めに立法院を撤退しました。

 この警察力による排除と学生の声に耳を傾けることの差が大きく、学生たちのひまわり學運は整
然と撤退し、賞賛を浴びました。

 そして9月18日、スコットランド独立公投が行われ、独立賛成派は45%対55%で敗れましたが、
高い投票率(84.59%)と共に整然とした公投に世界は成熟した民主主義を見、拍手を送りまし
た。

 スコットランドの独立公投と前後して、香港で2017年に予定されている香港特別行政区長官を選
ぶ選挙を巡るいわゆる学生たちによる「雨傘革命」の騒動が持ち上がりました。

 学生が求めているのは直接普通選挙であって、それに対して、中国の全国人民代表大会常務委員
会はとんでもない「普通選挙」方式を決定しました。候補者を「指名委員会」が中国側の意向に
合った者を2、3名選び、有権者に一人一票の投票をさせるというものです。

 台湾でもこの方式を「仮普通選挙」と呼んでいます。「仮」というのはニセという意味です。反
対する学生を催涙ガスなどで排除する姿がみられます。これが中国が提案する「一国両制」の真の
姿のようです。

◆彼らは多くのことを知った

 11月下旬、香港で当局による学生排除が行われている頃、29日に台湾では「九合一選挙」投票が
行われたわけです。その前後、台湾のメデイアには色々な見方、意見がありました。

・米国議会上院外交委員会での証言

 2014年12月3日、米国議会上院外交委員会で香港問題についての公聴会が行われたが、中国が台
湾に提案している「一国両制」を台湾人はそれらを拒否しており、共和党上院議員マーク・ルビオ
氏が、「彼ら(台湾人)はさらに多くのことを理解するようになった」と述べた、と報道されてい
る。どのようなことを理解するようになったのでしょうか。

・李登輝元総統:民主的手続き

 2014年9月20日の「自由時報」は李登輝元総統がスコットランド独立公投の結果について次のよ
うに語ったと報じている。「スコットランド独立公投の精神、すなわち多くの人の意見を聞いて問
題を処理する精神は学ぶに値する。重要な問題は、少数者が決めるのではなく、民主的で、公平な
手続きを経て決めることが最も重要なことである」

・自由時報社説:スコットランド独立公投は真の公投、香港のは偽普通選挙

 2014年9月17日の自由時報社説は、「スコットランドのは真の公投であり、香港のは偽普通選挙
である。独立公投は平和で文明的な方法で進められ、成熟した民主的優越性を感じざるを得ない。
スコットランドもイングランドも両者紳士的態度であった。妙なハードル(註:台湾がやろうとし
ている投票率制限など)を設けず、簡単な多数決が良い」と主張している。

・李筱峰教授:軍事戒厳時代と民主化以降の時代

 私が尊敬する李筱峰教授(国立台北教育大学文化研究所)は老K「二必」論を自由時報の自由広
場に投稿され(2014年11月23日)、老Kすなわち中国国民党には「腐敗」と「売国」の二つの必然
があると主張されています。それは成員の入党動機と彼らの人生観を分析すればわかること:動機
は「権、錢、名」の為、すなわち利益のためであり、国民党は長期間にわたり教育、メデイア、司
法、軍隊、情報治安組織などの資源をコントロールしており、あれほどの利益集団を築き、当然投
機分子を寄せ集めている。中国国民党創設期の革命の志士たちは一銭の資源もなしに、「天下を収
めることを自分の務めとする」という高い志を以って「街中の狼ども」による腐敗政治を改めよう
とした。しかし、現在の国民党は国家の膨大な資源を私し、官商結託して「街中の狼ども」になっ
ている。過去の国民党は「反共」を大きな声で叫んでいたが、現在の国民党は一変して「媚共」で
ある。北京は武力を使う必要はなく、投機に夢中になっている政客を籠絡すればよく、国民党は台
湾を売り渡さないはずがない。

・大紀元:●中事件 → 台湾は第二の香港

 2014年11月30日の大紀元は、「多くの人々は香港の『●中(セントラル占拠)事件』が台湾人を
目覚めさせ、台湾を第2の香港にしたくない。台湾人は中共から離れたいと願っている」と伝え、
その原因は北京にあり、と報道している。

●=人偏に占

・自由時報:ひまわり學運には王金平が存在、香港にはいない……耳を傾ける

 2014年10月29日自由時報は「その記者は香港で、座り込みを続けるサラリーマンに台湾のひまわ
り學運が矛を収めた仕掛けは何かと問われ、『香港には王金平がいない』と答えたという。あの
時、王金平立法院長は与野党の立法委員多数を引き連れて、立法院内に立てこもる学生を見舞い、
要求に耳を傾けた」と伝えている。

・自由談:太陽花學運開花結果

 自由時報総編集の胡文輝さんは「太陽花學運の流血・涙・汗を流し、両岸の政商権貴の共犯集団
が築いた黒い壁に勇敢にぶち当たらなければ国民党の全面的敗北はなかった。人民は投票を以って
馬英九に手痛い教訓を与え、国民党を唾棄し、馬英九に不信任を突きつけた。今回の選挙は太陽花
學運の開花結果であり、この成果を受け継ぐ政党、政治家はひまわり革命が台湾に陽光を齎し、希
望に満ちた未来を齎すことを夢忘れることなかれ」と書いている。

・若者たちのめざめ

 「自己的家郷自己救!」(自分たちのふるさとは自分たちで救おう!)、これは台北駅前に設け
られた帰郷バス乗り場前に掲げられた看板である。右の写真は投票日(29日)の自由時報紙の第1
面の写真であり、公民組合青年ボランティア団体と台湾大学、政治大学、師範大学などの学生団体
がインターネットで募集し、故郷を離れて就学し、勤労している青年たちにチャーターバスで帰郷
し投票するよう呼びかけている。

 台湾の投票は戸籍のあるところでないと投票できないので、大都市に出向いている若者は、高い
交通費を支払わねば投票できない。そこで有志が集まってバスをチャーターしたのである。

・候補者たちの心意気

 国民党の絶対的安全パイであった朱立倫候補を最後まで追いつめて、一時は国民党全敗かと思わ
せた民進党の游錫●候補は、昨年出馬時、「五府千歳」(翻訳が難しいのですが「役立たず」とで
も言いましょうか)と嘲られたが、朱立倫に白兵戦を挑み、「水牛精神」を発揮して戦ったとい
う。この「水牛」は台湾を象徴する言葉、黙々と農作業に従事し人々の役に立つということで、
中々意味深な逸話です。

 終盤「権貴」という言葉がよく使われました。これは「権勢貴族」の略だそうで、権力を手にし
た金持ちの意味です。今回の選挙には大金持ちと言われる連戦や呉伯雄などの二世候補が立候補
し、落選しました。彼らは「靠爸(脛齧り)」、「靠錢(錢頼み)」とからかわれ、ある人はこれ
らは決して「萬霊丹(万能薬)」ではなかったと揶揄しています。

●=方方の下に土

◆次の戦場は(5席立委補選)

 九合一選挙は、馬英九政権が進める中国接近政策とは異なる台湾人民の民意を明確に表す結果と
なったが、これは本物だろうか。食の安全が脅かされ、目に余る悪徳官吏の横行、民意を無視する
政権党に対する天註であろうが、野党、特に民進党が絶対的に支持されたわけではあるまい。

 ある方は、九合一選挙は地方選挙に過ぎず、最も肝心な問題は立法院であり、次は立法院を「大
掃除」する番だと述べている。

 無党派の台頭は分かるが、無党派の首長だけで果たして政治は回るのだろうか。与党であれ、野
党であれ、しっかりした政党の存在は否定できまい。

 今回の九合一選挙では5人の立法委員(国民党2人、民進党3人)が辞任して首長候補に立候補
し、5人とも当選したので、立法委員5人の補選が必要である。新聞は「5人の立法委員補選、藍緑
延長戦」が来年(2015年)2月7日に行われると伝えている。

 選挙前の立法委員は与党65名いたが、2人マイナスで現在63人、野党(無所属1名含めて)は48人
マイナス3人で45人である。もし、補選で5人とも野党が取れば63対50となる。まだ与党絶対優位で
あるが、2016年の国選(総統と立法委員の選挙)に向けて大きな弾みとなろう。

◆その後は?

 今度の選挙結果は、李筱峰教授が仰る「投機に夢中になっている政客を籠絡する」つもりだった
北京の思惑が外れたことを意味しないか。とすると、北京はもう一つの可能性「北京は武力を使う
必要」を意識しないか。

 注目すべきは次の選挙、立法院委員補選に今回の九合一選挙の結果がそのまま反映するとすれ
ば、台湾の民意はさらに明確になっていると言える。

◆おわりに

 「祇園?舎の鐘の聲」が聞こえてまいりませんか。「盛者必衰のことはり」、すなわち「おごれ
る人も久しからず」、「たけき者も遂にはほろびぬ」。そは、「遠く異朝をとぶらう」までもな
く、ここ台湾において「民間の愁る所をしらざりしかば、久しからずして、亡じ」たり。

 いやいやまだ気を抜いてはいけません。隣の国は虎視眈々と狙っていますし、中国国民党もまだ
完全に亡びた訳ではありません。今回の九合一選挙の最大の成果は打倒国民党、無党派台頭もさる
ことながら、若者たちの政治参加ではないでしょうか。


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・中嶋嶺雄先生講演録「台湾の将来と日本」(2003年6月1日)
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