与那国島を第二の対馬にするな[中国軍事専門家・平松 茂雄]

沖縄県八重山郡与那国町、TVドラマ「Dr.コトー診療所」のロケ地としても知られる
与那国島(よなぐにじま)は、那覇から飛行機で1時間半のところにある、人口1600人ほ
どの日本最西端の島である。台湾に一番近い国境の島だ。

 この与那国島について本誌では何度も取り上げている。昭和57年(1982年)10月、台湾
の花蓮市に呼びかけて姉妹都市を提携しているからだ。

 昨年5月29日には、花蓮市内に「与那国町在花蓮市連絡事務所」を開設した。日本の市
町村レベルの自治体がこのような海外連絡事務所を開設するのは、全国で初めてのことだ
った。

 10月4日には、花蓮市との「姉妹都市締結25周年」を記念して、町民ら約130人を乗せた
初のチャーター便を飛ばしている。その際、与那国空港と花蓮国際空港を拠点とする空の
交通ネット構築の推進などが盛り込んだ与那国島・花蓮市「両市町国境交流強化に関する
協議書2007」を締結している。

 本年7月4日には、今度は花蓮市から蔡啓塔・花蓮市長を団長とする市民訪問団約70人が
乗り込んだ初のチャーター便が運航した。昨年訪問のお返しだ。

 先般も、東海大海洋学部の山田吉彦准教授やユーラシア21研究所の吹浦忠正理事長など
7人をパネリストに、11月9日に開かれた「与那国島・海洋タウンミーティング2008〜海と
ともに切り拓く、島と日本の豊かな未来」についてお伝えした。

 実は、この与那国島の上空には台湾との防空識別圏を区切るラインが通っている。日本
の領土であるにもかかわらず、日本と台湾の空の国境線が島を分断して通っている。これ
は、台湾問題や安全保障問題に携わっている人々の間ではよく知られている事実であるが、
一般にはほとんど知られていない。

 中国の台湾併呑に警鐘を鳴らし続けている平松茂雄氏が昨日の産経新聞「正論」欄で、「与那国島を第二の対馬にするな」と題し、どうしてこうなってしまったのか、その背景
や与那国島の人々の声を紹介している。

 台湾が中国に呑みこまれてしまったら、空の国境線が通る与那国島も併呑される危険性
がある。だが、与那国町は花蓮市と姉妹都市提携などを通じた交流を盛んにすることで、
自力で日本の安全保障に貢献しているという現実が浮き彫りになる。

                    (メルマガ「日台共栄」編集長 柚原 正敬)


与那国島を第二の対馬にするな
【12月4日 産経新聞「正論」】

■ようやく政治家が動く

 韓国との国境の島・対馬が過疎化と小泉改革による公共事業削減、石油高騰などの影響
で深刻な経済困難に陥り、そのスキをつくように、韓国資本が島の土地を買い占めている。
地理的に近いことから、韓国の観光客がドッと入るようになり、その数は島民の3倍にも
達する。観光地にはハングルがあふれ、さながら韓国国内のような景観を呈している。し
かも彼らは、竹島ばかりか対馬までが「韓国の領土」と主張しているというのだ。

 本紙は3回にわたる特別企画「対馬が危ない!!」で島の現状を報じた。すると、にわ
かに自民党の真・保守政策研究会と超党派の国会議員による「日本の領土を守るため行動
する議員連盟」が動き出した。近く対馬を現地視察し、「防人の島新法制定の推進議員連盟」を結成して、法整備に向けて具体的に検討することになった。

 わが国周辺海域が隣国からの「脅威」にさらされている。その現実を直視せよと早くか
ら論じてきた筆者には「いままで何をしていたのか」と問いたい思いである。ともあれ政
治家がこの問題に関心を向けたことを評価したい。

 しかし筆者が恐れるのは、関心が対馬だけに局限化されることだ。そもそもわが国には、
特定の島嶼(とうしょ)に関する振興策はあっても、離島およびその周辺海域の防衛・振
興を含めたトータルな施策がない。対馬だけでなく、約6800に及ぶ離島全体、特に「最前
線」の島、海、空を重点的に防衛する施策が、今こそ必要なのではないか。

■返還前からの特殊事情

 なかでも筆者が竹島や対馬の二の舞いになっては困ると危惧(きぐ)しているのが、日
本の最西端の島・与那国島だ。この島は台湾までわずかに1100キロである(ちなみに石
垣島までは120キロ)。県都の那覇までは400キロも離れている。この島には、他の国境地
域の島にはない特異な問題がある。それは、わが国の領土であるにもかかわらず、島の上
空に日本と台湾との防空識別圏を区切るラインが通っていることである。

 防空識別圏とは、国の防空上の必要から設定された空域である。国際法によるものでは
ない。だが、異国の航空機が領海上空を侵犯して領土上空に到達するまで、旅客機でも1
分程度、超音速軍用機であれば数十秒である。領空侵犯されて対応するのでは手遅れだ。
そこで領空の外周の空域に防空識別圏を設け、事前に届け出のない航空機が防空識別圏に
進入した時点で、空軍機により強制退去させる措置をとっている。

 スクランブルといわれ、一般には航空機が防空識別圏に進入する恐れがある時点で発動
される。それでないと、軍用機の場合には攻撃されてしまう恐れがあるからだ。

 ところが与那国島では、台湾との間の防空識別圏のラインが島の上空に引かれているの
だ。厳密に言えば、島の東側3分の1は日本、西側3分の2は台湾である。沖縄占領中に
米軍が便宜的に東経123度で線引きしたのを、返還の際、日本政府がそのまま引き継いで
しまったからだ。

 当時としては、台湾(中華民国)が友好国だからとの単純な理由からであろうか。しか
し、日本政府、防衛庁・自衛隊が自国の防衛にいかに無責任であるかは、現在でも自衛隊
の航空機が台湾との防空識別圏に近づくことを意図的に避けていることにはっきり表れて
いる。

■自衛隊ですら関心なく

 筆者は中国の東シナ海石油開発を取材する中で初めてこの事実を知り、航空自衛隊に問
い合わせた。すると「何も問題ありません。あなたは何を心配しているのですか」と相手
にしてもらえなかったことがある。

 台湾はれっきとした主権のもとに存在している。わが国の領土である尖閣諸島の領有権
を主張して譲らないばかりか、沖縄返還時には、台湾に無断で沖縄を日本に渡したと米国
にクレームをつけたことがある。さらにいえば、中国は台湾を自国の領土と主張している。
もし台湾が中国に統一されたら、どういう事態になるか、防衛関係者ですら考えたことが
ないのだろうか。

 馬英九氏が総統に就任し、中国は経済関係の緊密化による台湾との「平和統一」を意図
している。与那国島も、対馬と同じように、過疎化と経済的低迷に苦しみ、台湾との経済
交流、観光客の受け入れに期待している。

 筆者は先ごろ、与那国島に初めて行く機会を得て、町議会、防衛協会の方々と話をした。
島の人たちは、国境の島に対する国家の特別措置と自衛隊の駐屯を強く希望していた。与
那国島が「第二の対馬」にならないうちに、手を打たなければならない。

                               (ひらまつ しげお)