なぜ台湾の遊漁船は違法と知りつつ尖閣諸島までお客を連れて行ったのか

6月10日未明に起こった尖閣諸島・魚釣島の日本領海内における台湾の遊漁船と海上
保安庁の巡視船の接触沈没事故はすでに決着したかのようにみえる。

 だが、今になって大きな疑問が残っていることに気づく。

 それは、なぜ台湾の遊漁船「聯合号」は台湾の海事法「娯楽漁業管理弁法」に違反し
てまで、釣り人を魚釣島まで連れて行ったのか、だ。

 台湾の「娯楽漁業管理弁法」では、娯楽漁業の遊漁船活動が認められている地区は、
台湾本島および澎湖島の周辺24海里((1海里=1852m。約44km)以内および彭佳嶼、
緑島、蘭嶼の周辺12海里以内と規定している。

 だが、この何鴻義という船長は違法と知りながら、13名のお客をわざわざ魚釣島の南
9kmまで連れて行ったのだ。お客を危険な目に遭わせるかもしれないことを承知で、
違法活動を行ったのである。

 また、衝突事故が起こるや、遊漁船「聯合号」の違法活動は不問に付され、台湾マス
コミでは「日本の軍艦が台湾の釣り船に体当たりをした」と報道され、反日家として知
られる外省人の周錫[王韋]・台北県長は即座に反日団体メンバーら約60人と交流協会
台北事務所前で日本政府に謝罪と賠償を求め、乗組員の家族を劉兆玄行政院長(首相)
に引き合わせているのだ。乗組員が撮影したという事故当時のビデオも、記者会見で公
開された。何とも手際が良すぎるのである。

 遊漁船「聯合号」の何鴻義船長はバリバリの親民党支持者だとも言われており、冷静
にビデオを撮影していた乗組員2名をはじめ、13名の釣り人も果して本当にお客さんだっ
たのかという疑問も捨てきれない。

 6月18日、王進旺・海岸巡防署長は、遊漁船「聯合号」が娯楽漁業管理弁法に違反し
たとして、規定により3万元〜15万元(約110万円〜54万円)の罰金刑が課せられる見込
みを指摘した。だが、いかにも後付けとの印象は免れ難い。

 尖閣諸島は日本領だとする在米評論家のアンディ・チャン氏も、当初から「国際船長
が何者かに唆されて尖閣諸島領海に入り込んだ可能性も排除できない」「今回の事件を
起した漁船の行動には、中国が後ろ盾となっていた可能性も見逃せない」と指摘してい
る。

 いずれ「聯合号」の何鴻義船長の活動来歴も分かるだろう。なぜ違法を承知で尖閣諸
島まで行ったのかが明らかにされない限り、この衝突事故は仕組まれた疑いを払拭でき
ない。

 今回の問題点を改めて振り返るため、アンディ・チャン氏がほぼ事件が収束した6月22
日に「姑息な政府の尖閣問題対応」と題して配信した「国際ニュース解説」をご紹介し
たい。

                (メールマガジン「日台共栄」編集長 柚原 正敬)


【6月22日 Andyの国際ニュース解説】姑息な政府の尖閣問題対応

 尖閣諸島が日本の領土であることは国際法上で明らかである。日本政府が諸関係国に
領海侵入を厳禁すると通達すべきである。日本は主権を持っていながら自国領土の保護
を明言しない。姑息な態度が相手に横暴な態度をとらせる結果となるのだ。

 尖閣諸島でまた事件が発生した。私は尖閣諸島の領有権について前にも何度も書いて
きたが、政府が領有権問題で姑息な態度を取るから事件が二度三度と起きるのである。

 尖閣諸島が日本の領土であることは国際法上で明らかである。自国の領海内に侵入し
てきた船舶は拿捕、追放、撃沈しても構わないはずだ。このような事件が再び発生しな
いようにするには、日本政府が諸関係国に領海侵入を厳禁すると通達すべきである。

 台湾人の9割が尖閣諸島は台湾の領土と思っている。間違ったメディアの宣伝もある
が、狡猾な中国人のやり口で、勝手な主張を繰り返していれば何らかの利得があると人
民に思い込ませ、間違った愛国心を煽るからだ。

 台湾政府が意図的に中国を後ろ盾にして尖閣問題を複雑にしているが、違法侵入で損
害を蒙るのは自業自得であることを明確に知らしめるべきだ。台湾政府は国民を保護す
る義務がある。今後の行動を慎むよう、日本の外交部が台湾政府に通達するのが外交部
の使命といえる。

●国際法上から見た尖閣諸島の帰属

 尖閣諸島の帰属について簡単に書くと、尖閣諸島の帰属について歴史的に以下のよう
な発展があった。

1.1945年以前の古い尖閣諸島の帰属については既に明らかな記述がある。
2.尖閣諸島の帰属はカイロ公報に入っていない。ポツダム宣言にも記入がない。筆者
  が前に書いたように、カイロ会議で討議されたというエピソードはある。
3.サンフランシスコ条約で日本は台湾澎湖の権原を「放棄」したが、尖閣諸島につい
  て権限を放棄した記述はない。
4.1953年12月25日、琉球諸島を占領していた米軍占領当局は「民政府広告大27号
  (Civil Administration Proclamation No.27)」で尖閣諸島を琉球の統治範囲に
  記述した。
5.このため1972年の沖縄返還で米国政府が沖縄諸島を日本政府に返還した際に、尖閣
  諸島は沖縄領土の範囲内に明記した。
6.尖閣諸島の領有権について蒋介石政権が台湾の古い史料を使って領有権を主張しだ
  したのは、1969年ごろ、この地域に海底石油があるのがわかってからである。
7.1970年9月9日に日米間で沖縄返還の協議が行われ、台湾では始めて尖閣諸島の抗議
  運動、いわゆる「保釣運動」が起きた。いまでも台湾人や蒋系中国人の殆どが尖閣
  諸島は台湾の領土であると信じて疑わない。しかし、沖縄領に反対する法的証拠は
  ない。
8.「保釣運動」でアメリカのボストンに留学していた国民党のスパイ、馬英九が「保
  釣論文」を書いたので、これが馬英九の栄達の原因となった。
9.中華民国の歴代総統のうち、李登輝総統は尖閣諸島が日本の領土であると認めてい
  た。陳水扁総統は領土問題を棚上げして漁業権の討論を日本政府と交渉していた。
  そして馬英九のなると再び国民を使って尖閣問題を起したと思われる。

●台湾の海事法について

 台湾(中華民国)の遊漁船は「娯楽漁業管理法」で漁業、観光の航海範囲を制限され
ており、台湾本島、及び所属の小島などの周辺12海里以内のみで観光船の操業を許可さ
れている。遠洋漁業はこの法律に制限されていない。

 つまりこのたびの事件で、遠く離れた尖閣諸島まで遊漁船が航行して日本の領海内に
入り込んだ事件は、船長が何者かに唆されて尖閣諸島領海に入り込んだ可能性も排除で
きない。

 但し、今回のような明文化された漁業管理法に違反する操作を行った場合、事故が起
きれば保険金は貰えない。台湾当局が繰り返し日本側に謝罪と賠償を要求する理由もこ
こにあるのではないか。

●漁夫の利を占める中国の外交政策

 中国は尖閣沖で漁船衝突が発生したあと、すぐに尖閣諸島の領有権の声明と日本政府
に対する抗議を発表した。つまり台湾の漁船が起した問題でもあたかも「自国の国民が
損害を蒙った」かのように見せかけ、尖閣諸島の領土権を主張しているのである。

 今回の事件を起した漁船の行動には、中国が後ろ盾となっていた可能性も見逃せない。
事件が起きて日本と台湾当局が交渉に入れば最も有利になるのが中国当局である。中国
の尖閣諸島の領土に対する主張はすべて「台湾は中国の領土、尖閣は台湾の領土だから
中国の領土」という三段跳び論法しか持っていないからである。

 中国は既に尖閣諸島付近で石油の掘削と採油を始めているので、最近になって中国接
近を開始した馬英九政権を使って領海内で問題を起せば日本と中国の石油採掘交渉で有
利な立場を取れると踏んでいるのだ。

●中華民国は尖閣諸島が日本領と承認していた

 尖閣の領有権を巡っていろいろな歴史関係、国際法関係などの議論がなされているが、
尖閣諸島の領有権が日本にあることは中華民国政府が古い昔から承認していたという一
級史料がある。

 史料は1996年9月23日の産経新聞に報道された、「大正8年(1919年)尖閣列島に漂着し
た中国福建省の31名の漁民を救助した石垣島漁民に対し、中華民国駐長崎領事・馮冕が
感謝状を贈呈した」という記事に詳しく書いてある。

 この記事で注目されるのは、中国人が尖閣沖で遭難し、石垣島の漁民に救助されたの
ち、中華民国政府の長崎領事が大正9年(1920年)に贈呈した感謝状に「日本帝国八重
山郡尖閣列島」と明記してあることだ。

 報道によると、感謝状は当時の豊川石垣村長・・豊川善佐(善次)、助役・玉代勢孫伴、
通訳・松葉ロブナストなど4名に贈呈されたと報道してあったが、その後すぐ5名に感謝
状が贈呈されたことがわかった。

 第5の感謝状は、西表島の「波の上炭鉱(林本源経営)」に勤務していた廖徳聡氏に
贈呈したものである。

 廖徳聡氏は私の尊敬する先輩、廖継思氏のご父君で、感謝状の文面には 「日本帝国
八重山郡石垣村廖徳聡君熱心救護得生還故国……」と書いてあり、石垣村の助役、玉代
勢氏への感謝状と同じ文面であるが、宛名の所は各々の名前が書かれ、「玉代勢君熱心
救護……」となっている。廖継思さんは現在85歳、台北市に住んでいる。

 廖継思さんから送ってきた史料のうち、廖徳聡氏の個人履歴書には「大正9年5月20日、
福建省恵安県漁民、鄭合順等31人漂着シタルヲ救助セシヲ以テ、新中華民国駐長崎領事
馮冕ヨリ感謝状ヲ受ク」と書いた記述がある。これは産経新聞、石垣島の八重山毎日新
聞の記述よりも少し詳しい。

●尖閣諸島で事件の再発を防ぐには

 尖閣諸島の領有権を巡って台湾や中国が勝手な主張を始めたのは、69年ごろ海底石油
の開発が可能になった時期からである。筆者は当時、アメリカの石油探鉱会社に勤めて
いたので、台湾に派遣されてこの地区の開発や主張についていろいろ見聞したこともあ
った。

 台湾側、中国側の主張には法的根拠がない。日本の主張には沖縄返還の際に返還した
領土範囲を明文化して記述してある。つまり、国際法上の領有権は沖縄に所属している
領土である。

 たとえ領土問題が未解決だとしても、北方領土で日本の漁船がロシアに拿捕されれば
船は没収され、船長は逮捕される。日本の領土内に侵入した漁船が沈没しても賠償する
必要があるのか、甚だ疑問に思う。

 日本政府は尖閣諸島の権限について、領海内に侵入した漁船は拿捕することを明確に
関連諸国に通達し、このような事件が以後起こらないようにすべきである。

 中国は台湾の権限をもっていないし、尖閣については論外だが、理由もなく勝手に主
張を繰り返している。日本は主権を持っていながら自国領土の保護を明言しない。姑息
な態度が相手に横暴な態度をとらせる結果となるのだ。

 中国や中華民国は国民の安全を保護するような国ではない。逆に国民を教唆して事件
を起させ、結果として「労民傷財」を招く。日本政府が如何なる領海への侵入も許さぬ
と声明を出すのが将来のトラブルを防止する最良策で、これによって両国間の摩擦をな
くし、国際友好を継続させるものと確信する。