【新刊紹介】近藤綾・温浩邦『すぐ使える!トラベル台湾語』[評者:多田 恵]

■著者 近藤綾・温浩邦
■書名 すぐ使える!トラベル台湾語
■版元 日中出版 http://www.nicchu-shuppan.jp/2007_07_01.html
■体裁 四六判変形 200頁・CD付 
■定価 2,310円(税込)
■発売 8月3日


【8月4日 メールマガジン「台湾の声」】

美しく、正確な台湾語テキスト
近藤綾・温浩邦『すぐ使える!トラベル台湾語』(CD付き)

            評者:多田恵(台湾語メーリングリスト幹事、台湾語教師)

 戦後日本で出版された台湾語テキストの原点は、王育徳先生の『台湾語入門』、『台
湾語初級』である。両書を出した日中出版が四半世紀ぶりに、この7月20日付けで台湾語
テキスト『すぐ使える!トラベル台湾語』を刊行した。

 本書の特徴は、正確さと、よく練られた企画による総合的な美しさだ。語学テキスト
に求められる正しさと親しみやすさを兼ね備えている。

 これまで研究者の手によるものだけが、この正しさという基準をクリアしていた。一
方、親しみやすさを同時に実現することが課題であった。本書ではこの点が克服されて
おり、多くの学習者にとって福音となるであろう。

 美しいというのは、まず目に飛び込んでくる軽快でトロピカルなカバーデザインであ
る。マンゴー、スターフルーツ、レンブー、椰子の木などが描かれた中を、女性旅行者
がパールミルクティーを手に歩いている。これを見るだけで心地よいではないか! 本
文は、台湾のシンボルカラーであり、目にも優しいグリーンを基調としている。

 そして、簡潔にして最小限の文法説明。くどくどした説明がないのだ。台湾語学習者
にとって「転調」のルールが難関であったが、本書では「近藤式矢印声調記号」により、
その難関を飛び越えて、美しい発音を身につけることが出来る。

 台湾滞在中に出会うさまざまな場面で用いる自然なフレーズが、女性の細やかな心遣
いと、ネイティブの語感で精選してあるという点にも美学が感じられる。移動・宿泊な
ど旅行のシーン、グルメ、ショッピング、リラクゼーション、緊急事態、台湾人との付
き合いなど、台湾旅行を楽しむというコンセプトに貫かれた33課からなっている。各課
は6フレーズからなる本文にくわえ、関連表現として10フレーズ程度が紹介される。読
者はまた「コラム」、「ひとくちメモ」、「ポイント」によって台湾へ誘われ、現地の
人々とのコミュニケーションの手ほどきを受ける。

 各フレーズは、白話字(教会ローマ字)、漢字ローマ字交じり、カタカナ、矢印成長
記号で示され、本文であれば日本語訳だけでなく、台湾で使われている中国語による訳
もついている。つまり台湾人が台湾語の表記を学ぶテキストとしても使えるようになっ
ている。

 185ページもの情報があるのに、A5に収まり、約1センチという薄くて柔らかい本体
は、鞄のポケットやハンドバッグに入れて持ち歩けるコンパクトさ。これらが、一体と
なって美しいと感じさせるのだ。

 この本が、正確さと美しさを兼ね備えることが出来た秘密は、2人の著者の絶妙なコ
ンビネーションにある。代表著者である近藤綾氏は台湾原住民族研究者であり、本書の
企画はもちろんデザインにも積極的にかかわっている。

 イラストレーターとも密接に連絡を取って全体の完成度を高めた。1979年生まれとい
う彼女のセンスと繊細さが本書の美しさに貢献している。

 共著者の温浩邦氏も台湾原住民族研究者で、台湾語文献収集家の兄を持ち、日台交流
を積極的に進めている。CD吹き込みをしたネイティブも白話字使用者であり、著者の
意図を十分に汲み取ることが出来た。台湾語テキスト出版経験のある日中出版との連携
もうまくいったと見える。

 本書を手に取ったら、29ページの「アコン(おじいさん)」、「アマー(おばあさ
ん)」という単語のイラストをぜひ眺めてほしい。このイラストは実在の人物をモデル
にしている。

 近藤氏の母方の祖父は、文学博士にして台湾独立運動のリーダーであった王育徳先生
なのだ。その静かに燃えつづける台湾への愛を孫娘が引き継いでいる。そしてアマーが
彼女の台湾語学習を励まし、助けてきた。20歳から台湾語を学び始めたという近藤氏は
同時に日本人の視点から見た台湾の魅力を良く知っている。この背景と台湾人の思いが、
本書を美しい作品にまとめあげた。

 近藤氏の現在の勤務先の長でもある許世楷駐日大使も、「今までになく分かりやすく
使いやすい台湾語学習書。ぜひ本書を持って台湾に行き、台湾語を使ってみてください。
きっと台湾人との心の距離がぐっと近くなるはずです」と推薦の辞を寄せている。


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